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とけて、おちて、またとけて。

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とけて、おちて、またとけて。

1 - とけて、おちて、またとけて。

♥

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2023年07月26日

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赤 『はあ…』


ジリジリと焼けるような熱い空気にため息が混ざる。

「どうしたの」とクラスメイトであり親友の黄ちゃんに聞かれても、気持ちをうまく言葉にできない。


赤 『なんだろうね〜…』


…なんて、こんな言葉は一時的な誤魔化しにしかならないわけで。


赤 『はあ…』

黄 『もう…最近の赤変だよ!』

黄 『授業中も上の空だし…』

赤 『う〜ん…』

黄 『その返事も!』

黄 『う〜ん、とかあ〜、とかしか言わないし!』

赤 『あ〜…』

黄 『ほらぁ!』


赤 『ぁ…』


俺が見つけたのは二つ上の桃先輩。


俺の______一目惚れした相手。








黄 『ねえ聞いてるの?』

赤 『……….』

黄 『…赤?』

赤 『…ああ、ごめん、笑』

黄 『もしかしてさ…』


『桃先輩のこと…好き?』


赤 『…!/』

黄 『ふっ…笑』

黄 『顔真っ赤笑』

赤 『…//』

赤 『べ、別に好きなんかじゃ…/』


本当に好きなことを、「ない」と言い切れない現実が言っていた。


黄 『…僕は応援してますよ』

黄 『赤の恋…笑』

赤 『バカにするなぁ!//』

黄 『ごめんて笑』


応援してくれるのはありがたいけど…本当は恋しちゃいけない相手なんだ。







桃先輩。苗字は忘れた。バスケ部キャプテン。もちろん成績も優秀で、顔もイケメン。女子からの絶大な人気を得ていて、溢れ出るカリスマ性と優しさに女子たちはメロメロ。

そんな彼のスクールバッグには、可愛らしいキーホルダーがついている。

もう片方がないと成立しないキーホルダー。


そう。彼には彼女がいる。


一年の時から有名なカップルだそうで、彼女もまた彼同様顔が良い。

お似合い、ってやつ。


だから、俺は彼に恋などしてはいけない。








赤 『ふぅ…』


夜ご飯を買いにコンビニに立ち寄ると、涼しい風が肌に触れた。

夜ご飯を買う理由は簡単。


親がいないから。


生まれた時からいなかった。

正確にはいたのだろうけど、見たことも、会ったこともない親なんて、いないも同然。


親がいないことには、もう慣れてしまった。

…たぶん。


店 『お会計850円になります』

赤 『はい、ぁ…』

? 『よいしょっ…はいっ』

赤 『ぁ…ありがとうございま…』

赤 『…!』

赤 『桃先輩…、』

桃 『ん…?会ったことあったっけ…?』

赤 『あ、いえ、す、すみません』

桃 『ま、まあとりあえず払えよ』

赤 『あ、あ、すみませんっ!/』

店 『1000円でよろしいですか』

赤 『は、はい!』

店 『150円のお返しになります』

店 『ご利用ありがとうございました〜』

赤 『ありがとうございます…っ!』


急いで店を出て歩道に向かっていると、「ちょっと待って」と声をかけられた。


赤 『な、なんでしょう…/』

桃 『名前は…?』

赤 『赤、です…/』

桃 『…なんで俺の名前知ってんの』

桃 『見る限り同じ高校ってのはわかるけど』

桃 『話したことあった?』

赤 『ご、ごめんなさい』

赤 『俺みたいなやつが知っててごめんなさい、』

桃 『いやそうじゃなくて』

桃 『…一年生でしょ』

赤 『はい…、』

桃 『俺って一年生にも知られてんのかなって…』

赤 『…桃先輩は有名です』

赤 『彼女さんも…有名です』

桃 『そっか…、』


桃先輩はそう呟くと、俯く俺に目線を合わせる。


桃 『ありがとね、教えてくれて』

赤 『いえ…では、』

桃 『待って!』

赤 『なんですか、』


本当はこの場から早く逃げ出したかった。

”桃先輩には彼女がいる”という事実を突きつけられて、苦しくてたまらなかったから。


桃 『…なんで、こんな遅い時間にここに?』

桃 『家で…なんかあったりとかした?』

赤 『……、』

桃 『帰りづらいんだったらうちにおいで…』

赤 『さっきからなんなんですか、!』

桃 『…!』

赤 『俺のことなんて何にもわからないくせに…っ』

赤 『成績も優秀、運動神経も抜群で顔も良けりゃ彼女だっていて!』

赤 『俺にはないものを全部持ってて…っ』

赤 『そのくせ今度はお人好しアピールですか…、?笑』

赤 『優しさなんて嘘だ…っ』

赤 『俺には優しさなんていらない、っ』


今その優しさに触れてしまったら…とけてしまいそうだから。


桃 『赤…、』

赤 『…軽々しく名前呼ばないでください、』

赤 『俺なんて…所詮ゴミなんですから、』

桃 『ゴミって…』

赤 『親がいなくて、それでいてなんの取り柄もなくて、特別成績がいいわけでも運動神経がいいわけでもない俺なんて…ゴミも同然なんですよ、』

桃 『そんなことない…』

赤 『そんなことあります、!』

赤 『ずっと…言われてきたんですから、』

桃 『え…?』

赤 『小学校でも中学校でもずっと言われてきましたよ、笑』

赤 『親がいないだけでいじめられたし』

赤 『親がいないだけで何もさせてくれなかった』

赤 『何も…してくれなかった』

赤 『ゴミ扱いされるだけの人生を、ずっと生きてきたんですよ、』

赤 『そんなの桃先輩にはわからないでしょうね、笑』


本当は親がいないことに慣れてなんていないのかもしれない。

本当は、助けて欲しかったのかもしれない。

本当は、優しさを感じたいのかもしれない。

自分の放つ言葉一つ一つから、そう感じた。


赤 『…すみません、』

赤 『じゃあ帰りますから、』


そう言い残し、歩き出そうとすると、今度は手を取られた。


桃 『やっぱりうちに来い』

赤 『え…、』







桃 『入って、』

赤 『失礼します…』

桃 『…そこ、座ってていいよ』

赤 『ありがとう…ございます、』


桃 『急でごめんな』

赤 『いえ…どうせ誰もいませんし…、笑』

桃 『…あのさ』

桃 『親がいないって本当?』

赤 『嘘はつかないですよ…、笑』

桃 『…よく頑張ったな』

赤 『…!』

桃 『もっと褒められるべきなのにな、』

赤 『そんなこと…っ』

桃 『あるよ』

桃 『絶対に、ある』

桃 『…昔』

桃 『親友だったやつがいて』

桃 『そいつは…孤児だった』

桃 『それで…いじめられてた』

赤 『…、』

桃 『いじめられてるって聞いて…』

桃 『俺もまだ小さかったから…怖くてさ』

桃 『俺もいじめられるんじゃないかって、』

桃 『…バカだよな、笑』

桃 『俺はあいつを…助けてやることすらできなかったんだ、』

赤 『…その人はどうなったんですか、』

桃 『それが…わかんねえんだ、笑』

桃 『いつも通りそいつの住んでたところに行ったら…失踪したって言われてさ』

桃 『もう…どこにいるかすらわからなくなっちまったんだ、』

桃 『元々孤児だったやつの行方なんて誰も知るわけなくて』

桃 『…無事なのか無事じゃないのかすらわからない』

桃 『…親友って…なんなんだろうな、』

赤 『…、』

桃 『だから…だから…』

桃 『次そういうやつを見つけたら…絶対助けようって、決めてた』

桃 『それで家に呼んだんだ、』

赤 『そう…だったんですね…、』

赤 『ひどいこと言ってしまってごめんなさい…っ、』

桃 『良いんだよ』

桃 『俺はもっと弱音吐いて良いと思うよ』

桃 『泣いたって良い』

桃 『俺なんかより…ずっとずっと辛い思いしてきてんだからさ、』

赤 『…ポロ』

桃 『偉いな』

桃 『またなんかあったら来いよ』


ああ、おちちゃった。

桃先輩の優しさに。







黄 『赤…なんか良いことでもあったの?』

赤 『え?なんで?』

黄 『なんか…雰囲気変わったし…?』

黄 『返事もちゃんとするようになったし…?』

赤 『まあね〜…笑』

黄 『なになに』

黄 『…あ!桃先輩となんかあった!?』

赤 『うるさい笑/』

赤 『まあまあまあ…笑』

黄 『絶対なんかあった〜』

黄 『教えてよ〜』

赤 『教えな〜い』

黄 『なんでよ〜』

赤 『秘密だもんね〜』


人の優しさなんて嘘だと思ってた。

みんな仮面をかぶってて、本当の優しさなんて存在しないって思ってた。


だけど、気づいてしまった。

とけるような優しさに。

甘く、おちてしまうような優しさに。


いつか俺も、そんな優しさを持つ人間になれたら彼女もできるかも、なんてね。














とけて、おちて、またとけて______















君にまた、恋をする。

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コメント

1

ユーザー

桃くんの語ってる(?)とことか最後の赤くんのとことかめっちゃ泣けました😭✨

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