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ホー……、ホー……、ホー……。
……何かがどこかで鳴いている。
元の世界でもいたなぁ、あんな鳥。名前は……何だっけ。
今の時間は20時過ぎ。
乗り合い馬車は今日の移動を終えて、全員が野営の真っ最中だ。
乗客たちは、焚火を囲んで思い思いに過ごしている。
御者たちは、馬の近くで何やら作業をしている。
用心棒たちは、休息を取りながらも周囲を警戒している。
パチパチと音を立てる焚火を眺めながら、何ともなしにルークに話し掛ける。
「やっぱり火は良いねぇ……。うん、心が安らぐ~……」
「そうですね。不思議と落ち着きます」
「だよねぇ~……」
特に中身のない会話。
その会話もすぐに終わり、引き続き焚火を見つめることに。
……街の外で迎える夜。
野営を始めてすぐのときは、例の夜……ヴィクトリアに殺されかけた夜のことが、何度もフラッシュバックしていた。
あのときは誰も周りにおらず、生命の炎が消えていくのを身をもって味わった。
しかし今日の野営にはたくさんの人がいるし、私を温める炎も目の前で燃えていてくれる。
……やっぱり独りだと何も出来ないし、寂しいよね。
私の旅はまだ始まったばかりだけど、これから色々な出会いが待っていると良いなぁ……。
そんなことを考える私を、焚火の温もりが眠りの世界へと誘っていく。
うつら、うつら―――
「……む?」
不意に、すぐ横から声が聞こえた。
「ルーク、何か言った?」
「はい。少し離れた場所に……何かがいますね」
「え?」
急にそんなことを言われると、当然ながら怖くなってしまう。
ルークとは違って、私は音も気配も感じていないのだから。
「用心棒の方に知らせて参ります。アイナ様はここでお待ちを」
そう言うと、ルークは用心棒の方へと向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
15分も過ぎた頃、ルークがようやく戻ってきた。
「遅かったけど、どうしたの?」
「私たちを遠巻きに狙っている魔物がいるようです。
しばらく様子を見ていたのですが、どうにも動きが無いので……討伐することになりました」
「え、大丈夫?」
「気配は一匹なので、問題ないと思います。
しかし辺りがもう暗いので、時間を掛けずに一気に倒そうということで――
……私も参加することになりました」
「ルークも?」
「この辺りの魔物には遅れを取りませんので、アイナ様は安心してお待ちください」
私が頷くと、ルークは用心棒たちと一緒に暗い森に消えていった。
……おお、何だか急に心細くなってきたぞ。
そういえば、ルークってどれくらい強いんだろう?
街門で守衛をしていたくらいだから、一般の人よりはずっと強いと思うけど……。
見学しに行ったら、絶対に足を引っ張るパターンになるだろうなぁ。
……ここは大人しく我慢をしておこう。
同じ場所をくるくるまわりながら待っていると、風に乗って遠くの方から声が聞こえてきた。
(うお、コイツは――)
(ちょっと待て! 何でこんなところに――)
……魔物を見つけたのかな?
(大丈夫だ、一気に攻めろ――)
(ちっ! 足を取られた――)
(ぐわぁあっ――)
……えぇ? あれ?
ちょっとヤバくない……?
(大丈夫ですか――)
(すまない、ここは良いから――)
(私が行きます、この方をお願いします――)
お……、あれはルークの声だな。
……。
…………。
………………。
声は聞こえなくなってしまった。
続きが気になるんですけど……っ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しばらくすると、ルークが用心棒の一人と戻ってきた。
用心棒は慌てて馬車に乗り込み、何かを探しているようだ。
ルークは途中までそれを眺めていたが、少しするとこちらにやって来た。
「おかえりなさい。どうだった?」
「はい、魔物は倒したのですが、用心棒の一人がやられてしまいまして」
「え、大丈夫?」
「どうやら強い毒に侵されてしまったようです。
移動するのも辛そうなので、毒治癒ポーションを取りに戻りました」
毒にも色々あるだろうし、これは心配だね。
……というか、私が行けば解決するんじゃない?
「私も行こうか? ほら、鑑定スキルも持ってるし」
「そうですね……。
それでは申し訳ないのですが、お願いできますか?」
「うん、分かった」
毒治癒ポーションを手にした用心棒と合流して、私たちは怪我人のところへと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい、大丈夫か!?」
「……ああ、何とか……」
用心棒は、毒治癒ポーションを怪我人に飲ませた。
「これで治ると思うが……」
彼らが話をしている中、私は怪我人に鑑定スキルを使ってみる。
毒はちゃんと治ったのかな?
えぇっと――
────────────────────
【状態異常】
疫病8172型
────────────────────
は?
……えきびょう、はっせんひゃくななじゅうにがた?
あれ? 毒じゃ……ないの?
頭に疑問符を浮かべながら怪我人の様子を確認するが、毒治癒ポーションの効果は見られない。
そもそも毒でないのであれば、毒治癒ポーションの効果は無いわけだけど――
……というか、この疫病って何なの?
かんてーっ!
────────────────────
【疫病8172型】
未発見の病原体がもたらす致死性の疫病。
一般的な毒の症状を伴いながら体力を奪い続け、死に至らしめる。
空気感染により影響範囲を広げる
────────────────────
……マジですか。
「おい、しっかりしろ!
くそっ、もっと効果の高い毒消しが必要なのか!?」
「ねぇ……、ルーク」
私はルークに、小声で話し掛ける。
「アイナ様、どうされましたか?」
「あれ、毒じゃない。……疫病みたい」
「疫病……ですか? そうすると薬は――
……それに、もしかしたら私たちも!?」
その可能性は十分にある。
しかし、疫病にかかっているかは私が鑑定すれば分かるから良いとして……問題は、治すことが出来るかどうかだ。
何かしらの薬は作れないかな……?
私はユニークスキル『創造才覚<錬金術>』に意識を傾けてみた。
――……。
……む、むむむ! 何も浮かばない!!
それはつまり、手持ちの素材だけでは作れないということだ。
それじゃどうしよう? うーん、うーん……。
いや、でも何かが引っ掛かるんだよね。
何だろう、何かを見落としているような――