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罪のライブから翌日のこと。デビューしたサファイアはなにかと忙しく、律の旦那はオールナイトのラジオに出演するため、夜から自宅を空けると聞いた。例の撮影した動画をチラつかせ、律に俺のマンションへ来るように伝えた。
オールナイトのラジオは生放送で、サファイアのメンバー全員が参加する。日曜日の午後十時から始まり、翌日の朝の五時までの番組。洋楽邦楽問わず、好きなアーティストやコアな曲を語ってリクエストで選定した曲を流し、ひたすらロックやメタルについて語る番組だそうだ。
この日は旦那が留守になる。
今後、日曜日の夜は俺たちの逢瀬の日となるだろう。
それにしても自分の気持ちがコントロールできなくて怖い。夢のようなステージからたった一日しか経っていないのに、もう律に触れたくて、抱きしめたくて、傍に置きたくて堪らなくなった。
律は旦那に俺との関係が露呈しないように細心の注意を払わなくてはいけないし、笑顔であの人のいい旦那を欺き続けなければならない。
俺は彼が律をいつでもかき乱せる状態であることや、会えない時間が死ぬほど辛い日々を過ごしていかなければならない無限地獄に足を踏み入れてしまった。
俺が旦那に嫉妬して胸が抉られるような苦しみを訴えても、不貞を働いている俺の方が世間的に糾弾される。倫理に反したものが罰せられ、罪を背負って地獄を見続ける宿命(さだめ)。
そんな片棒を律に担がせてしまった。でも、もう引き返せない。時を戻すことはできない。
俺は『運命の女(ひと)』に、出会ってしまった。どんなに苦しくても、掴んだ律の手を離したくない。
この関係に永遠なんか無い。刹那の時間だからこそ、たった一秒でさえ大切にしたい。
律から自宅を出たと連絡があった。すぐにでも会いたくて玄関を飛び出した。会えない時間の方が長い分、彼女が来るのを待ち遠しく感じる時間さえも愛しく思えた。
マンションの裏口で律を待った。タクシーから降り、俺の姿を見つけて小走りに駆け寄ってくる彼女に手を挙げて応えた。
「お待たせ!」
早速律が俺の腕に絡みついてきた。
「急いで入ろう。エントランスとエレベーターには防犯カメラあるから、証拠になったりしないように、サングラスをしておいた方がいい。俺のを使っていたやつを律にやるから、これを使ってくれ」
以前整理した時に見つけたRBのグッズのひとつであるサングラスを渡してやった。
「律にやる。RBの時に使っていた、俺のお古やけどな」
RBのロゴが入った限定品。ちなみに白斗モデルや。
「えっ、いいの!? 嬉しいっ! 白斗モデルだぁっ! これ、ファンクラブで限定発売された時、欲しかったけどすごく値段が高いから諦めたやつだ! でも、こんなに高価なもの、ほんとうにもらってもいいの? 確か二十万円くらいしたよね?」
「じゃ、いらない?」
「い、いるけど…」
「欲しい?」
「欲しい!」
律が興奮して答えた。思わず笑ってしまう。
「お前喜びすぎだって。そんなに白斗(おれ)のこと好きか?」
「大好きだよっ! だって白斗は、私の永遠のアイドルだからっ」
こんなに俺を未だに好きだと言ってくれることが嬉しくて堪らない。
たとえ偽物の俺でも、それでも嬉しいと思う俺は多分頭がイカれてるんだろう。愛情に飢えすぎてるのか、愛しい女がくれる愛ならどんなものでも欲しいと浅ましく思ってしまうのか、複雑な感情ではあるけれども、俺が好きだという律が可愛いくて、愛おしくて、早くこの腕に抱きたいと心を焦らす。