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ヒノトは、モニターを見ながら声を荒げる。
「おい! どう言うことだよ……!!」
モニターの画面には、最後の一人、リゲル・スコーンのみが映し出されていた。
しかし、着眼点はそこではない。
「なんでリゲルがいる場所だけ、あんな灼熱の火山みたいな地帯なんだ…………!!」
確かに最初の説明で、火山地帯があることは聞いていたが、火山地帯に飛ばされたのはリゲルだけで、当然、他のキルロンド生との合流も出来なかった。
そんなヒノトの横に静かにエルフ族長 ロードは並び、ニタリと笑みを浮かべた。
「あの小僧か……。ふっ、案ずるな。あの火山地帯に送ったのは確かに彼一人だが、ある実験の為だ」
「実験……?」
「この空間試練で見たいのは、何も戦闘だけではない、と言うことだ」
その言葉を受けたまま、ヒノトはじっと、心配そうにモニターを覗き込んだ。
「た、た、助けてください〜〜〜〜!!!」
突如、リゲルの背後から、幼い容姿で緑色のショートカットの女の子が猛ダッシュで駆けてくる。
その背後には、
「魔族…………!! そんな……まだ誰とも合流できていないのに、魔族と戦闘だなんて……!」
(でも、見過ごすことなんて出来ない……!!)
岩陰に隠れていたリゲルだが、バッと少女の前に出て短剣を構えた。
「俺が相手だ!! 魔族!!」
「お前、リゲル・スコーンだな。知ってるぞ」
「俺を知ってるだと……!?」
「何せ、お前の父、スコーンの血に魔族の力を与えてやったのは、俺の父親だからな」
「じゃあお前も……炎……」
「いや、俺は水属性だ。バリアを張っても蒸発で剥がされちゃうな……。まあいいか……」
ブァン…………!
そう言うと、魔族は水のバリアを展開させる。
「先に仕留めればいいだけの話だよな」
すると、短い剣を両手に構え、二本同時に水魔力を展開させる。
(しかもアタッカーかよ……コイツ……!)
ガッ!!
右手の剣でリゲルの剣を制し、左手の剣を振るい上げる。
「迅速な攻防戦には慣れてるもんでね!!」
ゴゥッ…………
二本目の剣が襲い掛かる瞬間、リゲルは魔族の目の前から姿を消した。
“炎魔剣・陽炎”
そして、背後から現れ、剣に轟々と炎を灯す。
「そうか……。父さんから聞いていたが、そんな能力になっていたのか。ふふっ……」
そう笑みを浮かべると、足元に魔力を溜める。
“闇魔法・契約の刻印”
「なっ…………!!」
突如として、リゲルの剣の炎は掻き消された。
「どうして……! どんな魔法なんだ……!?」
「お前も、倭国遠征に行ってたなら、セノ様から聞いたんじゃないか? 魔族には “互いに傷付けられない制約がある” と言う話を」
「それは、魔族同士で争えない契約の話だろ!? 俺は契約なんてしてないし、当て嵌まらない……!」
しかし、リゲルは必死に反論を述べる中で、心臓の鼓動だけは徐々に早くなって行った。
「少し違う。魔族同士で争えない一番の理由は、 “闇魔力に刻まれた魔法を打ち消す” と言うものだ。つまり、お前は俺の前で、スコーンから継いだ “炎魔剣” は使えない」
その瞬間、魔族はリゲルに再び剣を仕向ける。
「これでもう、避けられないな」
生まれた時には、母さんは既に居なかった。
父さんは理由を説明してくれなかったけど、僕のことを中々外に出してはくれず、同伴の時にしか、敷地外に出ることは禁止されていた。
その当時は、父さんが何をしているのかは知らず、買ってもらった本を読んでは、魔法の練習をしていた。
ガチャッ
その音が部屋に響くと、僕は嬉しくなる。
「おかえり! 今夜のご飯は何〜!?」
「今日もいい子で待ってたな。そうだな、今夜は少し奮発して、里蛙の唐揚げにしよう!」
母の味も、料理のことも何も知らない僕は、少しでも豪勢そうな料理を振る舞ってくれる父は、とても優しくて、きっと沢山お金を稼いでいるのだと信じていた。
「父さん……この前の外出の時に、僕と同じ年くらいの子が、魔法を学べる学校に行っているって話を聞いたんだけど……僕も行ってみたい……」
「そうだなぁ。リゲルももう大きくなったし、魔法の勉強は頑張ってるみたいだから、近所の魔法学校に今度の休みに見学に行ってみようか!」
「本当!? やったあ!!」
父さんは別に、厳粛な人でも、冷徹な人でも、教育熱心な人でもなかった。
僕のやりたいと言ったことは基本的にしてくれる。
だからこそ、僕は父さんとの約束を聞けたんだと思う。
父さんを、信じていたんだと思う。
「リゲル・アスターナくんだね。この魔法学校では、夜の預かり学級も行っています。父子家庭で大変でしたでしょう。お父様がお帰りの際まで、お預かりできますよ」
見学から入学までは早かった。
先生も、爽やかな好青年で、父子家庭の僕の家のことや父さんのことも気にかけてくれた。
父さんは、「助かります」と答え、帰宅までの間の預かり学級への申請もしてくれた。
最後の書類申請の帰り道、夕暮れの空が綺麗に広がる路地の中で、三年ぶりに、父さんから約束事を言われた。
「リゲル、お前が望むから、学校への入学を許可した。その代わり、この約束だけは何があっても守って欲しい」
「うん! いいよ! 父さんとの約束、僕が破ったことないでしょ!!」
「そうだな……お前はいい子だからな……。じゃあ、約束してくれ。『学校内で、授業で使う魔法以外の、自分の魔法は使わないこと』を」
「え……それって、僕の炎魔法を使っちゃダメってこと……?」
「そうだ。何があっても、どんな時でも、父さんがいない時に、一人で魔法を使ってはいけない」
「わ、分かったよ……。出来るだけがんば……」
「何があっても絶対だ。約束してくれ」
その時の父さんの目は、いつもと違うことだけは、子供ながらによく覚えている。
それから程なくして、学校にも慣れた頃、とあるニュースをよく耳にした。
「なあ、また現れたんだって! 英雄『黒の彗星』!」
「黒の彗星?」
「なんだ、リゲル知らないのか? 王国や貴族の金持ち連中から、身の危険を顧みず、俺たち平民に金品を置いてってくれる! まさに平民の英雄だよ!」
「でも、それって悪いことをしているんじゃ……?」
「少しくらいいいんだよ! 王国も貴族の連中も、最低限の物資は平民街にも送るけど、自分たちの優雅な生活はちゃんと守れるように、最低限しか供給していないんだって、うちの父ちゃんも愚痴ってたし!」
「そういうものなのかなぁ……」
その頃、預かり学級で、同じようにいつも遅くまで残っている女の子と、よく話をした。
「ねぇ、リゲルくんは知ってる? 黒の彗星……」
「ああ、なんか学校で聞いたよ。王国や貴族の金品を奪って、平民街に寄付してるとか……」
「リゲルくんは、どう思う?」
「僕は……正直よく分からない……。父さんはいつも、『誠実に生きなさい』って言ってくれるけど、もし本当に王国や貴族の人たちが、自分の至福を優先して、僕たち平民街への物量が少ないなら……少し問題かな、と思う……」
「私は……早く捕まって欲しい」
「どうして……?」
「私のお父さん、兵士なの。配属は、黒の彗星を捕まえる兵団に入ってる。だから、連日の騒ぎに、ここ最近では一緒にご飯も食べられていないんだ」
「そうだったんだ……」
彼女は、あまり笑わない子供だった。
「リゲルくん、今夜はお父さん、遅くなるみたいで、私たちが代わりにお家まで送るからね」
必ず時間には間に合っていたのに、と、少し疑問に思ったが、仕事なのだし仕方ないだろうと受け入れた。
「いたぞ!! スコーンのガキだ!!」
そう声を荒げながら、預かり学級のおばさんを蹴飛ばして、僕は複数名の覆面たちに連れ去られる。
「ちょ、ちょっと……! 僕はリゲル・アスターナ……! スコーンなんて、聞いたこともないです……!!」
「うるせぇ!! お前があの、義賊『黒の彗星』の実子だってことは調査済みなんだよ!!」
(僕が……黒の彗星の実子…………?)
そのまま、疑念をぐるぐると頭に巡らせ、僕は意識を混濁とさせられる中、固い箱へと押し入られた。