※この調査報告書は閲覧後に破棄すること
調査員名:[データ削除済]
最初の異変は、記録の不一致だった。
廃墟の調査報告書、添付写真は計三十六枚。……であるはずだった。
だが、そこに存在しないはずの「三十七枚目」が紛れ込んでいた。
赤く濁った床、崩落した石柱。
そして画面中央に佇む、黒いドレスの少女。
白銀の髪。
獣を思わせる耳。
黄金の瞳。
撮影日時は、調査隊が現地に入る三日前。
撮影者欄は、ただ白く空白のままだった。
その矛盾を解消するため、私は一人で再調査に入った。
「悪質な悪戯か、合成だろう」
と同僚は笑ったが、私にはどうしてもそうは思えなかった。
写真の中の少女は、こちらを見ている。
それはカメラのレンズを見ているのではない。写真という窓越しに、「私」を凝視している視線だった。
廃墟の最奥。血のような夕闇が差し込む空間で、その声は響いた。
「またあいましたね」
振り向くと、写真と同じ少女がそこにいた。
だが、彼女の足元には影がなかった。
代わりに、赤い床には無数の細い亀裂が走り、その「裏側」から何かが執拗に爪を立てている。
壁のひび割れが歪み、蠢き、やがて無数の「人の顔」へと変貌していく。
視線の数が合わない。
目が、
多すぎる。
彼女は静かに告げた。
「ここは、呪われた場所じゃありません
呪いそのものなんです」
理解した瞬間、真実が脳を灼いた。
過去の失踪者たちは、始末されたのではない。
世界から「削除」されたのだ。
肉体も、記憶も、因果も。
だから、彼らがいなくなった後の報告書は「最初から欠員などなかった」かのように完璧に完成する。
だから、写真だけが一枚ずつ、余計に増えていく。
だから、私はもう――。
かしゃ
背後で、乾いたシャッター音が鳴った。
そこには、誰もいなかったはずなのに。
翌日、本部へ提出された最終報告書には、写真が計三十八枚添付されていた。
最後の一枚には、赤い廃墟の中央で微笑む少女が写っている。
そして彼女の隣には。
誰も写っていないはずの、ただの「虚空」が、
確かな意志を持ってこちらを見返していた。
【※この先、危険】
またあいましたね
三十九枚目は
あなた
かしゃ
【※読み終わったら、すぐに閉じろ】






