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「あら、去年来た時よりも随分と沢山お花を植えたのね」
颯人さんのお母さん、莉華子さんは車から降りると早速家の前庭に植えてあるワイルドローズを見た。
「はい。運気が上がるって聞いて色々と植えてみました」
最近私は風水にはまっていて、大量の花を植えたり飾ったりしている。
サンフランシスコに住み始めて二度目の夏。
去年と同じ様に私の両親は、莉華子さんを連れてサンフランシスコに遊びに来た。今回は兄の|翠《あきら》と、サンフランシスコでタイミングよくコンサートをした薫も二日ほど遊びに来ている。
「颯人さんは元気にしてるの?」
翠が運転する車から降りた母は荷物を下ろしながら私に尋ねた。
「颯人さんは今日どうしても抜けれない会議があって。でも少し早めに帰ってくることになってるの」
私達は去年の秋ビザを取得しサンフランシスコに引っ越した。今、颯人さんはCSOー最高戦略責任者ーとしてMelioraで働いている。Melioraは着実に事業を拡大し、日本でも桐生グループの医療関係会社とこの秋からシステムに埋め込む為に本格的に仕事を一緒にすることになっている。
「あら、桃の木もあるのね」
「たまたま苗木屋さんで見つけたんです。上手く育つか分からないんですけど、厄払いや魔除けにもなる縁起の良い木だと聞いて……」
私が莉華子さんに植えた花の名前などを説明していると、お隣さんが声を掛けてきた。
「Hey、I remember you guys! You are Aoi’s mom and dad!」
(やあ、君たちの事覚えてるよ!蒼のお父さんとお母さんだろう!)
「Hi, Alex ……」
私はお隣のアレックスを内心冷や汗をかきながら見た。
「Hi、Alex! We are back for a vacation!」
(アレックス!またここに休暇で来たの!)
母は嬉しそうに彼に手を振った。それを見て莉華子さんも父も同じ様に手を振った。
「Great! You know I just bought some great wines. I will bring them over for you and your family!」
(よかった!実は丁度良いワインを買ったところなんだ。君の家族にもおすそ分けするよ!)
そう嬉しそうに言いながらアレックスは私に手を振った。
「Ok……Great. Thanks……」
私はそんなアレックスに嫌な予感を抱きながらも、一応にこりと微笑んで手を振った。
アレックスと奥さんのビビアンは私達の右隣に住んでいて二人とも不動産を経営している。週末は忙しくてほとんどいないが平日はこうして時々家にいる。
左隣のご主人ベンと奥さんアメリアは二人とも救急病院で医師として働いている。そしてお向かいさんのご主人ルーカスは小さな会社を経営していて、奥さんソフィアは大学の教授をしている。
実はこのご近所さん、《《とても》》仲が良い。そして大の世話好きでパーティー好きだ。皆それぞれによくホームパーティーを開き、私と颯人さんもよく招かれる。
とにかくどこかで人が集まると分かると必ず自分たちも参加したくなる人達で、家族や薫が今私の家に来ていると分かると、全員で会いに来る様な気がする……。
「あの、長旅で疲れましたよね。どうぞ中に入ってください。今すぐお茶を入れますね」
これ以上他のご近所さんに見つからない様にと急いで皆を家の中に招き入れた。
「あら、家の中にもお花がいっぱい飾ってあるのね!」
「なんかハワイに来たみたい!」
母と莉華子さんは家の玄関に飾ってある大量の蘭や観葉植物、そして生花を見て喜んだ。
「なんかジャングルみたいだな」
父は大きく枝を広げた観葉植物をかき分けながら家中を見回した。
「何だよ、この変な笛吹いてるやつ」
翠はリビングルームにある一際大きい置物を見ながら私に尋ねた。
「えっ?……ああ、それはね、ココペリ(Kokopelli)だよ」
「えっ、……ココ……ペリ……?」
翠は「へぇ……」と呟きながら、ネイティブアメリカンが敬っている、猫背で笛を吹く豊作や子宝の神<ココペリ>が家中に飾られているのを訝しげに見つめた。
薫はお腹にスパイラル模様のある受胎の女神<Spiral Goddess>の像があちこちに飾ってあるのを興味津々で見ている。
「とりあえず、荷物はその辺に置いて。疲れたでしょう?少し巻き寿司も作ってあるし、日本の和菓子も作ってみたの。よかったら食べてみて。それとも先にシャワーする?」
そうして皆でゆっくりとお茶を飲みながらお寿司やおつまみを食べて一息ついていると、突然ドアベルが鳴った。
嫌な予感がしながらも急いで玄関まで行きドアを開けた私は目を見開いた。
「Hi Aoi! We brought something for your family!」
(蒼!ご家族に色々持って来たよ!)
何とそこにはアレックスだけでなく、奥さんのビビアンやご近所さんが皆それぞれ手にワインやクッキーなど食べ物を沢山持って立っていた。
── わぁ、なんか本当に全員来た!
「Thank you. You guys are so kind……」
(ありがとう。とても親切なのね)
食べ物や飲み物を受け取り礼を言うとニコリと微笑んだ。ご近所さんも微笑み返し、しばし沈黙が流れる。
気まずい沈黙が更に続き、そこを一歩も動かない彼らを見て私は重い口を開いた。
「Would you like to meet my family……?」
(私の家族に会ってみる……?)
「YES!!」
ぞろぞろとご近所さんが中に入ってくるのを見ながら、テーブルの上にある食べ物や飲み物を見た。彼らはとにかく話が好きで、しばらく食べたり飲んだりしながら話をして帰って行く。
私はちらりと時計を見た。そろそろ颯人さんが帰ってくるはずだ。彼が帰って来る前にもう一度食料を買い足しに行こうと思い翠に声をかけた。
「お兄ちゃん、私、もう少し食べ物と飲み物買ってくる。悪いけど家見ててくれる?」
「俺が行ってこようか?」
「ううん、大丈夫。私じゃないと分からないものもあるし…。すぐ戻ってくる」
そう言って車の鍵とバッグを手にして出ようとした途端、慌てて翠に一言声をかけた。
「あのさ、アレックスとビビアン勝手にワインセラー開けてワイン飲む時あるから注意して見張ってて」
そう言い残すと、近くの食料品店まで急いで買い物に行った。
三十分後、大きな買い物袋を二つ抱えて家の中に入ると、先程よりもさらに大勢の声が聞こえる。不思議に思い買い物袋を抱えたままリビングルームを覗いた私は思わず絶句した。
── たった三十分の間に大変な事になってる……!?
外のバルコニーからは薫がバイオリンを弾く音が聞こえ、家の中は大勢の人の拍手と「ブラボー」と言う声がこだまし、中には踊ってる人もいる。
「お兄ちゃん!! 何で人が増えてるの!?」
私はキッチンに買い物袋を置くと慌てて翠に駆け寄った。
「いやさ、ビビアンが薫のことSNSで見たことあるって言い出してさ。それで一曲弾いてって話になって、そこのバルコニーで弾いてたんだよ。そしたら外で聞いてた近所の人が聴きたいって言ってここに来たんだ」
翠はチップスをパリパリと食べながら呑気に私に話した。
「ええっ!? 知らない人まで家に入れてないよね?」
私は慌てて家の中にいる人達を確認する。父と母はご近所さんと一緒に踊っていて、莉華子さんはワインを飲みながら彼らが踊ったり薫がバイオリンを弾いているのを楽しそうに見ている。