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「お前ら、帰れって言ったよなぁ!」
なぜ?なぜ、俺達はここにいる?目の前の人は誰なんだ…?
何も分からない。
でも、ひとつだけ理解できる事がある。
逃げないと死ぬ。
脳が逃げろと警告をしている。それに反して身体はいう事を聞かない。足が動かない。
そうだ、他のみんなは?
後ろを振り返ると、みんなも同じように硬直していた。
たったひとりを除いて。
ゾムだけ、頬を高揚させ満面の笑みを浮かべていた。
【狂っている】
その一言に尽きる。
俺は震えながら口を開いた。
「ゾム……?」
「んふっ…やっと、やっと会えた!らだ男先生!!」
らだ男先生。
ゾムがそう笑顔で言った。その途端俺の脳裏にある日の記憶が浮かんだ。
あの、悲劇が起きた日の。
全てを思い出した。
おそらく他のみんなも思い出したのだろう。嘘だろ、猿山先生?などと声がする。
「…っ!!みんな走るぞ!!!!」
俺は大声を出して後ろに向かって走り出す。足音のかんじからみんなも走ってきているようだ。ゾムは、猿山先生…もといいらっだぁ先生に向けて何か話していた。
「らだ男先生…!!お、俺!!」
「久しぶりだな……ゾム」
流石に危ないと感じたトントンがゾムを急いで引きずりながら、俺達は職員室へ入った。派手な音を立てないようにそっと鍵を閉めて死角になるような場所で集まって話すことにした。
「ど、どういう事やねん!?」
「お、落ち着けロボロ!」
「…おい、ゾム。お前何か知っとるやろ」
「え、おん」
「教えろや、一体お前は何をしたんや」
「しっまちょっと顔怖いで?」
「ふざけんなや!俺は何したんか聞いとんねん!」
「ちょ、コネシマ!お前も落ち着けや」
「俺な、らだ男先生の呪いを解いたんやで」
「は…?」
「ちょ、ちょ、ゾムさん?今は真剣な話やで?」
ゾムから発せられた衝撃のセリフにみんな度肝を抜かれた。先ほどまで落ち着けと言ってきた大先生もトントンもパニックになっているようだ。俺はというと、嫌になるくらい冷静だ。どちらかといえば頭が真っ白になっている。
「お前、自分が何したんか理解出きとんのか?」
「当たり前やろ。それよりもみんななんでそんなに嬉しそうじゃないの?」
「嬉しいわけないやろ!!!俺達はあの先生に一回殺されたんやで!!!?」
「ゾムさん、ゾムさんにとっては嬉しい事かも知れんけどな、僕らにとっては悲しい記憶でしかないんや」
「……ん…で……」
「ゾム?なんか言ったか?」
「なんで!!!!なんで、みんなは!!!猿との楽しい思い出を無かったように話せるん!!!?みんなにとって猿は、怖いやつやったん!!?なあ!!!運動会のリレーは!?プールの授業は!!?なぁ!!なんで…なんで、楽しい記憶を忘れたように話してるん…?そんなに、猿の事嫌いなん……?」
ゾムの言葉に息を呑む。確かに、あの先生は俺達の担任だった。リレーの時は応援してくれた。ゴールの手前から一緒に走ってくれた。プールの授業で水をかけあって遊んだ。先生の服がびしょびょになって次の授業はダサいジャージで授業してみんなで笑った。
ゾムの言う通り、楽しい思い出も沢山あるのだ。ゾムにとってらだ男先生とは大切な存在だったんだ。だから、呪いを解いた。でも、ゾム以外にとっては怖い記憶が染み付いているのだ。
「…確かに楽しかったで。…でもな?俺達にとって、猿山先生は鬼の姿で殺してきた怖い存在なんや」
「……じゃあもういい……」
そういうとゾムはフラフラと立ち上がり職員室の鍵を静かに開けた。
カチャンと音がなる。
ゾムが裏口に向かって走る。
裏口を出れないように封鎖した。
俺は反射的にヤバいと感じた。
入り口からは血塗れのカマが覗いている。
「…ここにいたのか…お前ら〜!」
「っ!!!」
トントンが瞬時に近くにあった消化器を手に取り煙を出して猿山先生の方へ投げた。
シューーーーーーーッ!!!!!!
激しい煙と音をたてながら消化器がいい感じの煙幕になった。俺達はその隙に入り口から走って出る。
体力のない大先生をトントンが担いで2階に上がった。
「お前達〜!まて〜!!」
後ろから猿山先生の声が聞こえる。まだ、追いかけているようだ。ゾムは…何処にいるか分からない。もしかしたらまた妨害してくるかもしれない。
「おい!お前ら、ゾムが邪魔してくるかもしれへんから十分気をつけるようにするんや!!」
一応、注意喚起をしておく。みんなにも聞こえたようでそれぞれが反応した。
「誰に気をつけるん?」
ふと前から声がした。廊下のど真ん中にゾムが立っていた。俺達の進行を邪魔するように立っており手には何処で手に入れたのか鉄パイプを持っていた。後ろからは猿山先生が来ている。
「おいゾムゥ!!!!そこどけや!!!」
「んー?嫌に決まっとるやん。みんながらだ男先生の事好きになってくれへんから」
「お前だけでも好きになってやればええやんか!!」
「そーいう訳ちゃうねん。あ」
俺達がゾムと言い合っていると、後ろから来ていた猿山先生が追いついた。
俺達はゾムを押し切って走り出す。
しかし、大先生だけ遅れてしまった。
足が震えて動かないようだ。今から俺が走っても間に合うか分からない。だが、ここで諦めて逃げる訳にはいかない。俺は精一杯の大声で叫ぶ。
「大先生逃げろ!!!!!!!!」
大先生はその声にはっとし急いでこちらに走り出す。しかし、ゾムの手によってそれは叶わなかった。
咄嗟にゾムが足を出して大先生に引っかけたのだ。
それによって大先生は転んでしまう。
その時の顔はしっかりと脳裏に焼き付いてしまう。
大先生の恐怖で歪んだ、顔。何か喋っていたがこちらには聞こえなかった。涙を流しながら必死に大先生は喋っている。
チャンスを逃すまいと猿山先生が大先生に向けてカマを振りかぶる。
ザシュッという音と共に目の前が赤に染まる。
赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤
生暖かいナニカが俺の顔につく。
震える手でソレを触る。
ベタベタ。ヌルヌル。
手を顔の近くにもってくる。
アカイナニカが目に入る。
「ぁ…ぁぁ…」
ふと目の前が真っ暗になる。床に倒れる感覚がした。
あたりではゾムと猿山先生の話し声が聞こえる。
「…あ、れ、、?ゾム、お前…!もしかして……」
「んふふ!気づいた?誰かを犠牲にせんと呪いは解けない…だったら自分を犠牲にせんとなぁ?」
「っ……ゾ、ム、お前……」
「じゃーね、らだ男先生!」
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神社の中。次の鬼になるための準備をする。
やっと、呪いを解けた。大先生には悪いけど檻にはいってもらった。先生の鬼化も解けた。みんなと先生は保健室で寝ている。シッマについちゃった血はしっかり拭いておいた。ごめんね。
次の鬼は僕。
「みんな、ぼくと遊んでぇや?」
日本刀を片手に神社から出る。服はいつもと同じ。だけど、口からは少しだけ犬歯がはみでている。鬼になった証拠らしい。
「お気をつけて…無理をせずに帰ってきてくださいね。では、ご武運を」
神社の中には謎の執事さんもいた。多分この人がいたから、らだ男先生は暇が潰せたんだと思う。なかなかに話の合う人やったからな!
さて、みんなもそろそろ起きたころやろ。
あ、大先生の顔見てからいこ。
「だーいせんせっ!元気しとる?」
「ヒッ…ゾ、ゾム、さん……ど、どしたん?…その姿……」
「あ、これ?これねぇ、よー分からんけどなっとったんや!かっこええやろぉ」
「う、うん…なかなかに良い格好…やね…はは」
「じゃあ、ぼくもういくね!ばいばい〜!」
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保健室ではみんなの話し声が聞こえた。起きたみたい!よかったぁ。そうだ!シッマに謝っとかんと…!
…あ、いたいた!
なんかみんな顔が真っ青やなぁ。どしたんやろ?
「ごめんなぁシッマ…血で汚れてもーたやろぉ。本当は汚すつもりなんてなかったんや…」
「………でてけや……」
「そんなに嫌やった…?ごめん…気をつけるね…」
「だから、でてけ言っとるやろ!!!バケモノ!!!」
バケモノ。
その一言にプツンと何かが切れる感じがした。
「……バケモノ……ぼくは……バケモノちゃう!!!」
手に持っていた刀をシッマに向けて振る。
ザシュッ
という音と共にシッマが倒れる。
みんなの顔が引き攣った。
「なんで…なんで、みんな、ぼくのとこそんな顔で見るの?僕は遊んで欲しいだけなのに…」
「お、落ち着け…!ゾム、ほら遊んでやるから!」
「……ほんまに?…ほんまに遊んでくれる?」
「本当に決まってるだろ?俺が嘘ついた事あった?」
「いっぱい…」
「うぐっ…まあ、でも今回は本当だって!」
「じゃあ、鬼ごっこしよぉや!ぼくが鬼でぇ、みんなが逃げる!じゃあいくでぇ…よぉーいすたぁーと〜」
なんだか意識がふにゃふにゃする。だけど遊んでくれるからいいや。みんな走って逃げたからぼくは取り敢えずシッマを檻に入れてから追いかけることにした。
「せいぜいがんばってぼくを楽しませてなぁ?」
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次回「逆転・再び」
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1話沢山のいいねありがとうございます!
コメント
7件
投稿お疲れ様です! さっきまでらだ男先生だったのに、猿って言ってて 笑っちゃいました笑
んほぉ(?)