今回は曲パロです!
ウミユリ海底譚です!
ペア青組
『海中列車と、泣き止んだ空』
ホームに吹き抜ける風が、
ほとけの髪をなぶった。冷たい空気にまじって、涙の匂いがした。
「……来ないんだね、やっぱり」
電光掲示板の「最終列車」の文字が、ひどく現実的で、
どうしようもなく彼女を引き戻す。
ひとりで立つには広すぎるプラットフォーム。
手袋のない指先がじんじんと痛むたびに、
いふの手を握っていた日々がフラッシュバックする。
——“海の底で、ふたりきりだったらよかったのにね”
あのとき、彼がふざけたように言った言葉を、
彼女だけがずっと、本気にしていた。
「ごめん、って言ってくれたら、それでいいのに」
「帰ってきてくれたら、なんでもよかったのに」
誰もいない駅のベンチに腰掛けて、
ほとけはカバンから小さなスケッチブックを取り出す。
ふたりだけの秘密、ふたりしか知らない“空中散歩”の地図が描かれている。
「何度だって、迎えに行くよって、言ったじゃん」
不意に、ホームの向こうから足音がした。
風の音に紛れて、擦れた息遣いと、乱れた足取り。
——まるで、走ってきたような。
「……いふ?」
「ああ……間に合った、か……?」
声が震えていた。
目の下に青い影を落とした彼は、はあ、と大きく息を吐き、
自分の頬をぱしんと叩いた。
「来るなって言ったのに……」
「うん。でも、“来いよ”って顔してた」
「……最後くらい、ちゃんと顔、見たくて」
「バカ……」
「……でも、うれしい」
ほとけは立ち上がって、いふの胸に顔を埋めた。
ぎゅっと、ぎゅうっと、音がしそうなほどに。
「ねえ、覚えてる? あの夜言ってくれたこと」
「うん。“君が泣くなら、僕も泣く”ってやつだろ」
「それもだけど。『愛してる』って」
いふの肩がびくりと揺れた。
「……嘘だった?」
「違う。今でも、ずっと……ずっと、そう思ってる」
「じゃあ、どうして……っ」
電車の到着を告げる音が、ふたりの言葉を断ち切った。
けたたましいブレーキ音と、ドアの開閉音。
もう、行かなくちゃ。今度こそ、戻れなくなる。
「いふ」
「……ほとけ」
「もし、生まれ変わっても——」
「会いに行くよ。空でも、海でも。どこにいたって」
その言葉だけが、ほとけの心に残った。
引きちぎられるように電車の中へ乗り込む彼を、
泣きながら見送った。
—
しばらくして、
彼女はふと、改札口の壁に貼られたメモに気づく。
《君の歌は、ちゃんと届いてたよ。》
震える指でそれを剥がし、胸にしまう。
「バカ……ほんと、バカ……」
それでもほとけは、微笑みながら呟いた。
「ありがとう。いふ」
夜空は泣き止んでいた。
あの日の涙のあと、星がひとつだけ輝いていた。
コメント
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ワタシウミユリダイスキ テンサイデスネ
うわああああああああああ😭 ウミユリ好きすぎるッッ!!!!!!!🫶