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──夜、再び静けさが戻った街。
ネグはレイとともに人気のない裏通りに入り、完全に足を止めた。
周囲を確認しても、すかーと夢魔の姿はどこにも見えない。
「……ふぅ。」
ネグはスマホを取り出し、レイの方を見る。
声は出さずに唇だけ動かす。
「ありがと。」
レイは無言で肩をすくめた。
「さっきも言ったけど、別に大事やからとかちゃう。ただムカつくだけや。」
それだけ言って、レイは煙草に火をつける。
そのまましばらく、二人は言葉なく夜の風に吹かれていた。
──その頃。
すかーと夢魔は、デパート近くの通りを何度も何度も往復していた。
「……どこ行きやがった……!!」
すかーの眉間には深い皺が寄っている。
夢魔も拳を握りしめたまま、何も言わず歩き続けた。
「マジで……何なんだよ、あいつ……!」
──あの手、この手で追い詰めたはずだった。
──もう逃げ場なんてなかったはずだった。
だがネグは、やっぱり捕まらなかった。
携帯を見ても、LINEの返信はない。
位置情報もオフ。足取りも掴めない。
苛立ちと焦りが混ざり、二人の表情はどんどん険しくなっていく。
夢魔は低く呟いた。
「……一体どこまでやる気なんだよ、あいつ……。」
すかーも同じく、
「どこまで逃げるつもりなんだ……。」
だが、その問いの答えは、今もどこにもなかった。
──ただひとつ、確かなことがある。
ネグは、捕まらない。
あの挑発的な声と、誰にも触れさせない距離感。
どれだけ追いかけても、あと一歩のところで手が届かない。
まるで──
「……クソ……!」
すかーは歩道脇の壁を拳で殴った。
夢魔も小さく舌打ちをしながら、スマホをしまい込む。
「絶対、また見つけてやるからな……ネグ。」
二人の怒りと執着だけが、夜の街に静かに溶けていった。
──そしてネグは。
その夜も、レイの家で静かに眠りについた。
誰にも見つからない場所で。
誰にも捕まらないまま。
その唇には、やはり声も心も出さない、静かな笑みが浮かんでいた。