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彼が何度か訪れたことがあるという、カジュアルなバーに入った。
ショートカクテルを一杯ずつ頼むと、「私がまた何か君を困らせたのか?」と、少しばかり当惑したように問いかけられた。
「いえ……」と、とっさに首を振る。
「私の方が勝手に思っていただけで……。その、あなたと本当に合ってるのかなって……」
彼をあまり困らせてもと、アルコールの後押しで、胸のつかえを吐き出した。
「そんなことを気にしていて……。だがそれは、私が、君を好きでという理由だけでは、埋められないんだろうか」
なんのてらいもない言葉で告げられ、一瞬口をポカンと開けた後に、首をふるふると何度も振る。
彼からのストレートな思いに、(そうだ私は、釣り合いとか気にせずに、この人のこういう裏表のない一面に触れて、お付き合いを始めたんだった)と、交際を受けた時の気持ちを、改めて思い出した。
飲み込んだお酒とともに、しこりのようにつっかえていた不安も流れ落ちると、
「私も、貴仁さんのことが、大好きです」
晴れやかな笑顔で伝えることができて、彼からも穏やかな安堵の笑みが返された。
騒ぐ声が聴こえて、ふとお店の奥に目をやると、ダーツで盛り上がっている数人のグループが見えた。
「ダーツがあるんですね」
何気なく口にすると、
「ああ、やってみるか?」
ダーツの矢が的に当たり歓声を上げている人たちへ、彼が視線を投げかけた。
「貴仁さんは、ダーツの経験があって?」
「ああ、割りとな。良ければいっしょにやろう」
「はい……でも、私はやったことがなくて」
あんなに小さな的に当てることなんて、自分には到底できそうもないように思える。
「私が教えるから、大丈夫だ」
彼に促され、マスターからダーツを三本ずつ計六本を受け取ると、二人で空いている的の前に向かった。