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「まだ大きくならないねー」
「1ヶ月ちょっとしか経っていないんだ。
そんなにいきなり大きくはならないよ」
黒髪ショートに真っ赤な瞳の娘―――
ラッチと私は、シンイチとリュウイチ、
2人の赤ちゃんを抱きながらあやす。
「そういえば、ここいつになったら
出られるの?」
「3食付きで至れり尽くせりじゃが、
そろそろ家が恋しいのう」
そして私の妻であり、出産したばかりの
母でもあるメルとアルテリーゼが、
ベッドの上で大きく伸びをする。
クアートル大陸、ランドルフ帝国での
打ち合わせを終えて二週間ほど……
私は公都『ヤマト』に戻り、そこの乳幼児施設で
家族と一緒にいた。
「エクセさんもルーチェもいないし―――
少し寂しくなったわね」
同じ入院部屋で、ミリアさんが眼鏡を直しながら
我が子ミレーヌちゃんを胸に抱く。
彼女が言う通り、今この入院部屋には
三人しかおらず……
エクセさんはパック夫妻のお墨付きをもらって、
我が子・カミラちゃんと一緒に退院。
大事を取って、ワイバーンのコンテナ便で
ブリガン伯爵領へと戻っていった。
またルーチェさんも双子のルードちゃん・
ルフィナちゃんと共にギル君の待つ家へ。
そしてこの三人だけが未だに入院しているのは
理由があり―――
「シンさん!!
遂に来たッス!!」
レイド君が息を切らせながら、病室に
入って来て告げる。
その声に来るべき時が来たと……
アジアンチックな童顔の妻と、欧米モデルの
ようなドラゴンの方の妻、
そしてレイド君の妻―――
ライトグリーンのショートヘアのタヌキ顔の
女性が反応する。
この三人が入院を続けていたのは、夫である
私や彼が現状、クアートル大陸の緊急事態に
備えて、ほぼ半拘束の状態にあり……
その間―――
妻や家族は公都、延いてはウィンベル王国が
面倒を見る事になっていたのである。
「いよいよだねー」
「ま、さっさと片付けて帰って来てくれ」
「レイド……
あなたもケガしないでね。
シンさんと違って無敵じゃないんだから」
最後のミリアさんの言葉に、自分だって決して
不死身ではないんだがなあ―――
と思って微妙な表情になる。
「シンさんと一緒なら、楽出来たと思うッス
けどねえ。
俺は対モンステラ聖皇国側に回されて
しまったッスから」
「『範囲索敵』持ちでかつワイバーンライダー
なんて、貴重なんてものじゃないですから。
そこは仕方ないですよ。
では……
行くとしましょうか」
そうして私とレイド君は家族に別れを告げ、
『ゲート』を通じて、クアートル大陸へ出向く
事となった。
「『見えない部隊』からの報告は?」
「ハッ!
ここより北東に数万規模の軍隊が
進軍しているとの事です!
軍備は、上半身が人型で起動部分は車輪の、
魔導ゴーレム部隊が千はくだらないとの
事で……!」
ランドルフ帝国上空、浮遊島―――
その上で、ライさんが慌ただしく部下からの
報告を受け取り、情報を整理する。
「魔導兵器なら大丈夫だ。
こちらにはシンがいるからな。
ただ発動させちまったら……
例えば誘導飛翔体?
勢いがついちまったものは無効化出来ないん
だっけか」
「はい。私の世界にもある物理法則は常識の
範囲内ですので、無効化は不可能です。
ただし魔力を動力源としている場合は、
私が無効化した時点で次第に速度を落とし、
やがて落下するでしょう。
ただそうなると、どちらにしろ避けなければ
なりませんので」
「いかに発動させる前に奇襲するか―――
それがカギだな。
やはりワイバーンによる最高速度からの
滑空……
それにかかっているってワケか」
近付いた私をすかさず話に参加させ、
ライオネル様は書面に目を通す。
「しかし、『見えない部隊』からの報告だと
しますと、当然彼らは魔力封じの魔道具を
使っての偵察をしているはずですよね?
距離的には大丈夫なんでしょうか」
彼ら『見えない部隊』は自ら魔力を封じ、
『範囲索敵』にも魔力探知機にも引っ掛からない
事をウリとしているのだが、
それは当然、『身体強化』すら使えず―――
かなりの身体的制限がかかっているはず。
それならば、偵察範囲も限られているのでは、
と思っていると、
「魔力無し前提で鍛えているからな。
それに、なんだかんだ言って獣人族は
基本能力が高い。
『身体強化』無しでもそれなりの速度を
誇るんだ」
私の疑問にライさんが返し、
「じゃあ、偵察は獣人族に任せている、
という感じですか」
私が感心してうなずくと、
「いや、それがそうとも言えねえ。
確かに走る速さは獣人族の方が上なんだが、
持久力はどうも人間の方が上っぽいんだ。
そこは一長一短で使い分けている。
例えば発見するまでは獣人族、そこを
じっくりと調べてくるのは人間、とかな」
それはアレだろうか。
肉食獣は確かにトップスピードは速いが、
基本的に体力が無く、一瞬で仕留めないと
獲物に逃げられてしまうような。
「それは初耳です。
魔力無しになると、そういう種族特徴のような
ものがわかるんですね」
「まあ、あくまでも『見えない部隊』の中だけの
話だから、一概には言えないと思うが。
それで、そちらの準備はどうだ?」
ライオネル様が質問の方向を変えて聞いてきて、
「いつでも大丈夫です」
「おし!
じゃあ、ワイバーンの航空管制『騎』に
入ってくれ。
もういつ作戦が発動しても、おかしくない
状況だからな」
そして私は一足先に……
管制『騎』へと乗り込んだ。
『こちら、ウィンベル王国所属航空管制、
間もなく作戦空域に突入する!
シン殿の無効化に備えよ!!』
管制『騎』の中から、アリス・グレイス令嬢が
指示を出す。
小一時間後―――
すでに飛び立ったワイバーン騎士隊五騎は、
自分たちが乗る航空管制『騎』をさらに上空に
配置して、フォーメーションを組んで飛行する。
騎士隊を率いるのはもちろん、シーガル様と
ワイバーン『レップウ』。
そして後続に五騎、万が一のための
バックアップとして続いていた。
「シン殿!
あと少しで、作戦空域内に入ります。
わたしの『範囲索敵』でも、相当数の
軍勢がいる事がわかりますが……」
アリス令嬢の夫であるニコル伯爵様が、
心配そうに伝えてくるが、
「大丈夫だ。
作戦内容に変更は無い。
それよりティエラ王女様、最初のアレは
あなたにやってもらう事になっているが」
ニコル様の不安をライオネル様は事も無げに
返し、そのままティエラ様に確認を取る。
「わ、わかっています!
これでもランドルフ帝国の皇族―――
むしろ、帝国としてはここで皇族も動いて
いるのだと、大ライラック国に示して
おかねばならないでしょう!」
彼女は夫予定の彼の言葉を聞いて、気合いを
入れ直し、
「では無効化を開始します。
端末を……」
そこで私は外の拡声器とつながっている
機器を受け取り、
『これより下、30メートル以下―――
そして後方20メートル以上において、
魔力など
・・・・・
あり得ない』
そう宣言すると……
管制『騎』内は慌ただしくなり、
「我々は魔力探知を避けるため、さらに
上空を目指します!
ニコル様は『範囲索敵』を引き続き
継続し、敵味方の位置の把握を!」
「了解!!」
そうして魔力ゼロになった騎士隊は―――
滑空状態で大ライラック国の軍勢へと
接近し続けた。
「……妙だな」
「何がですか?」
大ライラック国の『義勇軍』―――
中世の軍人ふうの衣装に身を固めた、
上官らしき男が、部下と共に馬に乗りながら
空に視線を送る。
「これだけの軍勢だ。
いかにランドルフ帝国といえど、接近に
気がついているはずだが」
「しかし、『範囲索敵』および魔力探知機には
何ら反応は無いと聞いております。
もし『隠蔽』や『隠密』で
偵察もしくは斥候が近付こうとも……
こちらの警戒網に引っ掛からないはずは
ありません」
「なぜそう言い切れる?」
断言する部下に彼が聞き返すと、
「その状態を長時間維持出来ないからです。
例えば、馬に乗って来る事は出来ません。
馬も『範囲索敵』・魔力探知機に見つかって
しまいますからね。
となると、徒歩でこちらに近付くしか
出来ないわけですが―――
目視可能な範囲まで近付いて、範囲の外まで
引き返す……
その間、『隠蔽』でも『隠密』でもずっと
魔法を維持する事は困難でしょう」
「そうだな。
よしんば、遠目で限定的な情報しか
得られんわけか。
だが油断は禁物だ。
改めて、警戒を厳重に―――」
と、彼らがそこまで言ったところで、
「あ、あれは!?」
「じょ、上空にワイバーンらしき騎影!
こちらに突っ込んで来ます!!」
近くで警戒に当たっていたであろう担当部隊が、
一斉に声を上げる。
「な!?
ま、魔力反応はどうなっておる!?」
部下が彼らに慌てて振り向くと、
「!
じ、自分の『範囲索敵』に反応あり!!」
「魔力探知機にも反応!!
こ、これは!?」
「そ、そんな!
今の今まで何の反応も……!」
そうこう言っている内に、複数のワイバーンは
あっという間に彼らに接近し、
「ゆ、誘導飛翔体を!!
人型魔導ゴーレムもこちらに回せ!!」
「間に合いませーん!!」
彼らに取っては―――
上空を目視警戒していた部隊がいち早く
ワイバーンを発見、
そして『突然』魔力反応が出現し、
『いきなり』『範囲索敵』と魔力探知機に
対象が出現したとしか思えず、
「攻撃に備えよ!!
全員、防御体勢!!」
上官が軍を率いる者として、対応は不可能と
判断し……
次善策として身を守る命令を下す。
そして、晒されるであろうワイバーンの
攻撃を予想、唇を噛み締めるが、
「……?」
いつまで経っても攻撃はなく、状況確認のため
周囲を見渡す。
「ワイバーンどもはどこへ行った!?」
彼の周りはまだ混乱していたが、その中の
一人が、
「は、ははっ!!
あのまま隊列を組んで我らの頭上を掠め、
どこかへ飛んで行きました!」
その報告に、上官はすぐに警戒部隊へ向かい、
「どこに行ったのかを確認しろ!!
またすぐに来るぞ!!
『範囲索敵』、それに魔力探知機は
どうなっている!?」
その命令に、彼らは慌てて確認を取り始め、
「位置、わかりました!
方向……え?」
「こちらも確認!!
……え?」
すると、間の抜けたような声があちこちから
返って来て、
「どうした?
早く報告せよ!!」
上官と一緒に行動していた部下が、彼らに
先を促すが、
「ま、ま―――」
「マ?」
「真上に反応!!」
その言葉に、彼らは一斉に上空を見上げた。
「『見えない部隊』の報告通りか。
しかし、司令官らしき人物が最前線の
部隊にいるって何なんだ。
そんでその後ろにゴーレム部隊、さらに
後方に誘導飛翔体の部隊だぁ?
度胸があるのか単にバカなのか……」
管制『騎』内で、ライさんが呆れるように話す。
「後で隊列や配置を組み直そうとでも、
思ったんですかね」
ランドルフ帝国に攻め込むつもりであれば、
まだ距離はあるからなあ。
それに、こちらの偵察は一切感付かれて
いないのだろう、本格的な反応があってから、
と考えていてもおかしくはない。
「ま、いい。
予想通り敵さんは混乱しているようだ。
ティエラ王女様、出番だぜ」
「は、はいっ!!」
そう言うと彼女はパープルの髪をかきあげ、
片手で外付けの拡声器の機器をつかんだ。
「ま、真上……だと?」
「箱のような物が見えます。
ずいぶんと高い位置にあるようですが」
「ええいっ!!
人型魔導ゴーレム隊はまだか!?」
「誘導飛翔体も早く起動せんか!!」
下の大ライラック国『義勇軍』は、未だ混乱から
立ち直れず、態勢を立て直すのに必死だったが、
『こちら、ランドルフ帝国所属航空管制!
繰り返す、ランドルフ帝国所属航空管制!!
わたくしは帝国皇族―――
ティエラ・ランドルフです!』
いきなり、頭上から女性の声が大きく響き、
全員が動きを止める。
「い、今のはあの箱からか?」
「それより、皇族と名乗っていなかったか?」
「という事は……
ランドルフ帝国はすでに、この進軍を
把握している……!?」
各々が分析を開始し、同時に動揺が
広がっていく。
そして王女は続けて、
『所属不明の武装集団に告ぐ!
先ほどのワイバーンの強襲は警告です!
あなた方は我が領地に接近中!
このまま進軍するのであれば、帝国に対する
侵攻行為と見做します!
すでにワイバーン300騎が後方に控えて
おります!
賢明な判断をお願いいたします』
それを聞いた兵士たちは顔を見合わせ、
「ワイバーンが300騎だって!?」
「確か帝国は、急激に空の戦力を整えていたと
聞くが―――」
「ど、どうするんだウチは?
降伏か!? それとも撤退か!?」
もはや応戦する気力や統制は軍には無く、
「ど、どうしますか?」
「攻撃するつもりなら、とっくに
やっているだろう。
しかし一方的に伝えられているだけだから、
うかつに動く事も出来ん。
ここは待機だ」
部下の問いに上官が答えると、
「全軍に告ぐ!
許可があるまで攻撃はするな!!
警戒態勢を維持しろ!!」
ようやく命令らしい指示を出して……
軍としての状態を立て直す。
すると、空から何かがスルスルと降りて来て、
「な、何だ―――これは?」
彼の顔の前で、紙コップのような形状のそれが
停止すると、
『……ここの武装集団の最高責任者と
お見受けします。
わたくしはティエラ・ランドルフ王女。
この行動と今後の対応について協議したい。
交渉は可能ですか?』
そこから聞こえる声に、上官は目を丸くして
驚くが、
「あ、ああ。
自分が責任者だ。
交渉はこちらも望むところである」
『わかりました。
それでは、今からそちらへ降り立ちますので、
一切の戦闘行為を禁止してください。
もし攻撃が行われた場合は交渉意思が無いと
見做します』
「わかった―――」
応答が終わると同時に、その器具はスルスルと
上空へ戻っていき、
そしてゆっくりと、ワイバーンに固定された
巨大な箱が降りて来るのが見えた。
「よ、よろしいのですか?」
「後方に300騎のワイバーンが控えていると
言ったのだぞ?
いくら誘導飛翔体を備えていると言えど、
対応は出来ん。
ここでの判断の遅れは傷口を広げるだけだ」
「しかし、虚勢の可能性も……
それに300騎の規模のワイバーンが、
魔力探知機や『範囲索敵』に引っ掛からない
はずがありません!」
部下の指摘に上官は大きくため息をついて、
「現に我々は襲撃を受けたばかりではないか!
どういうからくりかはわからんが、
もし相手に『隠蔽』や『隠密』のように―――
魔力を感知させない手段があったとしたら、
ここで全滅するしか無いのだぞ!!」
『義勇軍』と称してはいるが、指揮官クラスは
全て正規兵、国家の命令で動いており、
その彼らの耳にも……
『魔導兵器が突然故障した』『魔力探知機が
反応しない、または遅れた』という情報は
入って来ていて、
最悪を想定した対応をするしかなかった。
「では、我々は」
「向こうはこちらを、『所属不明の武装集団』
と呼んだ。
ならば最後まで『義勇軍』として押し通す。
それに―――」
「それに?」
「……交渉相手はティエラ・ランドルフ。
もしかしたら人質に出来る可能性もある。
とにかく、出迎える準備だ」
そして彼から、全軍に指示を出す伝令が
散っていった。
「間もなく、ですね」
「ああ。
シン、『無効化』は終わっているな?」
着陸寸前のワイバーンの管制『騎』内で、
ティエラ様とライさんのやり取りが行われ、
最後に私へ確認する。
「はい。
何せ大軍ですので、全体に効果が及んで
いるかどうかは不明ですが―――
少なくとも、あの司令官らしき人と
その周辺は大丈夫なはずです」
実はティエラ様と地上とのやり取りの後、
通話用の器具を引き上げる際に、
それを通じて、こっそり地上への魔法無効化を
宣言しておいたのだ。
「それに、いくら何でも無差別に自軍内で、
攻撃を仕掛けてくる事は無いかと」
「念のため、5騎のワイバーン隊をそれぞれ
別方向から囲むように上空待機させ、
万が一の時は突っ込むように指示をして
おります。
わたしとアリスは引き続きここで、
皆様の帰りをお待ちしておりますので。
どうかご無事で……」
アリス・グレイス令嬢と、その夫である
ニコル・グレイス伯爵子息、他数名の
軍人と技術者を残し、
私たちは地上へと降り立った。
「ティエラ・ランドルフです。
初めまして」
「『義勇軍』総司令、リッバーです。
大ライラック国―――
いえ、元大ライラック国と言った方が
正しいか」
向こうで用意されたテントのような簡易住居に
入り、
恐らくあちらの最高司令官である人物と、
その部下であろう数名、
そしてこちらは、ティエラ様とライオネル様、
私の三名で席について対峙する。
「それではお聞きします。
あなた方の行動は明らかに、ランドルフ帝国に
対する軍事行為です。
なぜ、それをするに至ったのか。
理由をお聞かせください」
ティエラ王女様はあくまでも冷静かつ丁寧に、
彼に侵攻目的をたずねる。
「なぜ、だと?
あの合同軍事演習を見せつけられて以来、
我が国……
いや、大ライラック国とその国民は、
安心して眠れた日は無かったであろう。
安全保障のため、上層部が平和裏に技術公開を
求めたとも聞くが、それも拒否。
このまま危険を放置は出来ない。
だが軍王ガスパード様は寛容なお方だ、
それだけの理由で開戦には踏み切れなかった
のであろう。
だから我々は『義勇軍』として―――
立ち上がったのだ!!」
一通りの大義名分をこちらにぶつけてくる。
それに対し、ライさんは大きく息を吐いて、
「いやさあ、それじゃあ大ライラック国は、
同盟も組んでいない内から、他国にバンバン
手の内を明かすとでもいうのか?」
その指摘に総司令と称する男は渋面を作る。
「失礼ですがティエラ王女様。
こちらの方々は?」
彼の質問に対し、ライさんと私は姿勢を正して、
「今はまだ正式に公表していないが、
ティエラ様の婚約者にして……
ウィンベル王国先代王兄、
ライオネル・ウィンベルだ」
「ウィンベル王国所属で平民の冒険者、
シンです」
すると向こうはざわつき始め、
「王兄、それも帝国の皇族の婚約者なら
わかるが、なぜ平民が?」
「いや、待て。
シン……だと?」
「確か合同軍事演習の特別顧問とやらが、
平民の冒険者だったと聞いているが―――
まさか」
あれ、もしかして大ライラック国でも自分の名は
知られているのだろうか?
と思っていると、
「とにかく、そちらは我が帝国に非がある、
と仰るのですね?
しかし、あなた方の兵器群を確認しましたが、
あれで攻め込んで来れば……
こちらも応戦せざるを得ません。
それは覚悟の上で来たのですか?」
王女様が話を元に戻し、彼らに問い詰める。
「無論だ。
こちらとて無抵抗でやられる気は毛頭ない。
本国が動かないのであれば―――
せめて我々が、大ライラック国の威容を
見せつけてやる他ないと思ったのだ」
彼は義憤に駆られての行動だというが、
「ふーん。
しかしどう見てもありゃ、合同軍事演習に
影響を受けて作ったモンだろ?
よく軍から持って来れたなぁ、オイ」
ライさんが両腕を組みながら片足を組み、
相手をにらみつける。
「我々が裏で、大ライラック国と繋がって
いるとでも?
もし我が国が本気で攻め込むつもりなら、
この10倍の兵力は余裕で動員出来る。
見くびらないで頂きたい」
彼らは『義勇軍』という姿勢を崩さず、
ライオネル様をにらみ返す。
そこで王女様が片手を挙げて、
「どちらにしろ、あなた方の侵攻作戦は
失敗に終わりました。
直ちに撤退するか、それともこちらに従い
ランドルフ帝国に投降するか……
どちらかを選択してください」
「それこそ見くびらないでもらいたい。
例え300騎のワイバーンが相手で
あろうとも、少しは道連れにして散ろう。
無論、あなた方も無事では済ません。
結婚前の身で、気の毒とは思うが」
彼女の申し出に、拘束を匂わせながら
彼らは反発するが、
「もう、そんな事を言っている場合じゃ
ないと思うがな。
知っているか?
我が国の同盟国にチエゴ国っていうのが
あるんだが―――
そこはフェンリル様がいらっしゃってな」
「聞いた事がありませんか?
ランドルフ帝国及び同盟諸国に対し、
敵対行動した方々が、魔力や魔法を失った
という話を。
この行為、果たしてフェンリル様の
お気に召すものであると?」
未来の夫婦が、息ぴったりに彼らに
警告する。
その話は彼らも当然知っており、顔に一瞬
動揺の色を浮かべるが、
「馬鹿馬鹿しい……
もしそれが事実であるのならば、
ランドルフ帝国に敵対など、最初から
不可能ではないか!
それこそ、我々が出撃前にそうなって
いたはずだ!」
まだ自分たちの身に何が起きているか、
自覚していないのだろう。
そこで今度は私が片手を挙げて、
「えーと、一応確認して来てみては
いかがでしょうか?
みなさん、魔法は使えますか?
魔力探知機は?
数々の魔導兵器は動きますかね?」
「そんな事があれば、すぐに報告が」
総司令が口を開いた瞬間、外が騒がしくなり、
「交渉中だぞ。
誰か静かにしろと注意して来い」
その命令に一人がテントを出て行くが、
数分後、顔色を青ざめさせて戻って来て―――
「どうした?」
「ほ、報告します……!
あらゆる魔導兵器、魔力探知機が
故障した模様!
そ、それに―――
魔法が発動しなくなったとの報告が
次々と……
私も魔法が一切使えなくなったようです」
リッバー総司令は、報告に来た部下と
私たちの間で視線を往復させる。
「な、何をした!?」
「どうやら、フェンリル様の怒りを
買ったようですね。
フェンリル様は、無益な争いや殺生を
好みません。
だから魔法を封じたのでしょう」
「だからこちらは警告に留めたのだ。
もし戦闘になっていれば、こちらも含めて
魔法を封じられる可能性があったからな。
言っておくが……
フェンリル様の怒りは何も敵だけに
向けられるものではない。
むしろあの方は、理不尽な事そのものを
嫌う。
恐らくそれは敵味方無差別に行うだろう。
これでもこっちがむやみに―――
戦争を吹っかけると思うか?」
何だかフェンリルのルクレさんのイメージが
どんどん拡大されていくけど……
私のカモフラージュとなってもらっているので、
少々申し訳なく思う。
後で差し入れでも持って行こう。
しかし、これで観念してくれるだろうと
思っていると、
「ま、魔法が使えない、だと……
だがそれがどうした!!
こちらには何万もの兵力があるのだ!
せめて貴様らを捕虜として持ち帰る!
そうすれば今後の交渉にも使えるだろう!!」
うわー、人海戦術に出て来たか。
確かにこっちは三人、外の航空管制『騎』は
ワイバーン付きなので、そっちは大丈夫
だろうけど。
「外にいる連中はここに集まれ!
彼らを捕らえ―――」
と、総司令が命令を発しようとしたところで、
テント内に突風が吹き荒れ、
今まで私たちがいたテントは遥か上空まで、
上がり、一瞬で小さくなっていった。
「『暴風姫』と呼ばれる
わたくしの実力を見ても……
そのような事が言えますか?
そして夫となるそちらのお方は―――
『全属性』の使い手ですよ?」
「俺たちを捕まえるつもりなら、そちらも
二つ名持ちを連れて来るんだったな。
もっとも連れて来たところで、魔法を
封じられていただろうが」
ティエラ様、ライオネル様の言葉にようやく
完全敗北を悟ったのか、彼らはガックリと
膝を折った。