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鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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葛西了道との間に何があったのかは芽生には分からない。
分からないけれど、確実に目の前の男を動揺させる何かがあったことだけは確かだと思った。
「芽生、もう一度、いいか?」
京介にそっと問い掛けられた芽生は、今夜は京介に抱きつぶされることを覚悟してこくりと頷く。
それで愛しい男の不安が少しでも払拭されるのなら、構わないと思った――。
***
「カシラ! 絶縁って、どういうことですか!」
不意に、抑え目ではあるが、血の底から響くような声が聞こえてきて、芽生はゆるゆると目を開ける。
ちょうど顔のところへカーテンの隙間から挿し込む一条の光が当たってまぶしさに目を細める。
(千崎さん……?)
声の主は京介の右腕、千崎雄二のものに思えた。
でも……。
京介はまだ自分の隣にいるはず……。
(気のせいか……)
夢で幻聴を聞いたのかも知れない。眠気に侵食されて、光を避けるように寝返りを打って目を閉じたまま……。無意識にモソモソと京介の方へ手を伸ばした芽生は、隣にいたはずの京介がいないことに気が付いた。
(……京ちゃん?)
そこで再度、ゆっくりと目を開けて寝室の中を見回してみたけれど、やはり京介の姿はどこにもなかった。
ベッドサイドには昨夜芽生が京介にはぎ取られたパジャマや下着が落ちていた。布団の中、自分ばまだ裸のままなことに気が付いてブワリと身体が熱くなる。
見下ろした胸元には、沢山の鬱血痕が散らされていて、今朝がたまでのあれこれを一気に思い出した芽生は布団にくるまったままいそいそと服を手に取った。
一緒に落ちていたはずの京介の服はなかったから、京介は芽生より先に目覚めて活動を開始しているらしい。
「だから、ちぃーと声を落とせ、千崎。まだ芽生が寝てんだよ」
「こんな時になに悠長なことを言ってるんですか!? カシラ、破門じゃなくて絶縁なんですよ!? ちゃんと意味、分かってるんですか!?」
耳を澄ますと、寝室のドア越しに男たちの声がかすかに聞こえてくる。
京介は声を低めているけれど、いつも冷静なはずの千崎が珍しく感情をあらわにした話し方をしていることに芽生はパジャマを身につけながら落ち着かない気持ちになった。
上衣のボタンを全て留め終えたと同時、
「相良組はどうするつもりなんですか!?」
そんな声が空気を震わせて、芽生はビクッと指先を跳ねさせる。
(……破門じゃなくて絶縁? 相良組?)
意味は分からない。けれど、その三つの言葉が妙に胸をざわつかせる。
考えるより先に芽生は寝室を出て、ふらふらとリビングへ向かっていた。
扉を開けると同時、殿様がまるで芽生に助けを求めるみたいにニャーと、か細く鳴きながら走り寄ってきた。
視線を転ずれば、ソファに腰掛けもせず、突っ立ったままで向かい合う千崎と京介の姿――。
その空気は、寝起きの芽生の身体をひやりと突き刺すような緊張感を帯びていた。
「京ちゃん、千崎さん……今の話、どういう、意味……?」
足元の殿様を抱き上げる余裕もなく、呆然と問いかけた瞬間、二人の男の視線が芽生に集中する。
千崎は動かなかったが、京介はすぐさま眉根を寄せて、芽生の方へ大股で歩み寄ってきた。
「お前、その格好……」
低く呟き、芽生の肩を掴んだ京介に、そのまま寝室とは反対側――芽生の部屋の方へ押しやられてしまう。
「あ、あのっ、京ちゃん……!?」
「シャワー浴びて、服整えてから来い!」
「でも……」
このままじゃ千崎さんが帰ってしまう。そう思って芽生が京介にあらがっていたら、千崎が小さく息を吐いて口を開いた。
「神田さんにも関係のあることです。ちゃんと待ちますので、身支度を整えて来て下さい」
落ち着いた声音からは、さっきまでの余裕をなくした刺々しさが少しだけ和らいでいた。
芽生は小さく頷き、急ぎ足で自分の部屋へと戻っていった。
***
自分がいつも使っている側の浴室で軽くシャワーを浴びて、身体を清めた芽生は、風呂場の鏡に映る自分の姿を見てグッと息を詰まらせる。
京介のマンションの浴室の鏡は、曇り止め仕様になっていて湯気で曇らないから、嫌になるくらい自分の裸身がよく見えた。
胸元だけでなく、首筋や腹、身体をひねって見える範囲しか確認できないけれど、恐らくは背中や臀部に至るまで、あちこちに赤い花が散らされている。
そのすべてが、まるで京介の不安と比例しているように思えて、芽生は恥ずかしさや照れよりも、何となく悲しい気持ちになった。
京介がここまで考えなしに芽生へ情事の痕跡を刻み込むのは、なんだか彼らしくない。だとすれば、そうしなければ耐えられない何かが、京介にあったということだ。
(京ちゃん、昨日……様子がおかしかった……)
先程千崎と対面している京介は〝いつも通り〟に見えたけれど、それは千崎の前だから気を張っているだけかもしれない。
そう思うと、一刻も早く京介の傍へ戻りたいと思った。
***
キスマークの残る首筋を隠したくて、タートルネックのセーターにロングスカートといういでたちでリビングへ戻ると、京介と千崎はまだ同じ位置に立っていた。
芽生がいない間に話が進んでいるのかいないのか……。ただ、二人の間に漂っていた緊張感は、先ほどよりは幾分やわらいでいるように感じられた。
「……ごめんなさい、お待たせしました」
ぺこりと頭を下げる芽生に、千崎が「いえ」と短く返す。そんな二人に京介がソファを手で示し、「まぁとりあえず座ろうか」と促した。
芽生は二人の視線に少し身を縮めながら、京介の隣へ腰を下ろす。
芽生が座ると同時、どこからともなく殿様が現れて、芽生のひざの上に陣取った。芽生は、殿様のお陰で少しだけ勇気をもらえた気がして、沈黙を破るように正面へ座る千崎に向けて口を開く。
「……あ、あのっ、千崎さん。さっきたまたま聞いちゃったんです。破門……とか絶縁とか……一体どういう意味ですか?」
芽生の真っすぐな視線を受けた千崎が、だが自分では語りたくないみたいに京介へと視線を送った。
京介は一度だけ短く息を吐くと、ゆっくりと芽生の方へ顔を向ける。
「……簡単に言やぁ、破門は謹慎処分、絶縁は極道の世界から追放されるってことだ」
「……え……? でも京ちゃん、絶縁って……」
確か、千崎は〝破門じゃなくて絶縁〟と言っていたはずだ。
芽生が眉根を寄せて京介を見つめたら、京介がフッと表情を緩める。
「ああ、そうだ。俺は晴れてお前と同じ堅気の人間ってこった」
なんでもないことみたいにニッと口角を上げてみせる京介に、芽生はズキンと胸の奥が痛くなる。
京介はさも平気だという風を装っているけれど、平気じゃないから昨夜、様子がおかしかったんだと……今更のように得心した。
「京ちゃん……」
京介が泣いていないのに、何故か芽生がポロリと涙を落としてしまうとか、お門違いもいいところだ。なのに一度決壊した涙は止められなくて、ぽとぽとと降り注ぐ涙に殿様が芽生を見上げて「にゃ?」と怪訝そうな顔をする。
そんな芽生に「バーカ。何でお前が泣くんだよ」と京介が困ったような顔をして、目の前に座る千崎がスッとハンカチを差し出してくれた。
「心配すんなや、芽生。お前や殿様に迷惑が掛かるようなことはしねぇし、むしろ逆だ。これからは表の世界で堂々とお前と生きていけるんだ、普通に……。それってすげぇことだと思わねぇか?」
芽生だって、それを願わなかったわけじゃない。京介には危ない世界にいつまでもいて欲しくなかったし、足を洗ってくれるなら安心できる。
「思う……」
京介の言葉に一瞬安堵してそう答えた芽生だったけれど、同時に昨夜の京介の様子と、今こうして淡々と話す表情とのギャップが気になった。
芽生は嬉しいけれど、きっと京介は物凄くしんどいはずなのだ。
だって……京介が相良組のみんなのことを、とても大切にしているのを知っていたから……。
「……ですが、カシラ。相良組の今後は――」
それを裏付けるみたいに千崎から投げかけられた言葉に、芽生は千崎から渡されたハンカチをギュッと握りしめる。
「その話だがな、千崎。俺は相良組をお前に託そうと思う」
淡々と告げられた京介の声は、やけに静かで、でも抗いようのない重さを帯びていた。
千崎は何も言わず、ただまっすぐ京介を見ている。
その視線と視線の間に漂う、息苦しいほどの緊張。
(……相良組を、千崎さんに……?)
組のことは芽生には詳しく分からない。けれど、京介がどれだけあの場所を大事にしてきたかは、芽生だって知っているつもりだ。
その京介が〝託す〟と言った――。それは、生半可な気持ちから出た言葉じゃないだろう。
ひざの上の殿様が、ぱたりと尾を揺らした。
まるで、今この部屋で起きている何かを、敏感に察しているみたいに――。
芽生はただ、胸の奥でざわつく感情を必死に押し込めた。
京介が選んだ答えなら、信じたい――。でも、怖い。
コメント
2件
「それぞれの幸せ」で千崎さんが率いている組?は相良組の後進ってことかな。
うわぁ……この回、重いね🥀💔 京ちゃんが“平気な顔”してるのが逆にしんどかったな。 絶縁って、ただの処罰じゃなくて“もう戻れない”ってことだもんね……。 芽生が涙するシーン、こっちもグッときたよ。 それでも「お前と生きるため」って言い切るところ、やっぱり京ちゃんはかっこいいよ……。 でも、これからが本当に心配だよ。続き、ちゃんと見届けるね。