大蛇の魔物ヤクルスを駆除した後、ムツキはユウに今回の件について連絡して、今後の対策を後日考えることになった。
そして、ナジュミネの蛇恐怖症の話も耳に入れると、ユウが血相を変えて即座に家の周りを妖精たちが確認することになった。こちらでも蛇の居場所はなくなることになる。しかし、ユウ本人が蛇を世界から完全に消去しないだけ、対応としては優しい部類に入る。
「おー、ムツキ様、アル様、お疲れー!」
深緑色のシマリス、ラタは2人を見つけると大声で叫んだ。いつでも元気いっぱいなのがこのリスの一番の特徴である。
そして、遠目に見て、そのリスに頭上を乗っかられている白いフクロウのルーヴァは恨めしそうな表情をしている。しかし、ラタが気にしている様子はない。
「ラタ、俺たちが来るまでいろいろとありがとうな」
ムツキはラタに労いの言葉をかける。
「いやー、なんのなんの。いや、聞きますかい? 俺と大蛇の鮮やかな攻防戦を! 俺のビューティフルな身のこなしと素早さに翻弄されて、かすり傷一つ負わせられない哀れな大蛇とのスペクタクルな一幕を!」
ラタはムツキの肩に飛び乗って、立て板に水のようなスラスラと言葉が出てくる。
「いや、あーた、どう考えても周りをウロチョロ逃げていただけじゃない?」
ルーヴァはラタの話に水を差すが、ラタはケタケタと笑い始める。
「そうとも言うな! じゃあ、華麗なる逃亡劇でいいか? グレイトエスケーパーとか?」
「あーた、そこは正直なのね。感心しちゃうわ」
ラタは臆面もなく、ルーヴァの話に乗っかる。このリスは嘘を吐かないが、少々話を大きくする傾向にあるようだ。身体の大きさの割に話のスケールが大きく感じる。
「へへっ」
「はぁ……褒めてないわよ?」
「ま、まあ、その話はまた今度聞かせてもらうことにしようかな。今日はいろいろと疲れているだろうからな。ところで、ナジュ、大丈夫か」
ルーヴァは呆れたような吐息を漏らす。ムツキもどちらかと言えば、ルーヴァに近いようだ。ラタの話をうまくかわしつつ、ナジュミネに声を掛ける。
彼女は先ほど見せた表情の欠片もなく、毅然とした態度で皆と一緒に立っていた。
「あぁ。本当にすまない。皆には迷惑をかけた。恥ずかしいところも見せてしまったな」
「そうよ! こういうのは先にムッちゃんや仲間に伝えておくべきだわ。じゃないと、皆でフォローし合えないじゃない?」
ナジュミネの謝罪にいち早く反応したのは、リゥパだった。しかし、だいぶ打ち解けたからか、お姉さんぶりたいのか、非難ではなく注意といった感じで指摘する。
「リゥパ、……そうだな」
「リゥパ、ありがとうな。ほかの皆も無事か?」
「ニャー!」
「ワン!」
「プゥ!」
一時避難から戻ってきた妖精たちが点呼と言わんばかりに可愛らしい声を上げていく。
「やはり、いいな。癒される。……さて、これで世界樹の調査を完了ということで終わりにしよう。ユウには伝えてあるから、今後の対策は後ほどこちらから話しに行く」
ムツキは皆の前でそう伝える。全員、首を縦に振り、解散といった雰囲気になったところで、リゥパが彼に抱き着いた。そして、お姫様抱っこのような状態になり、ナジュミネは眉根がピクリと動くが、無言で見守った。
「ムッちゃーん。ご褒美ちょうだい」
「あぁ。今回も世話になったからな。俺にできる範囲なら」
リゥパはムツキと唇どうしが触れそうになるくらい顔を近づける。
「ありがとう。じゃあ、パパに会ってもらえる? ……もう待てないから、私」
2人の唇の間にはリゥパの人差し指が差し込まれ、その指がお互いの唇に触れ合った。
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