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夜久瀬
3
秋の澄んだ空気の中、
高度育成高等学校では体育祭に向けた準備が本格的に始まっていた。
教室の黒板には、各競技の参加者一覧が書かれている。
ひなは、自分の名前を見つめながら小さく息をついた。
借り物競走
障害物リレー
全員リレー
「思ったよりだいぶ目立ちそう競技出ることになっちゃった……」
不安そうに呟くひなの肩を、
恵ちゃんがぽんっと叩いた。
「大丈夫!ひななら絶対できるって!」
「うんうん、ひなちゃんすごく頑張り屋さんだもん!」
桔梗ちゃんの優しい笑顔に、
ひなも少し安心する。
ふと視線を移すと、
少し離れた席で 綾小路清隆 が静かに資料を眺めていた。
彼の名前も、
借り物競走
騎馬戦
全員リレー
と記されている。
「綾小路くんも借り物競走に出るんだ……」
同じ種目に出られることが、
あたしはそれだけで嬉しかった。
放課後の練習。
校庭では各クラスがリレーの順番やバトンの受け渡しを確認していた。
ひなは障害物リレーの練習で、
平均台の前で足を止めてしまう。
「こ、怖いかも……」
その時、
すぐそばから落ち着いた声が聞こえた。
「下を見るな。まっすぐ前だけ見ればいい」
振り向くと、
綾小路くんが立っていた。
「綾小路くん……」
「お前ならできる」
短い言葉。
けれど、その声には不思議な安心感があった。
ひなは深呼吸をして、
もう一度平均台に足を乗せる。
今度は最後まで渡り切ることができた。
「できた……!」
「言っただろ」
綾小路くんの口元に、
ほんのわずかな笑みが浮かぶ。
練習の後。
恵ちゃんと桔梗ちゃんは、
ひなの元へ駆け寄ってきた。
「すごいじゃん、ひな!」
「綾小路くんの応援、効果抜群だったね〜」
「も、もう……」
二人にからかわれ、
ひなの頬はほんのり赤く染まる。
夕暮れの帰り道。
寮へ向かう途中、
ひなは綾小路くんの隣を歩いていた。
「今日はありがとう」
「礼を言うほどのことじゃない」
しばらく沈黙が続いた後、
彼は静かに言った。
「体育祭、楽しみだな」
「え?」
「お前と同じ種目だからな」
その言葉に、
ひなの胸は甘く高鳴った。
「……綾小路くんと一緒なら、頑張れそう」
素直な気持ちを伝えると、
彼は少しだけ歩調を緩めた。
「俺も、お前が隣にいる方がいい」
たったそれだけの言葉。
けれど、
それはどんな励ましよりも力強かった。
走り出す季節。
クラスの仲間たちの支え。
そして、
隣で静かに背中を押してくれる大切な人。
体育祭という新たな舞台で、
ひなの青春はまたひとつ大きく動き始めるのだった。
コメント
1件
私ははる。この回、めちゃくちゃ良かったわ…! 平均台で足を止めたひなちゃんに、綾小路くんが「下を見るな。まっすぐ前だけ見ればいい」って一言で背中押すとこ、心臓ぎゅってなった。何気ない言葉なのに、あの距離感がよう実っぽくて素敵だった。 「お前と同じ種目だからな」って体育祭楽しみにしてる発言も、彼にしては珍しく素直でドキドキしたわ。 全体通して秋の澄んだ空気とか夕暮れの情景が丁寧で、青春の甘酸っぱさがじんわり伝わってきた。クラスの仲間の応援も温かくて、これからの体育祭本番が楽しみになるエピソードだった! ひなさんの背中を押すような、そんな優しい作品をありがとうございます💫