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――小学校六年生。
すちは、もう恋愛小説を読むことが習慣になっていた。
新しい本を読むたびに、「好きな人がいるなら、こうする」というものが増えていく。
相手のことを覚える。
相手が好きなものを知る。
話せたら嬉しそうにする。
少し会えないだけで寂しそうにする。
何かあれば真っ先にその人を気にする。
すちは、それを一つずつ真似していた。
もちろん、本当にそう感じているわけじゃない。
(これは嬉しい)
(これは寂しい)
(これは心配)
本に書かれていることを、自分の中に当てはめていく。
ある日の昼休み。
友達「すち、今日一緒に食べようぜ」
すち「いいよ」
二人で昼食を食べる。
友達「そういえばさ、昨日話してたやつ覚えてる?」
すち「うん。あれでしょ」
友達「覚えてんの?」
すち「そりゃ覚えてるよ」
笑いながら答える。
本の中の主人公なら、好きな人の話はちゃんと覚えている。
だから、自分も覚える。
ただ、それだけ。
友達「すちって、本当にそいつのこと好きなんだな」
すちは一瞬だけ止まった。
すち「……うん」
自然に答えられた。
自分で作った設定だから。
その人を「好きな人」と決めているから。
そう答えることに迷いはなかった。
放課後。
友達と別れて、一人で帰る。
(……今の、自然だったな)
(俺、ちゃんと好きな人がいるみたいに見えたかな)
少しだけ嬉しくなる。
でも、その「嬉しい」も、演技が上手くできたことへの嬉しさだった。
「好き」という感情そのものではない。
家に帰る。
玄関を開けた瞬間、表情が変わる。
父「遅い」
すち「すみません」
父「何してた」
すち「友達と話してました」
父「早く着替えろ」
すち「はい」
学校での笑顔は消える。
でも、すちはそれを特別なことだとは思わない。
学校では、作った「好き」を演じる。
家では、父親に言われた通りにする。
どちらも、もう慣れていた。
そして。
ある日、すちは鏡の前に立った。
鏡の中の自分を見る。
すち「……俺って、ちゃんとできてるかな」
もちろん、答えはない。
すちは少し笑ってみる。
いつもの笑顔。
恋愛小説に出てくる主人公みたいな笑顔。
(……うん)
(これなら大丈夫)
(いつか、本当に分かるかもしれない)
そう思って。
また、笑った。
消失
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#いらすと部屋
クッキー
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巫女都
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翠
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コメント
1件
すちの「好き」が、小説の模倣から作られた感情の設計図みたいで、読んでいてすごく切なくなりました。友達に「本当に好きなんだな」って言われて迷わず頷けるのに、それ自体が演技の手応えへの喜びでしかない――この解離が、もう胸に刺さります。鏡の前で「ちゃんとできてるかな」って笑顔を確認するところも、なんか……自分を自分でプロデュースしてる感じがして、苦しいです。碧さんの描くすちの内面、すごく丁寧で引き込まれました。