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第六章:猛火(凪の視点)


「来ないで!!」


怜の叫び声が、ナイフのように俺の胸に突き刺さった。


泥にまみれ、顔を腫らし、必死に俺を遠ざけようとする怜。その足元には、俺が「最高の親友」だと思い込んでいた佐藤たちが立っている。


「……凪、これには深いわけが」


「黙れよ」


佐藤がいつもの調子で言い訳をしようと近づいてくる。そのニヤついた、嘘くさい笑顔を見た瞬間、俺の中で何かが音を立てて千切れた。


「触るな。その汚い手で、怜に触るなッ!!」


怒号が、自分でも驚くほど低く、鋭く響いた。


俺は一歩踏み出し、佐藤の胸ぐらを掴み上げた。


「お前、さっきなんて言った? 怜が俺を騙してる? 笑える? ……笑ってたのは、お前らの方だったんだな。俺が何も知らずに『いいクラスだ』なんて抜かしてるのを、裏で指差して笑ってたんだな!」


掴んだ拳が、怒りで激しく震える。


佐藤の顔から余裕が消え、引きつった恐怖が浮かぶ。


「凪、落ち着けよ! ただの遊びだろ、あいつも納得して……」


「遊びで、お揃いの宝物を粉々にするのか? 遊びで、こんなに痣を作るまで蹴るのかよ!?」


俺は砕けたクジラの破片を佐藤の目の前に突きつけた。


「俺は……俺は自分が一番許せねえ。こんな、こんな簡単なことに気づかずに、お前らみたいなクズを仲間だと思って、怜に『笑え』なんて言ってた自分が、死ぬほど気持ち悪いんだよ!!」


俺は佐藤を突き飛ばした。地面に転がる佐藤たちに、冷え切った視線を向ける。


「消えろ。二度と、怜の視界に入るな。……次、あいつに指一本でも触れたら、俺が何をするか、お前らの想像力じゃ足りないくらいのことしてやるからな」


佐藤たちは、俺の見たこともない形相に圧倒され、逃げるように走り去っていった。






第六章:静寂と慟哭(怜の視点)






嵐のような凪の怒声が止み、辺りは嫌なほど静かになった。


佐藤たちはいなくなった。でも、僕が一番恐れていた結末が残った。


凪が、知ってしまった。


僕の惨めな姿も、このクラスの汚い真実も。


僕が守りたかった凪の「綺麗な世界」は、僕のせいで粉々に壊れてしまった。


「……ごめん。……ごめん、凪」


僕は地面に這いつくばったまま、謝ることしかできなかった。


助けてくれてありがとうなんて言えなかった。


凪が怒れば怒るほど、僕が彼に背負わせてしまった「傷」の深さを思い知らされて、胸が張り裂けそうだった。


「なんで……謝るんだよ」


凪の声が、今度は震えていた。


隣に膝をついた凪の手が、僕の泥だらけの肩に触れる。


「謝るのは、俺だろ……。ごめんな、怜。ずっと、一人にさせて。お前に、こんな顔させて……」


凪の目から、大粒の涙がこぼれて、僕の手に落ちた。






熱かった。






佐藤たちに浴びせられたどんな暴力よりも、凪の涙は僕の心を激しく揺さぶった。


「……凪のせいじゃない。僕が、隠してたから……」


「隠させたのは、俺の無神経さだ」


凪は僕を壊れ物を扱うように、静かに抱きしめた。


夕闇の中、僕たちは二人で泣いた。


それは、偽りの平和が終わった合図であり、本当の意味で二人が向き合い始めた瞬間だった。

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