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「戻らなくても、隣にいたい」
「……結果、変化は見られませんでした」
病院の診察室。
白衣の先生が、淡々と告げた。
「つまり……?」
「申し訳ありませんが、この“状態”が治る見込みは、極めて低いです。今後も……女性の身体のままである可能性が高いですね」
ジェルの頭が、真っ白になった。
(……マジで? これ、冗談ちゃうの……?)
隣にいたさとみも、一瞬だけ呼吸を止めたようだった。
「……時間が経てば、戻るかもって、そう言ってたやろ?」
ジェルの声は、震えていた。
先生は静かに目を伏せた。
「……すみません」
その帰り道。
2人は、ほとんど言葉を交わさなかった。
帰り道の夕焼けが、どこまでも遠くて赤かった。
家に戻るなり、ジェルはぽつりとつぶやいた。
「なぁ、さとみ……」
「……ん」
「……俺、このままずっと“女”でいなあかんって、なんか変やな。おかしいやろ。なんか、悔しいし……情けないし……」
「……お前が悪いわけじゃねぇだろ」
「でも、このままじゃ、お前と並んで歩くのも、なんか違う感じになって……“相棒”って感じじゃなくなってきて……」
「……おい」
さとみが立ち上がり、ジェルの目の前に立つ。
そして、真っ直ぐに言う。
「そんなことで“お前と並べなくなる”わけねぇだろ」
ジェルの肩が、ピクリと震えた。
「姿が変わっても、声が違っても、手が小さくなっても──
お前が“ジェル”なのは変わらねぇだろ」
「……さとみ」
「むしろ、俺にとっては都合いいかもしれねぇしな」
「は? 何がや」
「こうして“もう逃げられねぇ”状況になったんだから──
ちゃんと捕まえられるだろ?」
さとみはジェルの手を、そっと握る。
「お前が男に戻れなくたって、俺は全然いい。
それどころか──俺の隣に、ずっといてくれるなら、それでいい」
ジェルは、言葉を失った。
苦しかった。
怖かった。
この体が、自分じゃないみたいで。
でも、今。
その全部を抱きしめるように言ってくれる人が、目の前にいる。
(……なんやねん、それ……)
涙が出そうになるのを、必死に堪えながら、ジェルはそっと笑った。
「……ほんまに、ずるいな。さとみは」
「知ってる。お前が好きになってくれたからな」
「……まだ言ってへんやろ」
「じゃあ今、言えよ。そしたら一生そばにいるから」
ジェルは目を伏せて、少し笑ったあと、さとみの手を握り返す。
「……好きやで。さとみ」
「俺も、お前が世界で一番好きだ」
戻れなくてもいい。
この人がいるなら、それでいい。
そしてこの日から、ジェルは“女の子のままの自分”を
少しだけ、好きになれるようになった。
──それは、“変わらない愛”がくれた勇気だった。
番外編作れそうだったら作る✊🏻♡