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「どうした、嬉しそうだな」
社食で来斗は竜崎に、そう訊かれた。
来斗はスマホを置き、
「今日、定時に帰れますよね」
と確認する。
そのとき、ちょうど青葉がやってきた。
今の話が聞こえたらしい。
「どうした。
何処か行くのか」
「なんか姉の友だちがご飯おごってくれるみたいで」
「……そうなのか」
おや?
社長、なんか、しょんぼりしてるな、と来斗は思う。
一緒に行きたかったのだろうか?
と思い、
「社長、僕の代わりに行かれますか?」
と訊いてみた。
「いや、別にいい。
楽しんでこい。
俺はただ――」
の先を青葉は言わなかったが、実は、青葉は、
じゃあ、今日はあいつ、店は早く閉めるのか。
行くの間に合わないな、と思っていたのだ。
竜崎が、
「お前の美人のねーちゃんと食事か、いいなあ」
と言い出す。
青葉が、
「だから、お前、あいつをまだ見てないのに、何故、美人というだけで会いたがる……」
と竜崎に言って、来斗は笑った。
ねーちゃん、社長を誘ってあげればいいのにな、と思いながら。
「あのさー、来といてあれなんだけど。
俺、社長と代ろうか?」
来斗は姉の運転する車で待ち合わせのレストランとやらに向かいながら、そう言った。
「え? ……木南さんと?
なんで」
と言うあかりは何故か、ぎくりとした顔をしている。
なんなんだ、その顔は。
社長が来ちゃまずいとか?
……男と会うとか?
いや、だからって、社長に黙ってなきゃならない理由はないよな。
この二人、付き合ってるわけでもないんだから。
っていうか、男と会うのに、俺連れてくのおかしいし……。
そこで、来斗は、はっとした。
「まさかっ。
俺を彼氏に紹介しようとっ?」
「いや、なんでよ。
あんたに紹介したいのは、女の子。
いやまあ、どんな子か知らないし。
彼氏がいないかどうかも知らないんだけど。
あの人の妹だから、すごい美人に違いないと思って」
「あの人って誰?
そもそも、誰と待ち合わせしてんの?」
「えーと……」
あかりはそこで少し迷うような顔をしたあとで、
「……孔子のアパートの前で工事してた人」
と言う。
「なんで孔子さんのアパートの前で工事してた人とご飯食べに行く話になってんだよ。
あっ、もしかして、二人でナンパされたとかっ?
いや、それだとなんで孔子さんいないの?」
「孔子は今日、別の場所で呑み」
そんなこと言っている間に、港近くのレストランの駐車場に着いた。
車から降りた途端、
「ストーカー鞠宮」
と誰かが言った。
横で、あかりが、あわわわわ、と慌てる。
「……お前、誰のストーカーなんだ?」
と来斗があかりに訊いたとき、ちょっと離れた位置にとまっていた大きな外車の側から大きな男がやってきた。
薄暗い場所からこちらに歩いてきながら、男は言う。
「迎えに行ってやりたかったんだが、時間がなくて、すまないな」
やってきたスーツ姿の男は、青葉だった。
いつもより、ちょっと目つきが鋭く、腕っ節の強そうな青葉だ。
いや、ふだんの青葉が弱そうというわけではないのだが……。
「えーと、この方は孔子のアパートの下で工事していた方で。
木南社長の従兄の大吾さん。
私の推し仲間の寿々花さんの甥御さんでもあるんだけど」
「……なんかめちゃくちゃいろいろツッコミたいんだが」
と来斗が言ったとき、ガチャリと音がして、もうひとり、車から降りてきた。
大吾と同じように暗がりから現れたのは、黒髪長髪色白の、ちょっとアンニュイで雰囲気のある美女だった。
彼女がお辞儀をすると、手入れのいい黒髪が細い肩から流れて落ちる。
「満島カンナです。
はじめまして」
カンナが顔を上げ、印象的なその目許で来斗を見たとき。
来斗はあっさり恋に落ちていた――。