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僕らは一度、国王 キングに、任務の報告をしに戻ることにした。
次の国へは、ガロウさんが、もう一人の仙人が守護の国近郊に住んでいるらしく、全員を仙術魔法 神威で空間移動させてくれることになった。
僕にもそんな能力があるかと思ったら、仙人ほどの力は使えないらしく、一緒に行けても一人、つまり僕を含めて二人までが移動可能らしい。
そして、洞窟を出た瞬間、異変が起こる。
「ああ……全部理解した……ごめん……ごめんよ……」
お子様な様で、なんだかんだ空気を読んで沈黙を極めていた水の神 ラーチは、突如としてワナワナと震え出す。
「ど、どうしたんだ……? ラーチ……?」
すると、目を大きく見開き、その双眼は蒼く禍々しく輝き、僕に向き合う。
「今から僕の言う通りの想像をして、僕をその仙術魔法で一緒に連れて行って貰えるかな?」
ラーチからは異常なまでの憤りを感じた。
僕は唖然とし、素直に指示に従った。
“仙術魔法 神威”
見たところ小さな島国で、草木も生えない孤島。
「こ、こんなところに何の用が……?」
「後で説明するよ。一度戻っていいよ。と言うか、戻らないとヤマトくん死ぬよ。五分後に戻って来て」
僕は冷や汗をかき、何も聞かずに指示に従った。
「あ、ヤマト。ラーチさんはどうしたんです?」
「いや、僕にもよく分からない……。小さな孤島へ行ったかと思えば、僕を直ぐに引き返させて、また五分後に戻って来てくれ……とだけ言われたんだ」
全員が俯く中で、アゲルは微笑み掛ける。
「やれやれ、皆さん。揃ってお暗いですね。龍族の一味も追い払い、ヤマトは僕ですら知らなかった新魔法を得たと言うのに!」
「いやだって……緊急事態っぽいし……」
「考えても仕方のないことを考えるのはやめましょう! 特にヤマトは新しく知ることばかりなのですから!」
誰のせいだよ、とツッコミたいが、今はその明るい空気が少しだけありがたく感じた。
「そうね、暗くなりすぎてても仕方ないわよね。私、昨日ヤマトから色んな話聞いて、カナンちゃんとホテルで過ごしてた時に、カナンちゃんから沢山元気を貰った。ドレイクのことも色々知った、洞窟でもすごい話をしてて、私には場違いな場所なのかも……とも思った。でも、ヤマトがちゃんと話してくれたから。みんながよければ、私はこれからもこのパーティで旅をしたい……!」
セーカは、カナンからどんな元気を貰ったのか気になるところだが、昨日のことは吹っ切っれたらしい。
精神面もとても強い女の子だ。
「僕の方こそ、改めてよろしく頼むよ! セーカ!」
僕らが熱い握手を交わす中、アゲルは怯えた顔で僕をまじまじと見つめていた。
「ヤマト……セーカに異郷者のこととか、僕が天使だってこととか、話したんですか……?」
動揺を露わに、声を震わせている。
「え、だ、ダメだったか……?」
まさか、この世界の人間が知ってしまうといけないこととか、セーカがどうにかなっちゃうとか……。
「いえ、全然大丈夫です。と言うか、ダメなら洞窟内での会話も聞かれちゃまずいですよね」
そう言うと、ベロを出して笑った。
コイツ……わざとやったな……。
「ただ、公言はし過ぎないでください。何かあるわけではないですよ。ヤマトが、信頼できると思った相手であれば話して頂いて構いません」
「なんだよ……不安にさせんなよ〜……」
キョトンとするセーカは、更に付け足した。
「そう言えば、ホテルにいた時に急にカナンちゃんが『緊急要請ー!』って叫んだのよね……。で、カナンちゃんの案内で着いて行ったら、なんか危険な状況で……」
「そうだ! カナンにはセーカと留守番するように言ってあったのに、なんで来ちゃったんだよ!」
「だってアゲルから『きんきゅーよーせー』って……」
カナンは珍しくしょぼんとした顔を見せた。
「ヤマト、事情も聞かずに責めてはいけませんよ。それに、カナンちゃんを呼び出したのは本当に僕なんです」
「どう言うことだ? そんな遠隔で通信する魔法とか機械とか、そんなの持ってないよな……?」
「以前、自然の国で『魔法に制限を掛けられている』と言う話をしたのを覚えていますか? ヤマトが力を得る度に、同行する僕の制限が、ゆっくりと弱まっているのです」
「と言うことは、アゲルの新魔法ってことか……?」
「はい。“光魔法 スルース” と言い、念じた相手と交信することが可能です。ただ、これには一つ、難しい条件があるんです」
「便利そうだけど、やっぱ条件付きか……」
「まだまだ制限が多いもので。その条件ですが、僕から一方的に念じただけでは交信できないことです」
「ん? つまりどう言うことだ……?」
「そうですね、例えば今回、カナンちゃんとの交信が成功したのは何故かお話します。僕は出発前に、カナンちゃんに一言伝えておいたんです。『僕たちが危険な際には、カナン隊員に出動要請が入ります。《きんきゅうようせい》と言う《言葉》を常に考えていてください』と」
「なるほど。互いが『緊急要請』と念じることで、交信が成功したってことか」
「はい。一度交信が成功すれば、的確な僕の位置も分かるんです。今回は本当に助かりましたね」
「カナン……いきなり怒ってごめんな。実際、カナンが来てくれなかったらヤバかったな……」
「カナン、えらい?」
「ああ、めちゃくちゃ偉い! ありがとな!」
「それでは、僕らも話がまとまりましたし、そろそろ五分経過する頃です。向かってみてください」
「よぅし……。ちょっと怒ってるラーチ、めちゃくちょ怖いけど、行ってくる……」
そして、僕は再びラーチの元へ戻った。
「あ、ヤマトくんおかえり!」
ラーチは、明るいラーチに戻っていた。
そして、後ろには例の守護神 ロロもいた。
「あれ? なんでロロさんも……?」
「うん。話は帰ってからするよ。ちょっと大変だけど、ヤマトくん二人分行き来して貰ってもいいかな?」
「わ、分かった……」
僕は言われた通り、二人分の行き来をした。
そして、ロロさんを送り届けた瞬間に、僕の意識は薄らと消えて行き、地面に伏した。
目覚めると、アズマさんが僕を治癒していた。
「あれ……僕、なんで気絶を……」
「魔力の使いすぎです。ただでさえ戦闘で沢山攻撃魔法を使用したのに、仙術魔法も何度も使ったからです。聞くところによると、仙術魔法は本来の属性魔法よりも大幅に魔力消費が激しいとか。多用は禁物ですね」
そして、ラーチは「ごめんね」と舌を出した。
まあ、ラーチが元気になったならよかった。
アズマさんの治癒魔法は凄い。
どんどん回復して行き、直ぐに歩けるようになった。
「ふう……。治癒があるからと言っても、あまり頼り切りにならないでくれよ。俺の治癒も仙人様の指導で手に入れた扱い方だから、相当の負担なんだ」
「アズマさん、ご迷惑おかけしました……」
そして、「少し急ぎたい」と言い、ラーチは自由の国へ戻りながら事情説明を始めた。
「本当だ……」
僕らが門兵に話を聞くと、博士長の名前はドレイクではなく、ナーザと言う別の人の名前に変わっていた。
「これが、龍の加護を用いた幻影魔法……こんな……神すら欺けるなんて……」
七神は、自分の守護神の居場所が分かる。
自由の国には、ドレイクの他にも龍族の一味が潜んでいたのだ。
それも、守護神 ロロに成り代わって。
「僕が遊び歩いてないでもっと早くに気付いていてあげられたら……怖い目に遭わせずに済んだのに……」
ラーチは、徐に苦い顔を浮かべていた。
きっと、ドレイクが逃げる際、仲間にも伝え、全ての幻影を解いたのだろう。
掛けられていた幻影の内容は二つ。
『ドレイクが博士長である』と、神を含む全国民が認知していると言うこと。
そして、『水の神ラーチに、連れ去られた守護神 ロロの居場所が分からないようにする』と言うこと。
国民全員を騙し、神の目すらをも欺く、これはもう龍の加護の力なくしては到底叶うはずがない。
せめてどんな奴が幻影魔法を用いたのか、顔だけでも拝みたかったが、既に逃げられた後のようだった。
国王 キングへ任務の話に行ったが、悪鬼の任務があったことさえもが消え去っていた。