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皆様、こんにちは。芽花林檎です。早速ですが、次のお話に参りたいと思います。それでは、ご覧ください。
(お願いをまとめた文書が公開されております。お時間がございましたら、そちらもご覧ください。)
(このお話の全編が二つ公開されております。そちらもご覧いただけると、よりお楽しみいただけると思います。ぜひご覧くださいませ。)
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妖精は必死に逃げた。天界は、確かに息をのむほどに美しかった。でも、妖精にとって、天界は地獄に等しかった。先刻生まれたばかりの小さな生命を、天使たちは残酷に狙ってきた。
妖精は思った。天使たちは、確かに美しかった。人間では到底到達できない、完璧な造形。でも、その瞳に光はなかった。
ただ泉から生まれた自分を排除するという氷のように冷え切った欲望だけが宿っていた。天使が、無表情のまま手を伸ばす。その指先から、白く鋭い光が走った。そして、妖精は危うく直撃しそうになったが、寸前のところでかわした。ただ、その後ろの白亜の塔が一瞬にして砕け散り、中にいた天使を無残にも消し去った。妖精の心には、ただ、「いかなければ」という思いが宿っていた。でも、そんな願いを破壊するかのように、声なき声を自覚した。「逃げ場はない。」天界の空気を震わせる。恐ろしかった。妖精は天使の住処である白亜の塔の中を無我夢中で追いかけた。白い党の影が、まるで檻のように妖精を追う……
天界は美しい。本当に美しい。煌々たる満月が瑠璃色の空に浮かび、あたりがきらめいて見える。天使たちの身を包む半透明の布が、月明かりを柔らかく反射し、まるで天使の周りを光が包んでいるかのように見える。でも、その美しさは、妖精にとっては地獄であった。
花々は咲き誇っているのに香りはなく、鳥の影は飛び交っているのに羽音一つしない。風は心の奥底までを冷やすかのような冷たさがあり、天使の瞳に感情はなかった。すべてが完璧で、すべてが冷酷。妖精は、塔と塔の間をすり抜け、光の道を駆け抜ける。背後では、天使たちが無表情に追いすがってくる。「殺せ」「抹消せよ」声なき命令が天界に響き渡った。妖精は胸を押さえた。痛みはもちろんあった。ただ機械的な、冷酷な感情だけをもつ天使の姿を見ると、胸が痛んだ。でも、そうではなかった。呼び声が強くなっているのだ。「あの人が泣いている…….」正体も分からない、どこのだれかすらわからないあの人、が自分を呼んでいると強く自覚した。その呼び声に導かれるように、妖精は走り続けた。あたりでは、閃光が飛び交い、無残にあたりの塔を打ち砕き、天使を消し去り、天界を朱色に染めていた。地獄だった。いや、この時の天界の景観は、地獄よりも冷たかったのかもしれない。
妖精は、思った。(なぜ、天使たちは自分を狙っているのだろうか。自分は、彼らと何が違うのだろうか。)ふと、妖精の目の端に、小さな一輪の花が映った。妖精は、「綺麗だな」と小さな生命が愛しく見えた。でも、天使たちは、無残にそれを焼き払った。妖精にとって、その行動は信じられなかった。そこに、慈悲も、感情も、温かみも何もない。(あっ、そうか。彼らは、自分を消し去ろうという欲望の身に身を任せて動いているんだ。それ以外はどうなってもよい。「僕」は、たぶん、欲望に身を任せている存在ではないんだな。彼らと違う「異物」だから、命を狙われているんだろうか…….そう思った瞬間、胸の奥底が痛んだ。この世界は、こんなにも冷酷無慈悲な天使たちで満たされた、僕からしたら地獄でしかないのか。天使たちが総出でおってくるということは、妖精自体が珍しいのだろう。その珍しい少数の僕を、異物として消し去ろうとし、大多数の天使たちの身を残そうとしているのだろう。)そんな残忍なこの世界の理に、妖精は、胸を締め付けられるような圧迫感と、苦しみを覚えた。
「殺せ」……まだ、天使たちは追ってくる。恐ろしいほどに冷酷な感情を孕んだ閃光が、妖精をかすめる。阿鼻叫喚に等しい光景だった。妖精は、「あの人に会いたい」という願いが、心の中で大きくなっていた。このままだと、自分はその人に会うこともなく、消し去られてしまう。お願い、あの人に会うまではこの世を離れることはできない……..あの人が、泣いているんだ。僕は、その人に会いたいだけなんだ。頬に滴る涙を、拭いたいだけなんだ…….お願い、会わせてください……..そう、心の中で強く願った。その瞬間。妖精の足元に、光の亀裂が走った。
天界の空が、突然漆黒に染まる。雷鳴のような音が響き、白亜の塔が崩れ落ちていく。泉の水面が激しく揺れた。天使たちが一斉に立ち止まる。天界と人間界を隔てる境界線が、嵐によって揺らいだ……..
嵐の中、学校へ向かった。私は、川のように雨水が流れる道を通り、重い身体を引きずって、とにかく歩いた。強風が、道路わきにある木々を大きくあおり、雨が家々を打ち付けていた。一瞬、目の前が真っ白になった。その次の瞬間、とてつもなく大きな、鼓膜を破るような、音がした。すぐ近くの避雷針に雷が落ちたのだ。私は心底驚いた。空は雲で埋め尽くされ、漆黒に染まっていた。その雲が、容赦なく雷を落とし、雨粒を地面に叩きつけている。私はぼーっと空を見上げていた。なんとなく、身体を動かす気になれない。そう思った時だった。ふと、空に、淡い光が差したような気がしたのだ。亀裂?わずかな断面が、漆黒の雲の中に浮かび上がった。(えっ、どういうこと?しかも、周りの人全然驚いていないし。何が起こっているんだ?)私がぼんやりと空を見上げているのを、周りの人は不思議そうに眺めていた。もしかして、見えているの私だけ?不思議に思ったが、なぜか、その亀裂に向けて無性に走りたくなった。理由は知らないけれど、私は、迷うことなく走り始めた。
天界と人間界を隔てる境界が、嵐によって揺らいだ。人間界の激しい雨と風、雷が、天界の膜を破り、裂け目を作り始めていた。妖精は、その亀裂に吸い寄せられるように近づいた。天使たちが手を伸ばす。「逃がすな」「殺せ」白い光が、またしても妖精の背中をかすめる。痛みが走り、妖精はよろめいた。だが、その瞬間…….亀裂の向こうから、声がした気がした。初めて聞く声だけれど、なぜか、懐かしい感じのする声だった。「寂しいよ……」妖精は迷わなかった。その小さな身体で、光の裂け目へと飛びこんんだ。天使たちの手が、届く寸前だった。
光がはじけ、妖精の身体は、天界からはじき出された。風が吹き荒れ、雨が叩きつける。人間界の嵐が、妖精を包んだ。
冷たい。痛い。苦しい。それでも、妖精は胸の奥の”呼び声”を頼りに、必死に落ちていった。まだ脆弱な、背中にある蝶のような光に包まれた羽を羽ばたかせて。
私は、びしょ濡れの制服のまま、雨音に包まれ、ひたすらに走っていた。その時。あの亀裂は気のせいではなかったのだろう。そこから、ひとつだけ、光の粒が落ちてきた。その光の粒は、だんだんと私の元へと迫ってきて、形を成していった。
私よりの首元くらいまでの身長。淡い光をまとった髪。透き通るような肌。穏やかな光に包まれた、背中にある羽。私は、息をのんだ。妖精だ。私は確信した。なぜだか知らないが、私は、妖精が空から降ってきたことも、この子が妖精であるということも、不思議なことではないと思った。昔から、今ここで、会うことが決められていたかのような感覚。運命が、結び付けたという確信が、私の中にはあった。妖精の瞳は、私を見つけた瞬間、涙のように揺れた。私は、妖精の瞳を見た。その瞳には、慈悲と、温かみと、穏やかさが宿り、本当に綺麗な見た目をしていた。妖精は、弱弱しい声で、こう言った。
「……やっと、会えた。」
声にならない声が、私の胸に届いた。この声を、どこかで聞いたことがある。私は、なぜだかわからないけれど、この子を知っている気がした。初対面のはずなのに、声も、容姿も、知っている気がする。私は、その子の瞳を見据えた。その子は、こう続けた。嵐の中で、私は出会った。孤独と、孤独が、初めて触れ合った瞬間だった。
「…….やっと会えたね、はる……」
ご覧いただきありがとうございました。また、次回のお話でお会いしましょう。
(私事ですが、アイコンを作成いたしました。黄緑色の髪を持つ女の子です。彼女はエルフです。お気に召されたら幸いです。)
2026/03/13 芽花林檎