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『循環の迷宮』探索の3日目、午後は5階からスタート!
5階は風もそれなりに吹いていて、3階と同じように川が流れていた。
天井からはたまに水滴が滴っているけど、気になるほどではないかな。
パシャッ
「――お?」
不意に音のした方を見てみれば、魔物らしき魚が飛び跳ねていた。
バーナビーさんが言っていたこの階の魔物……触りすぎると生臭くなるという、ある意味ではやっかいな魔物だ。
そんな魔物の一匹が川から飛び出して、ぴちぴちと跳ねながら地面を移動している。
「……陸を移動しているとか、何だかアグレッシブな魚ですね」
「そうですね……。それにしても、隙だらけですよね……」
「それじゃルーク、倒しちゃおうか」
「はい」
ザシュッ!
魚の魔物は、ルークの一撃で倒された。
「……特に何事もなく」
あっさり息絶えた魔物を眺めていると、徐々にその身体が消えていく。
ドロップは何も無かったし、このダンジョンに入って以来のまったく盛り上がらない戦闘――
「……いや、殺気が膨れ上がったね」
「そうですね。アイナ様、エミリアさん、ご注意ください」
「え? 殺気って――」
私が口にした瞬間、川から凄まじい勢いで魚の魔物が跳ねて飛んできた。
「ひょわっ!?」
エミリアさんは変な声を出しながら、かろうじて避けている。
それを皮切りに、魚の魔物が大量に姿を現して、次々と私たちに飛び込んでくる。
「もしかして、最初の魔物を倒したから!?」
「多分ね! エミリアさんも迎え撃って!」
「は、はい! シルバー・ブレ――っどぉ!?」
エミリアさんの詠唱が終わる前に、魔物がエミリアさんの顔にぶつかった。
……うわぁ、かなり痛そう。
「エミリアさん、大丈夫ですか!?」
「だ、ダメです……。生臭い……」
そっち!?
思わず頭の中でツッコミながら、エミリアさんに引っ付いた魔物を杖で払う。
実際のところ、杖で追い払えるくらいだから……そんなに強いわけでも無さそうだ。
しかし、問題はその量だ。1匹1匹は強くないけど、集団になったら強い……そんな魔物なのだろう。
それに大量に湧いた魔物のせいで、辺りが生臭くなってきたような――
「……ああ、この臭い……。ちょっと苦手かも……」
「さっきまでは綺麗な空気だったのにね!
でも、文句は後まわし。エミリアさん、早く手伝って!」
「は、はぁい……」
ようやく起き上がったエミリアさんは、自身にヒールを掛けながら戦線に戻った。
少し顔周りの臭いを気にしているようだけど、それには触れてあげないのが優しさだろう。
その後しばらく大量の魔物と戦い続けていると、その数は徐々に減っていった。
かなりの量を倒したはずだけど、倒してしばらくすると消えちゃうから、数はよく分からないんだよね。
「……よし、これで最後ね」
リーゼさんが最後の1匹に止めを刺すと、ようやく静かな空気が訪れた。……若干、生臭いけど。
「はぁ、お疲れ様でした」
「アイナさーん……、何か臭いを取るようなアイテムはありませんか……?」
エミリアさんが、泣きそうな声で言ってくる。
「えーっと、以前こっそり作った石鹸くらいですかね……」
アイテムボックスから石鹸とタオルを出して、エミリアさんに渡す。
「ありがとうございます! ちょっとそこの川で――
……洗おうと思いましたけど、ここの水って大丈夫でしょうか。
さっきの生臭い魔物がいたわけですし……」
「言われてみれば、生臭い成分が溶けているかもしれませんね」
「そ、それは嫌です……! アイナさん、お水もください!」
水の在庫は減ってきているんだけど、今回は仕方が無いか。
とりあえず、まずはエミリアさんを綺麗にしてしまおう。
「はい、お水もどうぞ。
残りが少なくなってきたので、そろそろ補充をしておかないと」
「明日で間に合うなら、6階の滝で調達しませんか?
この階のお水でも出来るでしょうけど、気分的に嫌なので……」
エミリアさんが珍しくワガママを言う。
「そうですね。今日の分は大丈夫なので、明日にしますか。
滝の水ならいろいろな意味で綺麗でしょうし、気も滅入ることは無いでしょうし」
「まぁ、どちらにしても先に進まないとね」
「そうですね。
……あ、そうだ。ドロップの確認をしておこうかな」
倒した大量の魔物はすでに全部消えており、地面には小さい宝石や鱗のようなものが落ちている。
とりあえずそこら辺のものをかんてーっ。
……うーん。これは結構宝石が多いかな……?
あ、これは――
──────────────────
【虹色の鱗】
七色に輝く貴重な鱗
──────────────────
……初めて見るものを発見! これは価値があるのかな?
値段を鑑定すると、およそ金貨1枚くらいのようだった。
そんなに安くはないけど、そんなに高くもない。……何とも絶妙なところだ。
「ドロップは魔物の強さに比例する、なんていう話もあるからね。
これくらいの強さだと、これくらいのものしか落とさないのかな?」
「一応この鱗、金貨1枚くらいみたいですけど……高いのが出ても、これくらいなんですかね?」
「それだとしたら、実入りの少ない階だよねぇ。
6階はちらっと見るくらいだから、実質ここが最後の階になるんでしょ?」
「そうですね……。
でも宝箱があります! 宝箱に期待しましょう!」
「5の倍数階の宝箱には良いものが入っているという話もあるし、期待することにしようか」
「はい、きっと良いものがありますよ!」
ドロップがダメなら、きっと宝箱の中身が優秀!
この世界はきっと、そういう感じでバランスが取れているに違いない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
5階を散々歩き回った結果、なんと宝箱を発見することは出来なかった。
魔物の群れとは何回か戦ったものの、そちらでも特に良いものは落とさず……。
つまりこの階で一番高価なものは、最初に拾った『虹色の鱗』になる。
それ以外には宝石のドロップも少しあったが、小さく細かいものなので、売値としては安いものばかりだった。
「――アイナさん、みなさん、お疲れ様です!」
6階への階段があるスペースで出迎えてくれたのはバーナビーさんだった。
「お疲れ様です! ああー、5階も終わってしまいましたか……」
「おや? どうかしましたか?」
「実質、私たちの最後の階だったんですけど――
……宝箱はありませんでしたし、ドロップも全然だったんです」
「ああ、この階のドロップはしょっぱいですからね……。
逆に、宝箱には結構良いものが入っていたりするんですよ」
「宝箱……。
一縷の望みではあったんですが、1つも見つけられず……」
「ははは、ダンジョンなんてそんなものです。
でも何回も通っていれば、いつかは欲しいものも手に入れられるでしょう。だからこそ私たちは――」
「リーダー! くっちゃべってないで、ご飯の準備~!!」
「あとで話せば良いだろう。夜は長いんだから」
「……アイナさんたちも、野営の準備しなきゃでしょ……」
バーナビーさんの話が長くなりそうになった途端、向こうのパーティの面々がツッコミを入れ始めた。
このパターンもずいぶん慣れてきたなぁ……。
「す、すいません!
それではお互い野営の準備をして、それからまたお話をしましょう!」
「そうですね。あ、お隣のスペースは空いていますか?」
「大丈夫です! ささ、どうぞどうぞ」
私たちはバーナビーさんに促されて、彼らの隣に設営させてもらうことにした。
近くに設営が出来たら、それだけで交流もしやすくなるからね。