テラーノベル
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それから三ヶ月が過ぎた。
暑い夏を通り越して、朝晩にやっと秋らしい空気が漂い始めた頃、私たちは、明日に備えて最終準備をしていた。
明日、飛行機に乗って、結婚式に向かう。
いわゆる、リゾート婚だ。場所は、沖縄。
「でも、本当に俺も参加していいのか?」
「いいの、ちゃんと招待状も届いたでしょ!」
これは姉の結婚式。私たちは、籍だけは入れたものの、結婚式は挙げないことにしたのだ。
私と壱月に色々あった間も、姉は婚約者の榎田さんと順調に同棲を進めていたらしい。
そんなふたりを、ちょっと羨ましいと思う。
翌朝、仕事に出かける壱月を見送ってから、私と花斗も荷物の最終チェックをする。
壱月は、どうしても欠員を埋めることができなかったらしく、往便で沖縄までフライトを勤めるらしい。そしてその後、現地で落ち合うことになったのだ。
花斗にとっては人生で初めての飛行機。それが父親の操縦だというのだから、テンションが上がらないわけがない。
「パパのひこうき!」
私が荷物をチェックしてる間に、花斗はそう叫び、わーいわーいと部屋中を駆け回る。
するとカーペットの端につまづき、ドテッと音を立てて転んでしまった。
あーあ、泣いちゃう。……あれ?
「花斗……?」
泣き声が聞こえてこないことを不思議に思い、花斗のもとへ駆け寄る。
「なかないもん。おでかけだから」
花斗は私の目の前で、ぐっと唇を噛み締め、手をついてひとりで立ち上がった。
花斗にとって、今日はそのくらい大事な日なのだ。
私は強くなった息子を、心の中で抱きしめる。
「そろそろ行こうか」
私がそう言うと、花斗は痛かったことなんて無かったかのように自身のリュックを背負った。
その様子に安堵して、私はキャリーバックを転がしながら、玄関まで先に行く。
「わすれもの、なし!」
リビングに向かって指差し確認をしてくれた花斗は、そのままタタッと玄関まで駆けてきた。
そして、自分で靴に足を突っ込む。
「ママ、じゅんびかんりょうです!」
笑顔でそう言った花斗に、私も笑顔で返す。
「はい、出発しましょう!」
*
久しぶりに電車で羽田空港へ。空港に着くと、私たちはさっそく搭乗窓口へと向かった。
いつもとは違う場所に、花斗は目を輝かせている。
搭乗手続きを済ませる間、すべてが初めての花斗はキョロキョロと辺りをしきりに見回していた。
手をつないでいないとどこかへ行ってしまいそうで、気を抜けない。
荷物を預け、保安検査場を興味深く観察していた花斗は、やがて搭乗口の前で顔を上げた。
「パパ、どこ?」
その声に、私は苦笑をこぼした。
「会うのは無理なんじゃないかな?」
「ええー」
「でも、同じ飛行機のコックピットにいるんだから、いいじゃない」
「……うん」
ちょっとだけがっかりしたような花斗と、搭乗時間になるまでベンチに腰掛る。
花斗はリュックから飛行機を取り出して、ぶーんぶーんと空を飛ばしていた。
「ねえ、ひこうき、まだ?」
「うん。案内があるまで、乗れないの」
「そっかぁ。ねえ、どのひこうき、のるの?」
「それは分からないなぁ」
花斗は窓の外に停まる飛行機と、自身のおもちゃを見比べている。その落ち着きの無さに、思わず笑みがこぼれた。
コメント
1件
ああ、花斗くんの成長が本当に愛おしい回でしたね…!転んでも「なかないもん」って自分で立ち上がる姿に、もう胸がぎゅっとなりました。パパの操縦する飛行機を心待ちにする気持ち、キョロキョロ落ち着きなく周りを見渡す様子が目に浮かんで、一緒にドキドキしながら読みました。姉の結婚式への羨ましさと、壱月さんとの距離感の機微も素敵です。花斗くんの世界がぐんと広がる予感にワクワクします🕊️