赤 『はあ…』
ジリジリと焼けるような熱い空気にため息が混ざる。
「どうしたの」とクラスメイトであり親友の黄ちゃんに聞かれても、気持ちをうまく言葉にできない。
赤 『なんだろうね〜…』
…なんて、こんな言葉は一時的な誤魔化しにしかならないわけで。
赤 『はあ…』
黄 『もう…最近の赤変だよ!』
黄 『授業中も上の空だし…』
赤 『う〜ん…』
黄 『その返事も!』
黄 『う〜ん、とかあ〜、とかしか言わないし!』
赤 『あ〜…』
黄 『ほらぁ!』
赤 『ぁ…』
俺が見つけたのは二つ上の桃先輩。
俺の______一目惚れした相手。
黄 『ねえ聞いてるの?』
赤 『……….』
黄 『…赤?』
赤 『…ああ、ごめん、笑』
黄 『もしかしてさ…』
『桃先輩のこと…好き?』
赤 『…!/』
黄 『ふっ…笑』
黄 『顔真っ赤笑』
赤 『…//』
赤 『べ、別に好きなんかじゃ…/』
本当に好きなことを、「ない」と言い切れない現実が言っていた。
黄 『…僕は応援してますよ』
黄 『赤の恋…笑』
赤 『バカにするなぁ!//』
黄 『ごめんて笑』
応援してくれるのはありがたいけど…本当は恋しちゃいけない相手なんだ。
桃先輩。苗字は忘れた。バスケ部キャプテン。もちろん成績も優秀で、顔もイケメン。女子からの絶大な人気を得ていて、溢れ出るカリスマ性と優しさに女子たちはメロメロ。
そんな彼のスクールバッグには、可愛らしいキーホルダーがついている。
もう片方がないと成立しないキーホルダー。
そう。彼には彼女がいる。
一年の時から有名なカップルだそうで、彼女もまた彼同様顔が良い。
お似合い、ってやつ。
だから、俺は彼に恋などしてはいけない。
赤 『ふぅ…』
夜ご飯を買いにコンビニに立ち寄ると、涼しい風が肌に触れた。
夜ご飯を買う理由は簡単。
親がいないから。
生まれた時からいなかった。
正確にはいたのだろうけど、見たことも、会ったこともない親なんて、いないも同然。
親がいないことには、もう慣れてしまった。
…たぶん。
店 『お会計850円になります』
赤 『はい、ぁ…』
? 『よいしょっ…はいっ』
赤 『ぁ…ありがとうございま…』
赤 『…!』
赤 『桃先輩…、』
桃 『ん…?会ったことあったっけ…?』
赤 『あ、いえ、す、すみません』
桃 『ま、まあとりあえず払えよ』
赤 『あ、あ、すみませんっ!/』
店 『1000円でよろしいですか』
赤 『は、はい!』
店 『150円のお返しになります』
店 『ご利用ありがとうございました〜』
赤 『ありがとうございます…っ!』
急いで店を出て歩道に向かっていると、「ちょっと待って」と声をかけられた。
赤 『な、なんでしょう…/』
桃 『名前は…?』
赤 『赤、です…/』
桃 『…なんで俺の名前知ってんの』
桃 『見る限り同じ高校ってのはわかるけど』
桃 『話したことあった?』
赤 『ご、ごめんなさい』
赤 『俺みたいなやつが知っててごめんなさい、』
桃 『いやそうじゃなくて』
桃 『…一年生でしょ』
赤 『はい…、』
桃 『俺って一年生にも知られてんのかなって…』
赤 『…桃先輩は有名です』
赤 『彼女さんも…有名です』
桃 『そっか…、』
桃先輩はそう呟くと、俯く俺に目線を合わせる。
桃 『ありがとね、教えてくれて』
赤 『いえ…では、』
桃 『待って!』
赤 『なんですか、』
本当はこの場から早く逃げ出したかった。
”桃先輩には彼女がいる”という事実を突きつけられて、苦しくてたまらなかったから。
桃 『…なんで、こんな遅い時間にここに?』
桃 『家で…なんかあったりとかした?』
赤 『……、』
桃 『帰りづらいんだったらうちにおいで…』
赤 『さっきからなんなんですか、!』
桃 『…!』
赤 『俺のことなんて何にもわからないくせに…っ』
赤 『成績も優秀、運動神経も抜群で顔も良けりゃ彼女だっていて!』
赤 『俺にはないものを全部持ってて…っ』
赤 『そのくせ今度はお人好しアピールですか…、?笑』
赤 『優しさなんて嘘だ…っ』
赤 『俺には優しさなんていらない、っ』
今その優しさに触れてしまったら…とけてしまいそうだから。
桃 『赤…、』
赤 『…軽々しく名前呼ばないでください、』
赤 『俺なんて…所詮ゴミなんですから、』
桃 『ゴミって…』
赤 『親がいなくて、それでいてなんの取り柄もなくて、特別成績がいいわけでも運動神経がいいわけでもない俺なんて…ゴミも同然なんですよ、』
桃 『そんなことない…』
赤 『そんなことあります、!』
赤 『ずっと…言われてきたんですから、』
桃 『え…?』
赤 『小学校でも中学校でもずっと言われてきましたよ、笑』
赤 『親がいないだけでいじめられたし』
赤 『親がいないだけで何もさせてくれなかった』
赤 『何も…してくれなかった』
赤 『ゴミ扱いされるだけの人生を、ずっと生きてきたんですよ、』
赤 『そんなの桃先輩にはわからないでしょうね、笑』
本当は親がいないことに慣れてなんていないのかもしれない。
本当は、助けて欲しかったのかもしれない。
本当は、優しさを感じたいのかもしれない。
自分の放つ言葉一つ一つから、そう感じた。
赤 『…すみません、』
赤 『じゃあ帰りますから、』
そう言い残し、歩き出そうとすると、今度は手を取られた。
桃 『やっぱりうちに来い』
赤 『え…、』
桃 『入って、』
赤 『失礼します…』
桃 『…そこ、座ってていいよ』
赤 『ありがとう…ございます、』
桃 『急でごめんな』
赤 『いえ…どうせ誰もいませんし…、笑』
桃 『…あのさ』
桃 『親がいないって本当?』
赤 『嘘はつかないですよ…、笑』
桃 『…よく頑張ったな』
赤 『…!』
桃 『もっと褒められるべきなのにな、』
赤 『そんなこと…っ』
桃 『あるよ』
桃 『絶対に、ある』
桃 『…昔』
桃 『親友だったやつがいて』
桃 『そいつは…孤児だった』
桃 『それで…いじめられてた』
赤 『…、』
桃 『いじめられてるって聞いて…』
桃 『俺もまだ小さかったから…怖くてさ』
桃 『俺もいじめられるんじゃないかって、』
桃 『…バカだよな、笑』
桃 『俺はあいつを…助けてやることすらできなかったんだ、』
赤 『…その人はどうなったんですか、』
桃 『それが…わかんねえんだ、笑』
桃 『いつも通りそいつの住んでたところに行ったら…失踪したって言われてさ』
桃 『もう…どこにいるかすらわからなくなっちまったんだ、』
桃 『元々孤児だったやつの行方なんて誰も知るわけなくて』
桃 『…無事なのか無事じゃないのかすらわからない』
桃 『…親友って…なんなんだろうな、』
赤 『…、』
桃 『だから…だから…』
桃 『次そういうやつを見つけたら…絶対助けようって、決めてた』
桃 『それで家に呼んだんだ、』
赤 『そう…だったんですね…、』
赤 『ひどいこと言ってしまってごめんなさい…っ、』
桃 『良いんだよ』
桃 『俺はもっと弱音吐いて良いと思うよ』
桃 『泣いたって良い』
桃 『俺なんかより…ずっとずっと辛い思いしてきてんだからさ、』
赤 『…ポロ』
桃 『偉いな』
桃 『またなんかあったら来いよ』
ああ、おちちゃった。
桃先輩の優しさに。
黄 『赤…なんか良いことでもあったの?』
赤 『え?なんで?』
黄 『なんか…雰囲気変わったし…?』
黄 『返事もちゃんとするようになったし…?』
赤 『まあね〜…笑』
黄 『なになに』
黄 『…あ!桃先輩となんかあった!?』
赤 『うるさい笑/』
赤 『まあまあまあ…笑』
黄 『絶対なんかあった〜』
黄 『教えてよ〜』
赤 『教えな〜い』
黄 『なんでよ〜』
赤 『秘密だもんね〜』
人の優しさなんて嘘だと思ってた。
みんな仮面をかぶってて、本当の優しさなんて存在しないって思ってた。
だけど、気づいてしまった。
とけるような優しさに。
甘く、おちてしまうような優しさに。
いつか俺も、そんな優しさを持つ人間になれたら彼女もできるかも、なんてね。
とけて、おちて、またとけて______
君にまた、恋をする。
コメント
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桃くんの語ってる(?)とことか最後の赤くんのとことかめっちゃ泣けました😭✨