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佐野くんの指導を担当するようになって、数週間が経った。『先輩、昨日教えてもろた資料、ここで合ってます?』
「うん、大丈夫。よく出来てる」
覗き込むように画面を確認すると、修正点はほとんどない。
正直、飲み込みが早い。
『ホンマですか!よかった〜』
ぱっと表情が明るくなる。
褒めると素直に喜ぶところも、新人らしい。
「佐野くんは覚えが早いから助かる」
『いやいや、先輩の教え方が上手いだけですって』
関西弁混じりのその言い方に、思わず口元が緩む。
最初は必要以上に関わらないようにしていた。
仕事は仕事、後輩は後輩。
でも……
『先輩、これ先に確認しときました』
「ありがとう。気が利くね」
『役に立てるなら、何でもしますよ』
いつの間にか、頼る場面が増えていた。
昼休み。
『先輩、今日は弁当ですか?』
「うん」
『俺、コンビニなんですけど……一緒に食べてもええですか?』
断る理由もなく、並んで席に着く
『先輩って、休憩中も仕事の資料見てますよね』
「癖みたいなものだから」
『すごいなぁ。俺、尊敬します』
尊敬。
その言葉を、以前ほど嫌に感じなくなっている自分に気づく。
午後。
【桃井、佐野!】
上司の末澤さんに声をかけられた。
【来週、取引先との打ち合わせがあるんやけど】
「はい」
【今回は桃井をメインで、佐野も同行してもらおうと思ってる】
一瞬、言葉に詰まる。
「……佐野くんはまだ新人ですが?」
【分かってんで。でも、ええ勉強になるやろ?】
末澤さんはそう言って、佐野くんの方を見る
【佐野、どうや?】
『はい、是非お願いします!』
迷いのない返事。
会議室を出たあと。
『先輩、ありがとうございます!』
「私が決めた訳じゃないけど」
『それでもです。先輩と一緒なら安心なんで!』
その言葉は、素直で真っ直ぐで。
『足引っ張らんよう、頑張ります!』
「……期待してる」
自分でも驚くほど、自然にそう言えていた。
完璧主義者の私が、新人を連れて取引先と打ち合わせていう不安よりも”任せてみよう”と思っている。
それが、少し怖くて……
でも、悪くないとも思ってしまった。
この仕事が……
私と佐野くんの関係を……
ただの先輩と後輩から、少しだけ変えていくことになるなんて。
その時は、まだ知らない。