お腹いっぱい。スマホを弄るのも飽きたから、 手持ち無沙汰になって隣にいるぷりちゃんを眺める。
ぼぉっとその横顔を見ていると、目を細めて「ん?」と首を傾げられる。しっかり見た事なかったけどかっこいい顔してるな…
「莉犬くん?」
いつもみたいに『莉犬きゅ〜ん!!😆』ってふざけてる時はとっても可愛いけど、基本的にぷりちゃんは落ち着いている。俺とぷりちゃんはこういう時、わしゃわしゃ戯れるような距離感にはいない、ころちゃんやるぅちゃんとはなんか違う。
頭の中でぷりちゃんを思い浮かべてみる。
「莉犬くん!」。そういって微笑む可愛い顔。最近は艶のある微笑みが多いな。大人な表情。そうそう、今みたいな…
ふに、と柔らかいものが唇に押し付けられて、飛んでいた意識が戻ってきた。
目の前には白い肌をうっすら朱に染めたぷりちゃんがいた。 その後ろにはそうまくんが伸びている。向かいにはちぐちゃんとけちちが、肩を寄せあって壁にもたれて眠っていた。なーくんはもう帰ろうかとスタッフに電話しに行ってしばらく帰ってこない。
そうだ、いま…
ここは、撮影の打ち上げできた料理屋さんだ。 そこで自分の唇に触れたのがぷりちゃんのそれだとやっと気付く。
「え?」
俺のこと関わる前から好きでいてくれていたぷりちゃん…けど、 これは簡単に容認できない
「なんで…」
誰にも気づかれてないし、メンバーはみんなぴくりとも動かない。個室だから他の誰かに聞かれることもない。疑問を投げかけると、長い足を折りたたんでぷりちゃんは小首を傾げた。
遠くで微かに店員の声が聞こえる。
「わかんないですか?」
泣きそうな声。
そういえば、2人で話すのは久しぶりだなと思った。それに、泣くのを堪えるような顔は初めて見た。
「え?」
泣かせたくなんてない。でも『わかってた』って言ったらダメだと思ったからとぼける。
ぷりちゃんが俺をどう思ってるかなんて、本当はずっとわかってた。あんなに見られてたら俺だって気づくよ。
なーくんはまだ帰ってこない。
「莉犬くんが好き、」
長いまつ毛の生え際が見える距離まで近づくのを認知したけど、あえて避けなかった。
もう一度重なった唇。
触れ合った熱さと、お酒の匂いを感じて眉を寄せる。酔ってる?
ぷりちゃんの体を軽く押し返す。
「…酔ってないですよ」
「え、…んぅ」
先読みされて、また押し付けられる。
片方の手が俺の後頭部を支えて、さらに深く捕らえられた。その手も熱い。
ぷりちゃんなら俺じゃなくてもいいのにな もっと楽に、自由に、きっと素敵な人と付き合えるのに。 そう思いながらも、だんだんとぷりちゃんの熱にあてられる。
これ以上はいけない。
ただ、後頭部を痛いほど掴んでいて抜け出せそうになかった。遠慮がちだった所作も、俺が応えたことで水を得た魚のごとく大胆になる。
息をする時間も与えられないキス。
心地良いというよりは、ちょっと苦しい。
軽く体を押すけどまったく意味をなさなかった。
それどころか、もう片方の手が床から腰に移動して半分俺に乗ったような状況になる。しかも意味ありげにその手が体を滑り出すから、流石に許容できない。
ぷりちゃんには悪いけど、唇に歯を立てる。
「っ…った、」
突如襲った痛みに驚いたぷりちゃんが体を引いた。上気した白い肌。口元を人差し指と中指で抑えて、パチパチと瞬く瞳。
「もっと場所考えてよ…」
息を整えつつ、できるだけ優しくそう伝える。
ぷりちゃんは目を伏せてコクリと頷いた。そして俺の表情に怒りや哀しみが浮かんでいないことを確認した後、緊張をほぐすように濡れた唇をさらに湿らせた。
「莉犬くん…?」
バツが悪そうなポーズは取るくせに、どこか期待してる目が俺の行動の真意を探る。
俺を推しとして見てるだけじゃないって気づいて、わざとぷりちゃんを避けてた。周りからわからないくらいさりげなく。それが正しいことだって分かってたから。
でも、いつからか。
自分で遠ざけたくせに、むしろもっと焦がれ、ぷりちゃんが気になるようになった。
たとえそれが間違ってても、それでもぷりちゃんがこの壁を乗り越えてきたら、とか、その時俺は、とか妄想しながら。
バタバタと廊下を走る足音の後、ふすまがスパンと小気味良い音を立てた。
「スタッフさんもう来るって。莉犬くん、ぷりちゃん、みんなを起こして」
なーくんが戻ってきたから、甘い時間はおしまい。さっと立ち上がってなーくんに電話ありがとうとお礼を伝える。
ころちゃんを起こしたら、まあまあ酔っ払ってて、「莉犬くんだけだよ〜」と軽く抱きついてきた。
その重みを支えた先に、座敷に座り込んだままのぷりちゃんがいる。上目遣いで下唇を噛んで、不服なのを隠そうともしない。 『あれで終わりなの?』『なに二人で抱き合ってるの?』って声まで聞こえてきそうだ。
わかりやすすぎる。
「今度、2人で出掛けようね」
視線を外さずに言ったのに、ますます膨れるから伝わってないなと思った。目先の出来事に囚われると本質を見失うよ、ぷりっつくん。
ころちゃんが喚くのを自分の胸に押さえつけて、ついでにその耳を塞いでから、
「俺も好きだよ」
って伝えた。
そうしたら、自分の心臓がトクトクと血液を送り出して、ああ、俺はずっとぷりちゃんにこうやって言ってあげたかったんだと理解する。
今度は伝わったらしい。
鼻を擦って何度か頷いた後、気持ち良さそうに寝てるけちちのお尻を意気揚々と蹴りだしたから笑えた。
コメント
5件
何回も読ませて貰ってるけど本当に天才だと思う!! 最高!!!
ぶくしつです!
ブク失です!