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───ハーデスが馴れ馴れしく腕を回すマッハを殴り飛ばしている頃、カルラ村より南下した位置にあるとある池の側で1人の青年が項垂れていた。
顔を両手で隠し今にでも叫びだしそうな雰囲気の青年の直ぐ側には柔らかな笑みを浮かべると絶世の美女が立っていた。
「アルフォート君、君は何時までもそうしている気かしら?
小一時間ほどずっとその体制だから流石の私も反応に困るのだけど」
困ったようや笑みを浮かべる彼女に、その言葉に項垂れていた青年アルフォートがガバッと顔を起こす。
「某を謀ったアリア氏がそれを言うでござるが!」
「いや、謀ったって言われても身に覚えがないのだけど」
「某は、某は⋯⋯魔王ハーデスがこの世界にいるなどと聞いてないでござるよぉぉおぉぉぉ!」
アルフォートに悲鳴にも近い叫びにあぁと、納得したようにアリアは頷く。
薄い布で体を巻いただけという痴女のような格好をした彼女であるが、こう見えてとても偉い女神であったりする。
地球を含む数万の世界の死と生を司る神の部下の部下の部下の部下の部下、つまる所下っ端であるが人間に比べればとても偉いのである。
彼女のミスで死んでしまった鈴木 太郎の様子を見に行く事を口実に仕事をサボって『エルヘイム』に来ていたり、そもそもの田中太郎を殺してしまった原因が寝落ちであったりと、彼女のダメな部分が見え隠れしてしているがとても偉いのである。
そんな神様界の社畜、女神アリアは平らな胸の前で腕を組みながら呆れたようにアルフォートを見下ろす。
「私は最初から言ったでしょう。
その力を与えるけど、決して最強ではないって。
何より私が黄昏の勇者アルフォートの装備を与えようとしても断ったのも貴方じゃない?
服はともかく木刀は最強の武器になり得るでござる!って言われた時は流石の私も正気を疑ったわよ。
どこの世界に強大な力を貰いながらそんな装備を貰う奴がいるのよ」
どこか疲れたようにため息をついたアリアは自身が作ったアルフォートの装備を見て、また深く深くため息をついた。
「まぁ、私も貴方を転生させた世界にあんな化け物がいるとは思ってなかったけど」
「そう言う割に軽いでござるぞアリア氏!
何を他人事のように言ってるでござるか!」
「いや、実際私には関係ない事だし、それに私達が出来る事って結構少ないのよ。
私達神も規則とか法則とかに縛られているからやりたくても出来ない事が多いの。
貴方の為にハーデスを消して上げた方がいいのでしょうけど、それも規則の所為で出来ないから残念ながら力になれないわ。
その変わりと言ったら何だけど、貴方に元々与えるつもりだったアルフォートの装備なら渡す事が出来るわ。
この装備ならハーデスにも立ち向かう事が出来ると───」
「だが断る!」
「⋯⋯⋯⋯」
女神アリアの冷たい視線がアルフォートを襲う。
しかし効果はないようだ。
「ねぇ、アルフォート君。
今がふざけてる場合じゃないって理解出来てる?」
「それでも某はこのスタイルを貫くでござる!」
「いや、そんな事でドヤ顔されても困るのだけど⋯⋯。
はぁ、まぁいいわ。
アルフォート君が変わる気がないなら出来るだけハーデスと関わらないようにしなさい。
既に転生した貴方にこれ以上力を与える事も出来ないし、装備を受け取ろうとしない以上ハーデスとの戦闘は避けなさい。
じゃないと、死ぬわよ」
アリアのマジなトーンにアルフォートはコクコクと激しく首を縦に振る。
ぶっちゃけた話、アルフォートが装備を受け取ってさえくれればアリアが余計な心配を抱く事はなくなる。
それほどまでに黄昏の勇者アルフォートの装備は並ぶ物がない1級品なのだ。
魔法を無力化し所持者の魔力に変換する神秘の鎧『コンヴァート』、心が折れない限り所持者に強大な力を与える叡智の兜『シュテルケ』、あらゆるものを掴む事の出来る精霊の篭手『ガイフェン』、所持者の身体能力を数倍にはね上げる妖精のブーツ『シュタルク』、物理攻撃を吸収し反射する対魔の盾『スピグノン』、振るえば奇跡を起こし所持者に勝利を齎す聖剣『ズィーク』etc……。
これらの装備を身につければ最強と言っても過言ではない力をアルフォートは得ることが出来る。
にも関わらず現在のアルフォートが装備しているのはアリア特製のある程度の攻撃を防ぐ事の出来る服、何かダサいバンダナ、足が早くなるブーツ、何か色々切れるし見た目に反して固い木刀。
はっきり言おうゴミである。
先に述べたアルフォート本来の装備に比較する価値すらないゴミ装備である。
並のものより多少はマシではあるがわざわざこれを選ぶ必要性を全く感じない。
見た目のダサさを含めこれはない。
自身のミスで死んでしまった上、同じ世界にとんでもない化け物がいるにも関わらずそんなゴミ装備を身に付けるアルフォートがアリアは心配で仕方が無い。
その為、わざわざアルフォートの元にアリアが現れたのだ。
仕事をサボりたいという理由が八割以上を占めるが⋯⋯。
「幸運な事にハーデスは貴方に興味がないみたいだから出来るだけ接触しないようにすればどうにかなる筈よ。
ハーデスに及ばなくともアルフォート君の力はこの世界の住人より遥かに強いからそれさえ気をつければきっと死ぬ事はないわ」
「了解でござるよ。
所でアリア氏は何時まで此処にいるつもりでござろうか?
かれこれ小一時間はいるでござるが仕事は大丈夫なのであろうか?」
「あ、うん。
大丈夫、上司にちゃんと許可取ってあるし大丈夫よきっと。
うん、きっと大丈夫よ」
「目が泳いでるでござるよ。
まぁ、アリア氏がそう言うのであれば構わないでござるが⋯⋯」
「うん、おおよその原因はアルフォート君なんだけどね。
まぁ、いいわ。
装備が欲しくなったら何時でも言いなさい。
仕事をサボ⋯⋯一旦置いてでも来て上げるから」
キリッと見惚れるような笑みを浮かべるアリアにアルフォートは何も言えなくなった。
「じゃ、私はそろそろ行くわ。
アルフォート君も死なないよう頑張りな───ッ!」
「アリア氏ッ!」
アルフォートに手を振り、『エルヘイム』から去ろうとするアリアの背中に黒い禍々しい1本の矢が突き刺さった。
その事でアルフォートが近寄ろうとするがアリアはそれを制し矢が飛んできた方角を睨みつける。
しかし、その視線の先にいる筈の敵の姿はない。
それにより一層、警戒を強めながらアリアはアルフォートに声をかけた。
「不味いわね、今のが敵の襲撃であるのは確かなのだけど全く姿が見えない上に気配すら掴めない。
オマケに下界に降りてきて弱体化しているとはいえ神である私ですら突き刺さるまで矢の存在に気付けなかった⋯⋯。
強いわね、この襲撃犯は」
「アリア氏⋯⋯矢が⋯⋯それに血が⋯⋯」
「落ち着きなさいアルフォート君。
私は神だから基本的に死ぬ事はないわ。
この程度の傷も直ぐに治るから安心しなさい。
だけど、貴方は違う。
強大な力を持っているけど貴方は人間だから死ぬ時は死ぬ。
だから逃げなさい、力を使いこなせていない貴方じゃきっと勝てないから⋯⋯」
「逃げるって⋯⋯。
だが、アリア氏はどうするでござる!
アリア氏を置いて某だけで逃げろと仰るか!」
「私は死ぬ事がないから平気よ。
それに私達神は直接、下界の生物を害する事は出来ないけど貴方を守る程度の事は出来るわ。
だから、貴方は私を信じて逃げなさい」
そう笑みを浮かべながら口にするアリアにアルフォートは言葉を失った。
(逃げる?⋯⋯アリア氏を置いて某だけで⋯⋯?
そうだアリア氏が言うように力の使い方がまるで分からない某ではこの襲撃犯には勝てないでござろう。
もしかしたら死んでしまうかも知れない。
なら逃げるのが正しい選択。
けど───)
逃げる選択が正しいかどうかそれは状況によって変わる。
自身が勝てない敵と出会ったなら生き残る為に逃げるのは必要な手だ。
現に先のハーデスとの会遇の際にも命ほしさにアルフォートは逃げた。
それはきっと正しい選択であろう。
勝てない相手に無理して闘い死ぬ必要などないのだから。
だから今回も逃げても構わないだろう。
そうすればきっと死ぬ事はない。
だが、
(本当にそれでいいのか、アリア氏を⋯⋯女子を残して逃げる事が男として正しい選択か!)
今回は状況が違う。
アリアは弱体化していても力を使いこなせないアルフォートより強いだろう。
だが、それがアリアを残して逃げる理由にはならない。
何より、それは男として逃げるよりも恥ずかしい!
だから。
「某はもう逃げない!
男としてアリア氏を某が守る!」
そう強く口にし僅かに震えながらも腰に帯刀した木刀を構えるアルフォートにアリアは驚き、そして優しい笑みを浮かべた。
「そっか。
じゃ、お願いしようかな」
「お願いされたでござるよ」
ニッとアリアとアルフォートは互いに笑みを浮かべる。
───闘うのは怖い。
けど逃げるばかりでは前には進めない。
だから怖くても、守る為に闘う。
そう決意を固めるアルフォートに無数の黒い矢が降り注いだ。
(見える!)
酷く冷静に現状を把握している事に驚きながらアルフォートは自身に迫る矢に対し木刀を振るう。
思っていた以上にあっさりと黒い矢は真っ二つに折れ勢いを失い地面に落ちていく。
それに僅かばかりの達成感を覚えながら自身に迫る黒い矢を木刀で叩き落とし、時に避けながら捌いていく。
その様子を黒い矢を避けながら見ていたアリアは感心したように小さく声を上げた。
(腐っても黄昏の勇者アルフォートの肉体ね。
例え精神面で追いついていなくても多少は無理が出来る。
まだ自分の力に振り回されている形だけど、いずれアルフォート君はその力を自分のものに出来る)
慣れてきたからか余裕が出来たかは知らないがその顔に笑みを浮かべるアルフォートに呆れながらもアリアは頑張れと心中で呟く。
ここから始まるのだ、アルフォートの成長は。
自身の力を自覚し、その力に恥じない英雄に彼はなっていくに違いない。
そんな思いを抱き、改めて黒い矢を捌くアルフォートを見てアリアは一気に冷めた。
(やっぱりその格好はないわ)
恰好良く剣を振るい黒い矢を捌くその姿は王子様のような端麗な顔つきも相成ってきっと絵になるだろう。
───そのあまりにダサい格好でなければの話だが。
お世辞にもアルフォートの剣筋は洗練されたものと言えないデタラメなものである。
それでも勇者アルフォートの体から振るう剣は確かに自身に迫る黒い矢をへし折り、思ってた以上に闘えた。
最も、それは相手が手加減を加えたお陰であるのだが、その事をアルフォートもアリアも知りはしない。
───降り注いでいた黒い矢が突如として止み、アルフォートのすぐ近くで白く何かが光ったと思えば初めからそこにいたと言うようにソレは現れた。
そして、アリアとアルフォートは思わず固まった。
そこにいたのは180cmほどの長駆な美青年。
ただし、上半身が裸の上程よく筋肉のついたその体には銀色の鎖がグルグルと巻かれており、乳首の部分に✕マークのシールが貼られているという妙な出で立ちをしていた。
その背中から黒い天使の翼を生やしている事から|人外《ひとならざるもの》の類である事が一目で理解できた。
───アルフォートとアリアは口を揃えて思わず叫ぶ。
「「変態だぁぁぁッ!(でござるぅぅぅッ!)」」