『循環の迷宮』探索の3日目。
今日は4階からスタートだ。
野営していた3階をあとにして4階に行くと、強い風が吹いていた。
3階と違って川のようなものは無く、身体を押すような強い風がこの階を支配している……そんな印象だ。
「この階は、水よりも風……といった感じですね。
何だか悪天候の日みたい」
「確かにね。私の矢も狙いがおかしくなっちゃう」
「魔法もしっかり影響を受けますからね。わたし、風の日は苦手なんですよ」
リーゼさんとエミリアさんが風の影響を訴えた。
「ルークは剣だけど、やっぱり影響ある?」
「そうですね。大きく動くほど風の力を受けるので、押されてしまいはしますが――
……ただその場その場で調整は出来ますし、お二人ほどではないかと」
「なるほど。
4階はさっさと通り抜けて、その分5階を頑張るのでも良いかもね」
「しかし4階でこれなら、もっと下はどうなってるんでしょうね。
もうびゅうびゅうなんでしょうか? わたし、ちょっと興味が出てきました」
「エミリアさん、今回は5階までですからね。
……あ、そうだ。そういえば、バーナビーさんが6階の最初にある滝をオススメしていましたっけ」
「滝? ふーん、良いじゃない。
それじゃ、6階の途中まで行ってみようよ」
滝、という言葉にリーゼさんが反応した。
ルークの方をちらっと見ると、問題ないといった感じで頷いている。
「そうですね、折角ですし滝も見ていきましょう。
今日は4階と5階を頑張って……それで明日、6階を少し見てから戻りましょうか」
そう考えると、このダンジョンを下りていくのも、基本的には今日が最終日なんだね。
今のところ良いアイテムは『水の封晶石』くらいだし、もう少し何か欲しいところだなぁ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
4階の魔物は、霧状の不定形の魔物。
剣や弓矢の攻撃があまり効かず、エミリアさんのシルバー・ブレッド頼みの戦いになっていた。
「はひー。疲れましたー」
「エミリアさん、大丈夫ですか?
こんなに頑張ってるエミリアさんには、パンのご褒美がありますよ!」
「な、なんですって!? 良いんですか? 頂きまーす♪」
前の階までに遭遇した魔物は、元の世界でもいるような感じの延長だったけど……この階についてはまるで違った。
見た目が霊的な感じ……っていうのかな? 何と、空中に顔が浮かんでいるのだ。
私としては少し理解が及ばない感じで、見ていてかなり不気味に思えてしまう。
「……いやぁ、参ったね。あの霧の魔物、属性相性が悪いよ。
矢とか剣に属性付与ができれば良いんだけど」
「属性付与ですか……。
私とルークは勉強中ですけど、まだ使えませんからね……」
勉強中とは言っても、例の属性ナイフを使った上での話だ。
仮に使えるようになっていても、その属性ナイフで戦うか……と言えば、それはまた疑問である。
「私は一応、属性付与済みの矢は何本か持ってるんだけど、1回使ったら消えちゃうんだよ。
いざというときには使うけど、雑魚相手にはねぇ……」
「そういう事情なら、仕方ありませんよね」
いわゆる切り札、というやつだろう。
準備をしていないのではなくて、物量的に多くを持っていけない。
仮にアイテムボックスを持っていても、使い回しが効かないならやっぱり使いにくいだろうしね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ! 宝箱がありますよ!」
探索中にエミリアさんの指差す方を見てみれば、通路の片隅に宝箱が1つ置いてあった。
うっかりすれば見落としそうな場所だ。
「ひっそり感が半端ないですね。
もちろん、見つけたからには取って行きますけど」
どれどれ、かんてーっ。
──────────────────
【宝箱の罠】
なし
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「珍しい……っていうか、初めてですね。罠なしですよ!
わたしが開けても良いですか!?」
エミリアさんが、はしゃぎながら言った。
そういえば最初の宝箱も、嬉しそうに開けていたっけ。
「それじゃお願いします」
「えへへ。最初の宝箱は後ろから開けたので、少し感動が足りなかったんですよね。
やっぱり前から、堂々と開けたいじゃないですか♪」
うん、気持ちは分かる。
開けた瞬間、中身はすぐに目にしたいからね。
「いきますよー? はい、ぱかっとな!」
開けた瞬間、エミリアさんの動きが止まった。
「お……? 大丈夫ですか……?」
私の声に、エミリアさんが我に返ったように動き出す。
「わー、アイナさんやりましたよ!
本です、本が入ってました!」
「本……?」
エミリアさんは宝箱から1冊の本を取り出して、それを掲げながら全員に見せた。
うん、本だ。何の本だろう? かんてーっ。
──────────────────
【解毒の書】
水魔法『キュアポイズン』を修得できる魔法道具
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「お……。
これが魔法を覚えられるようになるっていう魔法道具、ですか?」
「そうです、そうです! なかなか汎用的な魔法のものが出ましたね!」
魔法を覚えられる魔法道具……そもそもこれが、ダンジョンに来たくなった最初の理由なんだよね。
ひとまずはその目標は達成したというべきだろうか。
今回は効果が汎用的すぎて、誰が使っても別に……という感じではあるけど。
「これの扱いも最後に決めましょうか。
ダンジョンらしいものが出てきて、まずは一安心です」
「でも、まだまだだよねぇ……。
私としてはもっとこう、大物が欲しいから」
リーゼさんはまだご不満の様子だ。
うーん。戻り始める前に、もっと良いものが出てくれれば良いんだけど……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、魔物を倒しながら5階への階段があるスペースに辿り着いた。
いくつかのパーティが休憩を取っている中で、バーナビーさんたちの姿を見つける。
「バーナビーさん!」
「あ、アイナさん。この階はどうでした?」
「いやぁ……。
魔物に攻撃がなかなか効かなくて、エミリアさんがへとへとになってしまいました」
「さ、さすがに5階の魔物は違いますよね……?」
へとへとのエミリアさんが聞いてくる。
「はい、5階は魚の魔物だから安心してください。
でも、触りすぎると生臭くなるので、そこだけ注意してくださいね」
「生臭く……。それはそれで、精神ダメージですね」
「風も吹いているから、臭いが移らなければ何ともないんですけどね」
「リーダー! もう時間だよー! アイナちゃんたちと話したいのは分かるけどさー」
「続きは夜にまた話そうぜ?」
「……悪い癖……自重しないと……」
バーナビーさんの話は特に長くなりそうでもなかったが、向こうのパーティの面々が早々に催促をし始めた。
何と言うか、今回はタイミングが悪かったようだ。
「ああ、もう……。アイナさん、それでは私たちはもう行きますね。
順調にいけば、5階の最後でお会いできると思います!」
「それでは私たちも、今日はそこを目標にしますね」
「はい、では後ほど!」
そう言うと、バーナビーさんたちは5階への階段を下りていった。
……さて、私たちも昼食をとって、引き続き5階に向かうとしますか。
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