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「――――……――――……」
遠くで、俺を呼ぶ声が聞こえて俺は目を開けようとしたのだが、瞼が重くてなかなか開かない。体全体が重い。
「――……ジェイデン」
凛とした女性の声で名前を呼ばれる。依然として俺の瞼は開かない。
「誰だ?」
「誰…そうね。んー……私のことはヒイロと呼んでちょうだい」
ヒイロと名乗った女性は、おそらく俺の顔を覗き込んでいるのだろう。顔が近付いてくる気配を感じる。俺はなんとか口を開く。
ここはどこだ、俺は死んだのか、あんたは誰なんだ、ローはどうなったんだ……。聞きたいことを一気に話すと、ヒイロは困ったような声を漏らした。そして、ゆっくり話し始める。
「あなたは死んでいない。ここは夢の中だとでも思ってちょうだい。そして私は、ここ十数年、あなたを見守っていた者よ」
「何言ってんだ。ローはどうなった?」
「ごめんなさい。私、あなたのことしかわからないわ。でも死んではいないでしょうね。あんまり時間をかけていられない。さっさと本題に入るわね。あなたさっき、骨を折られたわよね?」
「…あぁ」
「その前はドフラミンゴの能力で撃たれた。正直あなたの体はボロボロ。弱くはないはずなのに、周りが強すぎて自分が弱いと思ってしまう」
図星だった。俺は何も言い返せない。
確かにそうだ。俺はずっと、他の人たちと比べてしまっていた。あいつらは強い。俺なんかとは比べ物にならないほどに。
だから俺がローを守るなんて言ったところで、結局は誰かに守られてばかりで、何もできなくて、こうして無様に寝転んでいて……。
悔しくて涙が出そうになるのを必死に堪える。
「そこでね、ちょっとばかり力を貸そうと思っているの」
「力…?」
「あなた今まで、自分の怪我の治りが早いと思ったことはない?」
自分の体のことなら、自分で一番よくわかる。俺は普通の人間よりも回復が早かった。
「それって、いつごろからだったか、覚えてる?」
「いつ……5,6年くらい前か」
「そう。あなたが狐の面を、緋の鼓舞を手にしてからあなたの治癒能力が格段に上がったの」
「……っ、まさかあんた」
「さあ。それはどうかしらね。私が何者かなんてどうでもいいじゃない? 私が言いたいのは、もっと治癒能力を上げてあげるってこと。今のままじゃまたすぐに傷ついちゃうもの」
「……難しいことはわからないけど、力を貸してくれるっていうなら、貰いたい」
「ええ、あげるわ。私が持っている自然治癒力を。どうせ面の中にいる私には必要のないものだもの。どうせならあなたみたいな頑張る人にあげたいわ。今までは少ししかあげなかったけど、もうすべてをあげる」
「ありがとう」
「ええ、じゃあ、おやすみ」
彼女の声を最後に、俺は再び眠りについた。
昔、気まぐれで付与しちゃったのよ。自分が作った狐の面に、私という存在を。好奇心って恐ろしいものね。成功はしたけど、肝心の戻り方が分からなくなっちゃった。
それからずーっと狐の面の中からいろんな人を見ていた。他の人たちは全然面白くなかったけど、あなたは私を手にしてからずっと頑張っていた。だからこそ、力を貸してあげたくなったの。私の中の人間としての能力を全てあげたくなるくらいには。
……でも一度に全部をあげたら重いって思われそうじゃない? だから少しずつあげるの。今回は私が持っている自然治癒力を。そしていつかは私のこの命をあなたに付与するわ。
ふふ。そうなったらあなた、1回だけ死ねる体になっちゃうわね。