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いつか殺してくれるその日まで

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いつか殺してくれるその日まで

1 - いつか殺してくれるその日まで

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2024年08月03日

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あの日、私は神様を見た。

暗い部屋に一人で閉じこもったままの私を救い出してくれた神様を。

それは夢物語や妄想なんてあやふやなものではなく、確かにそこにいた。

私だけの神様。


地下を脱出した後、私は施設に保護され、ザックは警察に捕まった。それから私は毎日大人たちに囲まれ、事情聴取やカウンセリングを受けた。私のメンタルを考慮してか、大人たちは壊れ物でも扱うかのように私に接した。それは紛れもなく大人たちの私へ対する優しさ。でもそんなの心底どうでもよかった。

私にとってはザックが全てだった。あの誓いをしてからずっと。他のことなんてどうだっていい。大人たちも。地下にいた他の殺人鬼たちも。みんな私にとって不要な存在。大事なのはザックか、ザック以外か。ただそれだけだった。

ねぇ、ザック。どうしてあの時私を連れて逃げ出したの?あそこまで来ていたら、もう私の手助けがなくてもザックなら一人で出られたはず。私を置いて行けば捕まることもなかったのに。どうして?

…..そんなの私が一番よくわかっている。ザックは純粋に私との誓いを果たそうとしたんだ。彼はそういう男だ。

捕まっちゃったら意味ないのに……。


ザックに死刑判決が下されたことを聞かされたのはそれから間もない頃だった。

ザックのことを信用していなかったわけじゃない。彼ならきっと私を殺しに来てくれるとずっと信じて待っていた。だけど死刑宣告されてしまった今、一体どうやって私を殺しにくるというの?きっと警備だって通常の何倍も堅くなっている。そんな中、本当に脱獄して私の元まで辿り着けるの?

悪い妄想ばかりが頭の中を駆け巡る。もしこのまま私の所まで来れなかったら?私を殺す前にザックが死んでしまったら?

そんな私の絶望とは裏腹に大人たちは喜んだ。

「良かったわね、レイチェル!これで恐怖の元凶が消えるわ。あなたは晴れて自由の身よ!」

……。

良かった?自由?この人たちは一体何を言っているの?私にとって、この世界で生きていることこそが不自由そのもの。ザックに殺されないかぎり、私は一生自由になんてなれない。


その日の夜もなかなか寝付けずにいた。理由はわかっている。ザックの事だ。でも私がいくら考えたところで判決が変わるわけではないし、結果は同じだ。もう目を閉じるしかなくなったんだ。

布団を被り、ゆっくり目を閉じかけたその時だった。

ドン! ドン!

窓の方から勢いよく叩く音。

「何の音なの?!レイチェル!!」

施設の人じゃない…..?だったら…..

私は瞬時に理解した。窓の外に誰がいるのか。

「よけろ」

そう、この声は夢にまで見た

「早くそこを開けなさい!レイチェル!」

ずっとずっと待ち続けていた人。

パリン

「よぉ」

月明かりを背に、窓ガラスを割って入ってきた彼は

「あーあ、お前またつまんねぇ顔してやがんなぁ」

神様そのものだった。

だからと言って、あの頃のように本気でザックを神様だと思い込んでいるわけじゃない。今目の前にいるのはザックで、人間だ。でも、私が心から信じてるいのもまたザックだけ。ザックは神様と呼ばれることを嫌がるだろうけど、私は悪い事だとは思わない。信じて良いことだってある。私の場合、それがザックだったというだけ。だからザックが神様だというのは心の中に留めておくことにした。人間のザックも神様のザックも、どちらもザックだということに変わりはないから。


それからというもの、私たちは人目を避け、ひっそりと暮らしている。長年使われていないボロボロになった小屋だけど、今の私たちにはこれで十分。基本的に家事全般は私がこなしている。ザックに任せるとろくな事にならないから。当のザックはというと、時折どこからか食料を調達してきてくれる。

…..買っているとは思えないけど。

でも普通の人みたいな生活は初めてで、なんだか新鮮だった。両親と暮らしていた頃は、家族仲があまり良くなかったから、縫って「直してあげる」ことしかできなかったけど、今はそう感じることもなくなった。

それだけじゃない。ザックの事も色々知るようになった。好きな物、嫌いなもの、癖、過去のこと。最初はあまり話したがらなかったから詮索はしなかったけど、最近は少しずつ話すようになってきた。火傷のこと、施設のこと、お爺さんのこと。

だから私たちで庭に小さなお墓を作った。ザックは「こんな事したって意味ねぇだろ」とか言っていたけど、どこか嬉しそうに見えた。

余程大切な人だったんだろう。少しだけ羨ましい。


不思議なことにあれからザックは誰一人として殺していない。なんでも、私を殺すまで他の人は殺さないらしい。理由はよく分からないけど、ザックがそれでいいのならそれでいい。そこで私はずっと疑問に思っていた事を口にした。

「ねぇ、ザック。いつになったら私を殺してくれるの?」

ザックの動きがピタリと止まった。何かおかしな事でも言っただろうか?ザックの顔色を窺っていると、暫く黙ってからゆっくり口を開いた。

「お前がもっと上手く笑えるようになったらな」

ザックはとても穏やかな表情だった。でも私には彼が今どんな心境なのか全く見えない。悲しい顔はしていない。でも嬉しい顔もしていない。

「…..そっか。」

だんだんと不安が募る。わからない。彼の表情が理解できない。エレベーターまで追いかけて殺そうとしてきた人とは思えない。

【本当に私の事殺してくれるの?】

すると、彼が真っ直ぐ私の方を見て、断言した。

「安心しろ。俺は嘘が嫌いだ。必ずお前を殺してやるよ、レイ 。」

心の中の不安がスーッと消えていく。

そうだ。そうだよね。ザックはそういう人だ。私との誓いは必ず果たしてくれる。

「うん、待ってる。」

案外今の生活も嫌いじゃない。いつかザックが私を殺してくれるその日まで、気長に待とう。

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