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大きなバイクにはねられて、俺は死んだのかもしれない。
親友と遊んだ日の帰り道。大きな交差点に差し掛かり、青信号で横断歩道を歩いていたまさにその時だった。頭は冷えているのにお腹が妙に熱い。
サイレンの音と周りの人の声、だんだん遠ざかっていく。
気づいたときには見覚えのある家のリビングに横たわっていた。
ただここ、僕の家じゃない。
遊びに出かけた親友の、翠の家だ。
何でこんなところにいるんだろう、不思議に思って体を持ち上げるとやけに目線が低い。
立ち上がってみても凄く目線が低い、近くにあった姿見に自分の体を写してみるとそこにいたのは僕じゃなかった。
翠の愛猫、アオだった。
シュッとした顔にピンとたった大きな耳、コバルトブルーの目がすごい綺麗な美猫。
自分の置かれた状況が全くわからない、夢なんじゃないかと思って柱に頭をぶつけてみても頭が割れるような痛みが走っただけ。
夢じゃ、ないんだ…。
そんなことをしていると玄関ドアの開く音がしておじさんとおばさん、それに翠が帰ってきた。
翠は僕のいるリビングに入ってくることなく、階段を上がって自室に帰ったようで姿を見ることは叶わなかった。
それから暫く、翠は必要最低限以上に部屋から出ないようになった。
食事だっておばさんに運んでもらって部屋で食べてるみたいだ。
僕は我慢できなくなって翠に会いに行くことにした。
階段を登って廊下の一番奥を目指す。
平仮名で「あきら」と書かれたプレートが吊るされているこのドアこそ、翠の部屋絵への唯一の入り口なんだ。
とはいえアオの体重じゃドアノブを回せないし、なれない体でそんな器用な真似ができるはずもない。
だから僕は部屋のドアをカリカリと少し出した爪で小さく引っ掻いた。
すると案の定薄く扉が開く。猫は頭が入りさえすればどんな隙間にも入り込める。頭ほどの幅になった隙間からスルリと中に入り込んだ。
その日から翠の部屋のドアはアオの頭のサイズ分だけ常に開かれていた。
毎日毎日欠かさず決まった時間に翠の部屋に入って翠の側によっては寝床に入るを繰り返す。
きっと翠は僕が事故にあったことが自分のせいなんじゃないかと思っているだろう。そんなことはないのに要らない責任、要らない心配事まで背負い込んじゃう人だから。
きっと僕が迎えに来るのを待ってるんだ。
だから僕は毎朝君を迎えに行くよ翠。
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