テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
はじめて「なーくん」って呼べた日
今日は朝から、ちょっとごきげんな莉犬。ソファに座って、テレビの音をぼんやり聞いている。
「さとちゃ〜ん、これおわったら、あそぶ〜」
「いいよ。おやつ食べてからな?」
すると、リビングのチャイムが鳴った。
「ピンポーン♪」
「……ぐみのおにーさん……?」
莉犬がテレビを見たまま、ぽそっとつぶやいた。
ドアを開けると、なーくんが立っていた。
両手に紙袋を下げて、にこにこ。
「おつかれー、ちょっと寄った!」
「お、助かる。仕事片付いたばっかで」
なーくんがリビングに入ってくると、莉犬はちょっと身を固くして、俺の後ろへぴとっとくっつく。
「こんにちは、莉犬くん」
「……ぐみのおにーさん……」
なーくんは少し微笑む。
「“なーくん”だよ〜」
「……ぐみのおにーさん……」
「ん〜、それもかわいいけどね」
肩をすくめて苦笑いしてると、莉犬がこくんと頷いて、俺の膝にちょこんと座った。
──おやつの時間。
なーくんが持ってきたグミの袋が、テーブルに広がっている。
莉犬は好きな色を選びながら、ぽいっと口に放り込んで、ふにゃっと笑った。
そして、突然。
「……なーくんも、たべる?」
俺となーくんが、同時に動きを止めた。
「……今、なーくんって言った?」
なーくんが、ふっと笑って莉犬を見る。
莉犬は少しのあいだ黙ってから──
「えへ……いっちゃった……」
顔をちょっとだけ伏せて、俺の袖をきゅっとつまむ。
俺はなにも言わずに、頭をなでた。
その指先がやさしくて、莉犬は安心したように、目を細めて――
「……ぐみ、おいしいね」
ぽそっと言ったその声は、どこか嬉しそうで。
なーくんも笑って、「また持ってくるね」って優しく言った。
莉犬ははこくんとうなずいて、またグミをひとつ、口に入れた。