テラーノベル
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――――――――――――プルルルルルッ、と、目覚ましの音が部屋に響く。
――――うるさいな、そんなことを思いながら僕は薄目を開けた。
――――今の時間は、六時二十分。スマホで確認。
「起きるか」
だるいながらも親に学校は行けと言われているので仕方無く上体を起こす。
「あっ」
ふとベッドから降り横を見るとカーテンが開けっ放しなのが目に入った。
父に不用心だなんだと言われそうだが、部屋は見られないのでセーフと言うことにしておこう。
そして僕は窓際まで寄っていきカーテンを閉めた。
「…………って、なにやってんの。閉めなくていいじゃん………………」
きっと寝惚けてるのだろう、今日は授業寝るか、なんて思いながら下の階に降りて顔を洗いに行った。
ちなみに父親は海外出張、妹は引きこもりだ。母親は二年前に事故で亡くなった。そのせいで妹は引きこもりに。僕はその後父親に妹は頼んだと言われ、父親は家の事は放ったらかし。なんて酷い親だ、とは思ったが両親はまさに運命の出会いでさらに両想いだったらしい。その最愛の妻が亡くなったとなれば悲しくなるのも当然、と言えるだろうか。
僕にはわからない。好きな人が出来たことがないから。ただ一般的には悲しくなるのだろうな――――、とそんな空虚で実の無いことしか考えられない。
――――不意にガツン、と音がした。
「いたっ」
あぁ、やったな……。
妹のために朝ごはんの準備をしていたとこ、りんごを切った時に指を掠めてしまった。
――――――考え事なんてしながら切るからだよ、そうも思ったが後の祭り。幸い掠めただけで大した傷ではないが、菌が入るといけないし絆創膏は貼った方がいいだろう。
「…………絆創膏絆創膏、どこ置いたっけ?――――って」
リビングに置いている救急箱を探していた時、ふと時計が目に入った。
「……はぁ、急ぐか」
時計の針は七時半を指していた。学校が比較的近くにある場所を選んだとはいえそろそろ自分の準備もしていかないと遅刻しそうだ。
一つ良かったのが、もう妹のご飯の準備は終わり掛けであったことだ。
後りんごを切れば終わりというとこ――――そこで油断して怪我をしたわけだが。
「――――てかさっさと準備するか」
僕はいい加減そう思った。ご飯に添える一つの手紙を用意しながら――――――――――――――。
――――――――――――――冷え込むしんしんとした晩秋の空気が体を襲う。冬が近くなってきたこの季節。段々と枯れていく木に想いを馳せてしまうのは僕だけだろうか。
「………………?」
意味もない考えを巡らせ歩いていた時、ふと気になったことがあった。
いつも横を通る公園。見慣れたがらんとした景色だ。朝だし当たり前なのだが、この公園はそんなに規模もなく大体人はいない。稀に子供連れの親がいるのを見る程度の寂れた公園だ。
だが、今日は違った。
思わず目で追う、流れるような銀髪を。その流麗で輝かしい銀糸に目を奪われ立ち止まってしまう僕。
よく見るとその顔は愁いに染まっていて、言いようもない悲しさを漂わせていた。
…………声掛けようかな、なんて錯乱にも思える考えを抱いた後、思い直す。
そんなことをしてしまったが最後、僕は不審者のレッテルを貼られてしまう。余計な事は止した方がいいだろう。
そう締め括って公園を後にしようとした時、彼女がこっちを見た、そんな気がした――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
また時間は飛んで2Aの教室、四時間目終わり昼休みに差し掛かった頃。
「…………はぁ、なあ瑠衣~~」
僕、一夜瑠衣の机に来るや否や突っ伏しやがったこいつは、一応幼馴染であり友達でもある宮代蓮。顔がお整いになりやがってる、いわゆるイケメンの類いであるこいつはクラスでも割かし人気で、それにムードメーカーの気があるので羨ましい。…………僕にはそんな余裕無いっての。
「用件は」
わざと突き放すように僕は言った。
「いやん、つめてぇなおい」
「切り替わり速いかよ……………………」
そう、こいつはこういう奴だから関わってても気が楽だ。勿論礼儀を欠いてはいないが、図太く頑丈な奴な上に他人に手を差し伸べれる優しい気質を持ち合わせているから。
「…………いや、なんかさ。転校生が来るらしいんだよね。俺の楽園にずかずかと踏み込みやがって。まあそんなこと微塵も思ってないけどな」
アホらしい事を身振り手振り忙しなく混ぜて言ってみせる蓮。
「じゃあいいんじゃん」
僕がそう言うと、
「いやだってさ、この時期に来るのって可哀想だなって」
「…………まあ、わからなくはないけど」
今は秋が終わりに差し掛かった頃、要は冬も近くクラス内のほぼ全ての人がそれぞれのコミュニティを形成している。
その中に突然と放り込まれるのだ。気が気でないのは確かだし不安だろう。少なくとも僕ならそうだ。
「な?そうだろ」
そんな実の無い会話をしていた時、ガタン、と言う音ともに教室の扉が開いた。同時に――
「おーい、HR始めるぞ~、座れー。それと朗報。転校生が来るんで仲良くしてやってくれ」
気だるげに入ってくる先生。そして言葉の尻に付いた突然の報告に案の定クラスの反応が割れた。
嬉しい感情を露にする者。または溜め息を吐きうざったそうにする奴らに、まるで関心なんてないような連中。
思った通りの反応だ。
大変そうだな………………そう思考したと同時にガタン、と扉を開け教師に続いて入ってきたのは、流れるような銀髪に薄紅色の双眸を持つ神秘的な少女だった。
少女は名乗る。
「歌虹哀華です。趣味は歌うこと。以上です」
――――――――――――そうやって至って簡潔に、あっさりと。
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