実を言うと、うちのリーダー吉田さんは過呼吸持ち。初めて症状が出た時は焦ったが今では慣れたもんで。本人もやばいと感じると俺の名前を呼んでくれるから酷くならずに済み有難い。(酷い時には俺かどうかも分からなくなって、拒絶する時あるけどね…)
けど、この間のダンエビの収録は流石に俺も焦りを感じた。
"撮影始めまーす"
「せーのっ!」
"DANDAN!EBiDAN!"
俺の掛け声で収録が始まった。今日のダンエビは何かと言うと"一文字も間違えずに歌えるのか"という内容だった。歌のお題はもちろんEBiDANそれぞれのチームの曲。みんな順調に歌い上げ、ラップのパートも見事に成功。最後はM!LKが歌い上げればクリアだった。
柔太朗・舜太・太智・仁人・俺の順に並んだ。舜太の番になった時、仁人の掠れた呼吸が聞こえた。あと少しで成功という状態で緊張と不安で過呼吸になりつつあるのだろう。俺は静かに仁人の背中を摩って、一定のリズムで優しく叩いた。少し落ち着いたのか、深呼吸をして仁人の番になった。
「♬♪♪〜………。」
順調だと思った矢先、歌声が止まった。本人を見る限り、頭が真っ白になって歌詞が出てこなかったっぽい。自分の曲だけどど忘れすることは俺もよくある。
「おーいーじんと〜」
「自分の曲だろ〜?」
「あ〜ぁ」
そんな声が周りから聞こえる。いつもなら言い訳まがいな反抗をする仁人の声が聞こえるが、全く動かず俯いている。俺はそれを見てやばいと感じた。
(やばい、どうしよう。あと勇斗が歌えば成功って所なのに、失敗した。 しかも"自分たちの曲"で。どうしよう…やばい)
焦りとともに周りからの面罵のような声が聞こえてくる。焦りと不安でどんどん俺の脈は加速していった。ひとまず落ち着こうと深呼吸をしようと息を吸った時、"ヒュッ"と音がした。過呼吸になっていたらしい。けど、何も知らないEBiDANの前で勇斗を呼ぶことも出来ず、それがさらに俺を煽った。不安と迷惑を掛けたくないという気持ちで涙が止まらなかった。
それに気づいたのか、カメラマンが一旦撮影を中止した。
「仁人大丈夫か…?」
「吉田さんどうしたw?」
「過呼吸になってない?」
みんながザワザワと心配の声で近づいてきた。それがどうしようもなく怖くて「こないで…」と弱々しい声で後ろに引き下がった。
自責ばっかりでもう他の声も音すらも聞こえず、響くのは自分のすすり泣きの声だけだった。
仁人!仁人!
仁人がみんなに囲まれ最悪の状態になった。俺の声も届かないほど最悪の状態。仁人の周りに集っているメンバーを退かし、仁人の前に行った。
「こないで…」
案の定俺ということもわからないほどパニックになっている。俺はそれでも仁人に近づいて、逃げようとする仁人を無理やり引き止めて優しく抱きしめ声をかけた。
「仁人、俺だよ、勇斗だから。俺の声分かる?もう、大丈夫。怖かったな、」
「はや…と…」
「そう、勇斗。もう大丈夫だから安心しな。とりあえず、深呼吸しようか。」
そう言って深呼吸する仁人の不安をなるべく取り除けるように周りの視線を消すため俺の肩に顔を沈めさせ、優しく声をかけながら慰める。
「怖かったね。ちゃんと歌えてたよ、偉い偉い。そうそう、ちゃんと呼吸出来て偉いね。ゆっくりでいいよ、誰も見てないから…」
数分して仁人は俺の腕の中で目を閉じた。M!LKも安堵したようで、ひとまず仁人を抱え楽屋に行った。
「仁人大丈夫なの?」
「え?どうした?」
みんな目の前の光景に混乱状態だった。それはそうだろう誰も知らなかったのだから。太智が場を沈めようと周りに声をかけ、他のメンバーも一緒に声をかけた。
「みんなごめん!吉田さん大丈夫だから!少しだけ時間下さい!スタッフの皆さんもすみません、休憩時間でお願いします。」
数分して、仁人が目を覚ました。
「仁人大丈夫?体調悪いとこない?」
「勇斗ごめん。また心配かけた…収録も止めちゃったし、どうしよう」
涙ぐみながら言う俺に勇斗は優しく涙を拭き取って、何も心配することはないと柔らかい声でいった。
「大丈夫だよ。怖かったろ。収録なら心配することはないし、少しゆっくりしてから戻ろうか」
俺は仁人を膝の上に乗せたまま抱きしめて安心を与えるように撫でた。
「仁ちゃん大丈夫〜?」
「大丈夫か〜?」
残りのメンバーが入ってきた。本気で心配する様子はなく、それが俺は嬉しかった。本気で心配されたら、それこそ罪悪感で立ち直れない。
「うん、落ち着いてきた。みんなありがとう」
「勇斗も、傍にいてくれてありがとう」
「じゃあ戻ろうか!」
収録場に戻ればみんなに問い詰められると心配しながら向かったが、予想と異なり至って普通だった。
「お!戻ってきた〜!」
「じゃあ、撮影再開しようか〜」
「みんな位置着いて」
そんなみんなの様子に驚いた。太智や柔太朗、舜太がみんなに説明してくれていたらしい。
(あぁ本当にみんなには頭が上がらないな)
俺は心の中で感謝を伝えた。そしていよいよ収録が再開した。
"では、収録再開しまーす!"
「みんなありがと」
俺はそう一言呟いて、いつものように収録に戻った。
end.
コメント
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リクエスト失礼します。 このお話を逆バージョン(佐野さんが過呼吸持ち)で見てみたいです🙇🏻♀️