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第10話「きみと過ごす静かな日曜日」
休日の午後。
商店街のカフェの奥、窓際の席。
春の風がカーテンを揺らして、
ゆいの髪がふわりと揺れた。
「……あのさ」
「ん?」
「こうして一緒に出かけるの、なんか不思議」
ゆいの呟きに、類は少しだけ笑った。
「どうして?」
「だって、いつも舞台とか練習とかでバタバタしてたから。
今こうしてのんびりしてるの、なんか……現実っぽくない」
「じゃあ、夢みたいってこと?」
「そうかも」
その答えに、類はコーヒーカップを口に運びながら、
少しだけ目を細めた。
「……僕は、現実の方が夢みたいだよ」
「え?」
「だって、こうして君といる時間の方が、
舞台よりずっと“生きてる”気がするんだ」
ふいに心臓が跳ねる。
言葉がうまく出てこなくて、視線を逸らす。
「……ずるい、そういう言い方」
「演出家の特権だよ」
軽口を交わしながら、
二人の距離は少しずつ、ほんの少しずつ近づいていく。
店を出て、商店街を歩く。
人混みの中、そっと類の手がゆいの手に触れた。
「……手、繋いでもいい?」
「うん」
指先が重なった瞬間、
心臓の鼓動が二人の間で重なった。
人混みの喧騒も、
遠くのアナウンスも、
全部溶けていくように、静かな時間だけが流れる。
「ねぇ、ゆい」
「なに?」
「今度の休みも、一緒に過ごそう」
「……うん。約束」
春の風が吹き抜け、
二人の手を包み込むように温めていった。