「っまって!!!」
咄嗟に伸ばした手は、_その腕に届いた。触れることが出来たら、もう二度と離れないように、本能的に手首を強く掴んだ。突きつけたままの鋭い刃先は、あと数ミリでも動いたら切れてしまいそうなほど、首にくい込んでいる。
「、、、離してよ」
そう、あの顔で彼は言った。光の無い目で口角だけ上げたような、その顔で。どこか淡々としているのに、ナイフを握る手だけは頑なに離さない。その様子にまた、心の奥底から滲み出るような苛立ちを覚えた。
ああ、そうだ。自分は、腹を立てているんだ。納得がいかないんだ。急にやってきたのはそっちの方なのに、散々ひとを夢中にさせる所が。いつもへらへらしているのに、誰よりも傷ついている所が。明るくて、自由で、すぐどこかへ行ってしまいそうなくせに、自分を大切にしない所が。私は、死にたくなるほど大嫌いなんだ。
「、、、なんで止めるんだよ」
「、、、それは、」
「もともとそういう旅だったじゃんか。今更もう戻れないんだよ」
「っ、そんなの、分かってますけど、、、!」
「ねぇ、こうする以外に方法はある?あるならとっくのとうに試してるよ」
「、でも、、、まだ、死ぬには早いんじゃ、」
「じゃあイギリスはさ、教えてくれるの?これからどう生きていけばいいのか! っわかんないからこんなことしてるんだよ、僕もお前も!」
そう彼が言い放った瞬間、頭の中で何かが焼き切れるような音がした。無意識の内に自分の手は痕が付きそうなくらいに力を入れていて、そのまま力任せに横へと振り切った。当然、不意を突かれた彼は手からナイフを手放し、宙へと舞ったそれは地面に何度かぶつかって川に落ちていった。意識がナイフに向いている隙 一瞬を狙い、勢いよく制服の胸ぐらを掴んで引き寄せる。そして、今まで散々抱えてきた思いをぶつけた。
「っ私は!貴方に生きてほしいんです!!」
その目は大きく見開かれ、酷い顔をした私を映し出した。何が起こっているのか分からないのか、抵抗もなしに呆然としている。
「、、、っ生きて欲しいって、思っちゃったんです」
「、、は、」
「確かに、これからどう生きていけばいいのかなんて、分かりませんよ。知ったこっちゃないです。、、、だから、それが分かるまで、一緒に生きてくださいよ。ほんの少しだけでもいいから」
切実な願いだった。脳を揺るがした熱は徐々に冷めつつある。
「私だって最初は死にたかったんですよ。でも、貴方のせいで、貴方と過ごした時間が楽しかったから、少し、生きてみたいと思ってしまった」
「、、、そんなの、身勝手だ」
「そうですよ。 身勝手で悪かったですね。でも、最初に死にたいなんてわがままを言ったのは、貴方の方じゃないですか 」
入れていた力をふっと解き、シャツから手を放す。
「私に、希望を持たせておいて、生きる楽しさを知らせておいて、死ぬ怖さを教えておいて、何1人死のうとしてるんですか。責任をちゃんと取ってください。 」
「っせ、責任って、、」
「これから、生きて、生きて、生きるんですよ。罪を償って、人に怒られて、死ぬほど苦しみながら、生きてしまえばいい。それだけです。」
「それだけって、ちょっと難しすぎない?」
「だから、私が居るんじゃないですか」
「、、 、、、やっぱお前ってほんと馬鹿だよね」
「えっ」
「まずなんでそっちが泣いてんの」
「え、あ、」
はっとして目を擦ると、確かに目尻が濡れていた。
「いやこれは、、、ってあなたも泣いてるじゃないですか!」
「いや、違うし!これは、その、、汗みたいなもんだし」
「言い訳下手過ぎですよ」
「うっさい!、、、あーもう、お前のせいで調子狂った、、、」
そう拗ねる彼は、今までよりもずっと子供っぽく、年相応に見えた。一先ずは憑き物が取れたようだ。そうなると自分の思い切った行動もあながち間違いではなかったと少しは思える。
「、、、なんか貴方と喧嘩すると少し清々しますね」
袖の土汚れを払いながら言う。
「喧嘩っていうか一方的な暴力じゃなかった!?ナイフ川に投げやがって、、、」
「安物だからいいじゃないですか。もう使わないでしょう?」
「それは、、、まあ、イギリスの頑張り次第」
「なんですかそれ」
そんな風に泣き腫らした声で軽口を叩き合いながら、涙塗れの少年2人は、また青空へと歩き出した。
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自分たちの住む町に帰りついた後は、毎日が常に慌ただしく回っていた。行方不明扱いになっていたわけだから、まあそりゃ当然色んな大人にお世話になった。色んな人に怒られて、色んな人に頭を下げたが、フランスが生きているこの現状だけで、後はほぼどうでも良かった。さて、大体事が収まってきた頃学校には無事復帰できたわけだが、登校初日のクラスメイトからの凄い視線を含め驚いたことがある。
フランスを虐めたあの人が、まだ生きていた。
紛れもなく平然と、そこに居た。流石に視線は合わないが、意識はされているらしい。つまり、フランスは誰も殺していない、ただの勘違い、という事になる。まあ、こんなに大注目を浴びたのに誰からもお咎めがないのは変だとは思っていたけれど。目立つような外傷はないから、本当にただの事故だった。この事実に自分が酷く安堵したことを覚えている。
とはいえ虐めはあったのだからフランス本人はどうなのかと聞いたけど、そこまで気にしてないし寧ろ虐めが止まったから無問題だそうだ。実に彼らしいと思う。そんなこんなで意外と自分達に都合のよく事が進んでしまったから、どこか拍子抜けした。まあきっと、これから嫌なこと苦しいことが山ほどあるんだろうけどなとも思う。それでもまだ今を生きていられるのは、隣にフランスがいるからかもしれない。
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「う〜っ!さぶっ!」
「もう秋ですからねー、」
「秋っていうかもう冬じゃない!?今年の秋短すぎるよ〜」
「外の自販機あったかいの追加されてましたよ」
「えまじ!?」
「あとで見に行きましょう。なんなら次の授業さぼってもいいですよ」
「うぇっ!?何イギリスがさぼんの!?」
「たまにの息抜きくらい良いでしょう。次の先生苦手ですし」
「お前、、、変わったねー、、」
「前に親に一発蹴りを入れてからですかね」
「すごいよねそれ。あれ一件から暴力とかも減ったんでしょ?」
「所詮逆らわれるのが怖かっただけみたいです」
「、、、イギリスって結構思い切り強いタイプだよね」
「、、、?そうですかね、、、?」
吹く風に身を震わせる時期になったころ、そんな会話が廊下に響いていた。全く接点はなかったのに行方不明になった直後から急につるみ始めたイギリスとフランスは、他生徒から不思議がられている。今でも、2人に話しかける者は誰一人として居らず、必然的にお互いがたった1人しかいない友人なのだ。
ガチャ、と重々しい音を立てて扉を開ける。そして、隙間から冷たい空気が流れ込んでくる。一般生徒立ち入り禁止の屋上は、地面に染み付いた汚れとともに、静かな世界を保っていた。客は自分たち以外に誰もいない。
「ここってこんな感じになってたんだ 」
「普通入れないですからね。」
「じゃあ僕らの秘密基地だね」
「、、、貴方のそういう考え割と嫌いじゃないです」
2人分の足音が響く。端に行くと格子状の柵に手を掛けて並んでしゃがみ込む。深緑の網の先に、空色が淡く広がっていて、思わず見とれた。
「、、、こうやって、普段と違うことすると、なんかあの旅を思い出すんだよね 」
「それは分かります。青空とかを見ると、特に」
「、、、あ、別に嫌な意味で言ったんじゃないからね?ただ、やっぱ楽しかったな、って」
「ふふ、これからのことも全部忘れて、やりたいことだけやるのも中々いいものですからね。今だって、後で先生に怒られるかもしれないのにここに居るのが楽しいんです」
「それはそう。やっぱたまにの息抜きは必要だよ。毎日頑張って生きてたら疲れちゃうもん。」
彼はそう言い柵の向こうを見つめた。その澄んだ色をした瞳が、自分は結構好きだったりする。
「、、、ずっと言おうと思ってたんですが、あの時、無理に止めてごめんなさい」
「あー、、、、え?」
「本当に全部、私のわがままだったので。その、ちょっと気が動転してて、貴方のことをあまり考えてない発言をしたな、と、、、」
「それまだ気にしてたの!?っ別にいいよ。現に今、こうして楽しくやってるわけだし」
「でも、もう自分で死ぬと決めたのに勝手に止められたら、嫌じゃないですか?」
「それは、、、思ったよ。、、、でも、お前が、この先そばに居てくれるって言ったじゃんか。だから、怖くないんだ。」
フランスは、花が咲くみたいにふわりと笑った。それを見て、少し心が軽くなる。やっぱりこの人は魔法使いみたいだ。
立ち上がって深く伸びをする。息を吐き出すと、空が眼前に大きく飛び込んできた。夏の群青と入道雲もいいけれど、今の季節の澄んだ高い空も、悪くない。そのまましばらくぼーっとしていると、フランスも立ち上がって伸びをした。その全く同じ動作に少し吹き出して、二人で小さく笑い合う。
こんな日々が、いつまでも続くことなんてありはしないのだろうけれど、それでも延命処置のようにこの言葉を繰り返している。苦しくなったら、また旅に出よう。何もかも投げ出して、どこか遠くに行ってしまおう。それで、綺麗なものを見て、何も成せないまま帰ってこよう。ちゃんと笑えるようになったら、またゆっくりと生きていこう。そんな、都合の良くて、温かいおまじないを信じて、二人は今日も、息をしていく。
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あとがきです!!!長かった!!!!(号泣)まさかこんなに長くなるとは思わなかった、、、この話だけで4000文字あるよ。最長だよ。多分。セリフ多いと長くなるね、、、
色々言いたいことはあるけど、とりあえずお疲れ様でした!!2ヶ月くらいかけて書いてるので調子のいい所と悪い所が分かりやすすぎるかもしれませんが、まずここまで読んでくれたことに感謝を伝えたいです。私の学パロイギフラ概念思想を全て詰め込んだのでかなりずっしりしてます。これを機にイギフラ増えてくんねーかな、、、学パロのこのなんとも言えない距離感がもうデエ好きで、、、とにかく、自分的には馬鹿頑張ったので少しでもいいなと思ったら♡とフォローをよろしくお願いします!この通り!!m(_ _)m
ではまたー!(o・・o)/
コメント
2件
前垢から見させていただいておりまして…… もう神……最高じゃないですか!? ありがとうございます🙇♀️ いずれかは聞きたかった曲だったので、この機会に聞けたし、 神作を見させていただけて一石二鳥です✨️ ありがとうございます🙇♀️

こんな神作品ありがとうございました! フランスの暗いのに明るいようなとこがまじで好きです!(語彙力なくてすみません) イギフラ増えて欲しい!