テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
4月。いつもよりフロアが騒ついていた
“今日、新入社員入ってくるんだっけ”
“うん、営業部に一人”
私はデスクで資料を整えながら、同僚の会話を聞き流す。
新人教育は正直、得意じゃない。
教えるより、自分でやった方が早いタイプだから。
そんな時……
【桃井、新入社員の佐野の指導係お願いしてもええ?】
上司の末澤さんのその一言に私は手を止めた
「……分かりました」
断る理由はない。
なぜなら仕事だから。
『失礼します!』
会議室のドアが勢いよく開いて、背の高い青年が一歩前に出た。
高い……。
反射的にそう思う。
180cm近くはあるだろう、すらりとした体格。
黒髪は短く整えられていて、清潔感がある。
『本日からお世話になります、佐野晶哉です!』
はきはきとした声。
関西訛りが少し混じっているのが分かった。
『よろしくお願いします!』
深く頭を下げる姿は、素直そのもの。
「……桃井です。今日からあなたの指導を担当します」
『よろしくお願いします!』
顔を上げた瞬間、ぱっと笑顔が咲く。
大型犬、みたい。
失礼だけど、そんな印象だった。
『先輩、社内案内してもらってもええですか?』
「いいよ、ついてきて」
隣を歩く佐野くんは、歩幅を自然に合わせてくる。
距離感も、言葉遣いも、丁寧で。
『先輩、仕事めっちゃできるって聞きました』
「……誰から?」
『みんな言うてましたよ。完璧主義者やって』
完璧。
その言葉に、胸の奥がわずかに騒つく。
『期待に応えられるよう、頑張ります!』
そう言って、真っ直ぐにこちらを見る目は曇りがない。
新人らしい。
素直で、いい子。
少なくとも、この時の私はそう思っていた。
『分からんことあったら、何でも聞いてくださいね』
「それは私の台詞」
『はは、確かに』
屈託なく笑う佐野くん
この後輩が、私の完璧な日常を少しずつ壊していくなんて……
この時は、まだ知る由もなかった
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!