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そこは公園のような場所だった。ブランコがあり、滑り台があり、砂場も花壇もある。
中心に巨大な心臓のオブジェがあることを除けば普遍的な公園だ。
彼女は1人、ブランコを漕いでいた。
『まふゆ』
「…雪」
まふゆは俯いたまま話そうとしない。
先程の出来事が尾を引いているのだろう。
『ごめんね、まふゆ。私もそんなつもりじゃなかった』
「謝らないで、どんなことがあったのかはなんとなくわかるから」
それもそうか、これらはまふゆのセカイで起きたこと。仔細はわからずとも何となく理解していてもおかしくはない。
『そっか』
そうつぶやいて、私はアイスの袋をあける。
そして半分を切り離し渡した。
「ありがとう」
素直に受け取りアイスを口に運ぶまふゆ。
まだ味もわからないだろうに、冷たくて美味しいなどというのだ。
『まふゆ』
なら、私も心を決めよう。
「何?」
『これから、そう遠くないうちに絵名たちがまた来るよ』
まふゆの体がビクッと震える。
「……そう」
『まふゆは、選ばなくちゃいけない』
「うん」
『私とここに残るか、絵名たちと帰るのか』
「………私は」
『どちらを選ぶのかじゃない、まふゆが選んで決めることが大事なの。言いたいこと、わかるよね?』
「………」
私にはわかっていた、まふゆはきっと絵名を選ぶだろうと。
その方がまふゆにとっても幸せだと。
『ねえ、まふゆ。私たちずっと一緒にいたのにこんなにおしゃべりしたり、バスに乗って出かけたりしたのは初めてだったよね』
まふゆは目に涙を溜めていた。
彼女もわかっていたのだろうか、絵名を選べば私が消滅するということを。
「……うん、あの海と星空は忘れられない」
『それはよかった。自信作だったしね』
「雪」
『いいんだよ、まふゆ。私はただの幻影、もとより存在しないものなんだから』
寂しくないと言えば嘘になる。
怖くないと言えば嘘になる。
だけど、そんなことより
目の前の愛おしい少女の未来が幸せである方がよっぽどいい。
『じゃあ、そろそろ行くね。絵名達もそろそろ来るだろうし』
そう言い残して踵を返す。
「雪!」
不意に呼び止められて少しだけ振り向く。
まふゆは、泣いていた。
『まふゆ、愛しているよ』
別れを告げて、公園を後にした。
╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶ ╶
雪が去ってしばらくした後、駆け込むようにその3人はあらわれた。
「まふゆ!」
口々に私の名前を呼んだ。
本当に、何度拒絶しても追い出しても放っておいてくれない。
だけどそんな存在が当たり前じゃないってことはよく知っている、だから私も応えなくては。
「みんな、ありがとう。こんな危険なところまで来てくれて」
「ホント!大変だったんだから!!何があったか話し切るまでは寝かさないんだからね!」
「お、えななん熱烈〜!」
「瑞稀、あんた上でも私のことを揶揄ったの忘れてないからね」
「ひ、ひええ!奏たすけてー!」
「もう…だから言ったのに。それにまふゆが置いてけぼりになってるよ」
いつも通りの日常。
久しく忘れていた感覚だ。
私はこれを享受していいのだろうか。
雪を、差し置いて。
そうだった、
ありがとうを言わないのは
さよならを言わないのは
あなたが、飲み込まれてしまわないように。
3人が手を差し伸べる。
この手を取るということは、そういうことだ。
「まふゆ」
伸ばしてしまえば、簡単に届く距離。
なのに、なのに何よりも遠い。
みんなと過ごしたあの夜。
雪と過ごした夢のような時間。
そして
絵名が隣にいたあの日々。
「絵ー
言葉を発しようとした瞬間、グラッと地面が揺れた。
「ちょっと!何よこれ!」
「奏!ボクから離れないで!」
「あ、ありがとう。瑞稀」
わかっていたこと、私が選んだのだから。
『まふゆ!』
姿は見えないけれど雪の声が響く。
「雪!」
『それを壊して!早く!!』
ふと目の前を見ると、穴の空いた心臓のようなモノがあった。
「絵名」
私は絵名の手を少しだけ強く握った。
「うん」
絵名は何も言わなかった。
その代わり、いっそう強く手を握った。
「ありがとう雪。そして、さようなら」
思いを込めて心臓へ触れる。
そしてあたりはまばゆい光に包まれた。
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目を開けると、そこは一面の桜並木だった。
「…ッ!絵名!」
あたたかい感触が無くなっていることに気づいて見回すと、どうやらみんな無事だったようだ。
「奏大丈夫?」
「うーん…まだ目がチカチカする…」
「まふゆ!あんたも無事だったみたいね!」
「うん、みんなも無事でよかった」
『ちょっと、私の心配もしてほしいな』
そういって雪が不服そうな顔をしながら歩いてきた。
「影のまふゆも無事だったんだ!」
『まあね、私のセカイでもあるわけだし』
そう言うと雪は一息はいてから、続けた。
『だけど、もうお別れ。あのセカイが無くなった今私は私を保てないから』
「はぁ!?何よそれ!そんなの聞いてないけど!」
「……」
納得がいかない様子で騒ぐ絵名。
理解していたかのような奏。
そして瑞稀も静かに俯いていた。
「雪…」
かけられる言葉がない、これで最後なのに。
たくさん言いたいことがあるのに。
『まふゆ、いいんだよ』
雪が優しく私の頬を撫でる。
そしてくるっと、絵名の方を向いた。
『消えちゃう前にさ、絵名と散歩したいな』
「へ?」
絵名が豆鉄砲を食らったように驚く。
『嫌だった?』
「い、いや。嫌とかじゃなくて、そこは普通まふゆとじゃないの?だって、最後のお別れなんでしょ?」
それを聞くと雪は再びこちらを向いて
『まふゆとはもうお別れを済ましてある。そうでしょ』
その通りだ、もう言葉なんて要らなかったのだ。
公園でブランコに乗りアイスを分け合った。
あの冷たさと横顔だけで、十分だ。
「うん、もう大丈夫。雪も、元気でね」
私の心は春風に靡く少女のように穏やかだった。
『うん!じゃあ決まりだね、行こう絵名』
そう言って絵名の手を取り歩き出した。
「あ、こら!引っ張らないでよ!」
さようなら、雪
ありがとう、雪
愛しい私の影
歩く2人の背中が離れていくのを見つめていた。
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