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三体の魔族を倒したヒノト、キル、ルル、ニア、そしてエルフ族のシーナは、倒した瞬間、身体が光り出し、別の空間へと転移された。
目の前には、沢山の今も尚、交戦しているキルロンド生やエルフ族、魔族を映したモニターに、青や白を基調とした空のような世界が広がっていた。
「これが……転移魔法か……。これで僕たちは連れて来られたんだな…………」
沢山のモニターの前には、それを注視する緑色の長髪の男と、魔族軍四天王 セノ=リューク、そして、リリム・サトゥヌシアの姿があった。
「セノ!! てか……なんでリリムだけ……!?」
「やあ! 流石、灰人! 一番乗りだね! クリアおめでとう!」
リリムは、浮かない顔を浮かべ手を振っていた。
その横で、緑の長髪を靡かせる男は、ゆったりとヒノトたちの方を振り向いた。
ゾッ……………!
視線を向けられただけで分かる、指揮官リムルや、他の魔族ですら感じたことのない、強者の魔力。
ヒノトたち全員が、ゾクっと冷や汗を湿らせた。
「やあ、合格おめでとう、キルロンドの諸君。私が、エルフ族の族長、ロード・セニョーラだ」
「エルフ族の……族長…………」
静かに挨拶をされるが、全員の身は固まって動けない。
「確かに……。これなら良いだろう。セノ=リューク。貴様の口車に乗っただけの成果と言える」
そう頷くと、膨大な魔力を解き、ヒノトたちはその場に膝をついた。
「族長……わざと魔力で僕たちに殺気を向けてきていたのか……」
「今のは、君たちの倒してきた魔族なら、怯んで逃げるであろう魔力だ。その中で、君たちは身動きは取れないまでも立っていられた。十分な戦力と言えるだろう」
「魔族と戦わせた上で更に試したってことですか……。いい性格してますね…………」
「何とでも言うが良い。私は、族長として、エルフ族を守らなければならない責任がある」
次の瞬間、ヒノトたちの背後には、キース・グランデ、クラウド・ウォーカー、ブロンド姉弟の四人が出現した。
「キース先輩! クラウド!」
クラウドは、ニコッと笑うと、キルにピースサインを浮かべた。
「エルフ族は一緒じゃないのか……?」
「あぁ。俺たちはエルフ族とは会わなかった。しかし、運良くこの編成になれた為、あの程度の魔族なら、見つけ次第、各個撃破が出来たってわけだ」
四人の元にも族長が近付くが、先ほどの膨大な魔力は出してはいなかった。
「君たちの戦闘、素晴らしかったと言える。エルフ族との共闘、草魔法を軸とした戦闘が見られなかったのは惜しいが、君たちであれば、いつ草魔法と組み合わせても、良い戦いが出来るだろう」
ブロンド姉弟は満面の笑みでハイタッチをした。
「なんか……俺たちの時と対応違くね……?」
「まあ、あのパーティが組めたなら、実際に文句は何も言えない……どころか、現状のキルロンドで見せられる一番優秀な戦闘を見せられただろう」
「そこまで言えるか……? アイツら、氷属性二人に、炎属性のサポーター二人だろ? 属性反応も、溶解くらいしか起こせないだろうし……」
「逆だ。アイツら四人は、氷と炎の “共鳴” をうまく利用したんだ。氷属性が二人揃った時に発動される “氷共鳴” は、さっきヒノトに渡した装飾品の効果でもある、 “会心率” を高められ、炎二人による “炎共鳴” により、全員の攻撃力を高められる。ブロンド姉弟が注目されている主な理由はここだ。あの仲良し姉弟の二人組と組めただけでも強力な恩恵が大きいんだ」
「そうか……。確かに、キースはロングソードマンのアタッカーで、イーシャンは炎のサブアタッカーで “溶解” を起こせて、クラウドはそれを守る氷のシールダーに、リューシェンは炎のヒーラーだから、噛み砕いて考えれば本当に隙のない編成だな……」
そこに、セノが静かに歩み寄る。
「灰人の暴走、見てたよ」
「セノ……! お前、何を考えているんだ……? 倭国だけじゃなくて、今度はエルフ族長まで焚き付けて、俺たちに何をさせたいんだよ!」
セノは、ニタニタと笑いながらヒノトを睨む。
「ウハハっ! 灰人……『次に君たちが行くのは、エルフ王国だ』と告げたけど、もう一つ忘れてないかい……?」
そして、倭国でのセノの言葉を巡らす。
「戦場…………!! まさか…………!!」
「その通り。僕がわざわざ、僕よりも強いエルフの族長を焚き付けてまで、こんなところに来るわけないだろ?」
そこに、エルフ族長も話に参入する。
「その件は聞いている。『キルロンドの学生たちを、今回の戦争の駒にして良い』とな」
「そんな勝手なこと……国が許さないぞ…………!! エルフ族もキルロンドと友好関係じゃないのか!?」
そんなヒノトの反論に、族長 ロードは睨み付ける。
「貴様ら無知が友好関係を築いていたのは、エルフ “帝国” の方だろう……? だから、力のない王は民たちを危険な目に遭わせることになるのだ」
「そんな横暴な…………」
横から、冷静にキルが言葉を返す。
「我々生徒は、誰も転移魔法なんて高等魔法は使えない。ならば、エルフ族長に従うしかない。魔族との戦争は避けられないものだしな。それで、倭国では指揮官であったリムル=リスティアーナが攻めてきたが、今回もエルフ族に誰かが迫ってきている……という話なのか?」
いつまでも冷静なキルに、セノはニタニタと近寄る。
「エリートくんはやっぱ違うねぇ。でも考えてみて。既に王国と帝国で二分化されたエルフ族……既に魔族からの奇襲は受けていると捉えていい。今回行うのは……」
そして、今いるキルロンド生全員を見渡す。
「エルフ王国からの復讐だよ!! アハハハ!!」
「こちらから仕掛けると言うことか……!?」
「ふふ……まあこれは、僕が噛まなくても、エルフ族長が既に考えていたことなんだけどね。じゃあ、族長様、彼らに説明してあげてください」
再び魔力をメラメラと燃やし、遠い空を眺める。
「魔族三王家 アダム=レイス、及びエルフ帝国 帝王 アザミ・クレイヴを討つ…………!」
「魔族三王家まで…………!?」
「案ずるな。アダムを討つのはこの私と精鋭だ。その引き渡しとして、アザミの首はその魔族の小僧にくれてやる。君たちキルロンド生は、私たちに邪魔が入らないよう、エルフ帝国軍の相手をしていて欲しい」
「そう言うこと。今回の話は、僕から族長様に、『アザミ帝王の首を取らせてもらうことを条件に』組ませてもらった作戦なんだ。だから君たちには、草魔法の敵と戦う上で草魔法を知って欲しいとした、今回の取り組みだった。だから、今回の戦争は魔族との交戦ではないし、魔族の介入はむしろエルフ帝国側への戦闘に加わる」
「話は分かったけど……エルフ族長はいいのかよ……。その……かつての同胞たちを…………」
「貴様、ラスの息子だろう。立派な勇者教育を受けたようだな」
「勇者教育…………?」
「ふん。だが、戦争と言うのは甘くない。勇者を志願するのは構わないが、倒すべき敵と、守るべき味方、それを見誤るな。私は、今の我が民を守るのみだ」
その言葉の重みに、ヒノトは言葉を返せなかった。
次第に、他のキルロンド生たちも、続々と魔族試練を突破してこの空間へとやってくる。
しかし、たった一人、リゲル・スコーンだけが、サバイバル空間へ残されたままだった。