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あの子になりたい。そう、願うようになったのはいつからだっただろう。
キーンコーンカーンコーン
いつも通りの退屈な日常。終礼のチャイムと共に、生徒がいっせいに動き出す。
「授業だりー」「もーすぐテストじゃん」「今日カラオケ行かね?」
そんな言葉を耳に挟みながら、私も友達に囲まれる。
オシャレで明るい、いわゆる一軍女子。そんな生活に退屈を感じ始めたのはいつからだっけ。
「桃華のそのヘアピン可愛いー!」
「桃華ってほんとオシャレだよね!」
そんな言葉に、
「やだ、そんな事ないよ。これはたまたまオシャレな雑貨屋さんを見つけたから」
と笑ってみせる。嘘、本当はみんなに可愛いって言ってもらうために何軒も雑貨屋を回ったの。そんな心の声を押し隠して。
ふと、視線をずらすとあの子がいた。
水崎雫。クラスでもずっと1人で、何だか難しそうな本をいつも読んでいる子。成績も学年首席の優等生。
1人で、寂しくないのかな。そう思うけど、その生き方がなんだか私にはとても眩しくて羨ましくて、
「あの子になりたい」
心の中で呟いたのに、かすかに口から漏れていたのか
「桃華、何か言った?」
なんて聞かれてしまった。
「なんでもないよ」
と笑ってみせると、話題はすぐに別へ移る。
「今日、ファミレスで勉強しない?テスト近いし!」
「あ、いいねぇ。今回こそは赤点抜け出したい!」
そんな言葉を聞き流しながら校門の方に視線を向けると、今まさに出ていこうとしている水崎さんがいた。
「どうせなら賢い人誘おうよ、ちょっと待ってて」
咄嗟に出た言葉と動いた体。戸惑う友達を放置して、水崎さんのもとへ走る。
「おーい!水崎さん!」
私の大声に驚いたのか反射的に振り返ってくれる水崎さんはやっぱりいい人だ。
「…桜木さん。どうしたの?」
「水崎さん、確か勉強得意だったよね?
良かったら一緒にファミレスで勉強してくれないかなあ?」
「…別に、良いけど」
戸惑ったように視線をうろつかせながら了承した彼女はいつもの凛とした姿とは少し違っていて、なんだか少し可愛かった。
ファミレスで
「水崎さんの教え方すごくわかりやすい!」
「水崎さん…って呼ぶのなんか、呼びづらいから雫ちゃんって呼んでもいい?雫ちゃんって真面目なんだと思ってたけど結構面白いよね!」
そんなたくさんの声に囲まれて、
「ね、テスト終わったら打ち上げいかない?カラオケとか?」
「いいね、楽しそう!雫ちゃんも行くでしょう?」
そんなふうに取り囲まれる彼女は最初は困ったように笑っていたけど、
「…ふふっ、ここにいるみんなが赤点回避したらね」
その笑顔に目を奪われた。
いつも凛としていて孤高の存在だって思ってた。だけど彼女も1人の普通の女の子なんだってその時気がついた。
「…ね、水崎さん。これからも仲良くしよっ!」
そう笑いかけると彼女は驚いた顔で視線をうろつかせたあとで嬉しそうな笑顔で頷いた。
これから水崎さんはどんな姿を見せてくれるんだろう。
咄嗟にかけた言葉と動いた行動で、なんだか楽しいことや素敵なことが起こるような、これから何かが始まる予感がした。