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あれから僕は、仕事を終えるともときの家に寄り、添い寝をするのが日課になっていた。
毎日通っていたら、最初の方は少し戸惑ったような表情をしていたが、だんだんと二人で寝る生活に慣れてくると、なんの躊躇いもなくぼくを家に招いてくれるようになった。
r「もとき、そろそろねる?」
m「あ、うん。」
r「先にベッド、いってるね」
r「おいで。」
そう言い、僕は両手を広げる。
そうすると、リビングの方からとぼとぼと歩いてきたもときが、すっぽりと僕の両手の中に収まる。
最初は、別にわざわざハグして寝なくてもよくない?と躊躇っていたもときだけど、なんとか説得して毎日の日課にするようになると、今はなんの躊躇いもなく僕のもとに来てくれるようになっていた。
とんとんと子供をあやすように背中をさすり、よしよしと頭を撫でる。
それでも眠れない時は、一緒にお話するのがいつものことになりつつあった。
m「…ねぇ、きょう、ねれない、、」
静かに呟く。
自分の胸元の方に目をやると、なかなかしっくりくる体勢がないのか頭をふりふりと動かしている。
髪の隙間からちらりと覗く頬がぷにぷにとしていて、愛おしい気持ちが溢れそうになる。
赤ちゃんみたい、、。
僕はできるだけ冷静さを保ちながら話しかける。
r「お話、する?」
m「ん、」
普段はおしゃべりな時も多いもときだけど、夜にこうして話す時は、案外自分から話題を振ることは少なかった。
相槌も特にないため、僕が独り言を話しているような形になる。
今日もいつものように僕が一人でもときに話しかけていると、
r「それでね〜、若井がさぁ」
m「りょうちゃん」
急にもときの声が聞こえてきて、少しびっくりしたけれど、できるだけなんでもないというふうに話を繋げる。
r「ん?どしたの?」
m「ぁ、いや、、そのッ」
なぜか頬や耳の縁が赤く染まっており、何かを言いたげな様子だった。
r「うん、ゆっくりでいいよ。」
できるだけ安心するようにと、背中をさする。
m「ぼく、ね。きょう、朝からね、テレビ頑張った。」
突拍子のない言葉に少し戸惑ったが、向こうから話してくれることなんて早々ないので、一生懸命もときの話に耳を傾ける。
r「うん、そうだよね。今日、朝早かったもんね。」
m「それにねッ、そのあとのバラエティのもね、身体ちょっとだるかったけど、がんばったの。」
r「うん、今日すごい声張ってたもんね」
もときは普段、そんなに声が大きい方ではない。
どちらかと言うと、三人の時はささやくように話すことの方が多かった。
m「だからッ、その、、」
あ、褒めてほしい、のかな?
いや、でももとき、そういうのあんまり好きじゃないんじゃ、、
ぐるぐると思考を巡らしていると、急に黙り込んだもときがぼくの服をきゅっと掴んでふたたび俯く。
r「えっと、その、、」
m「ッぅ”ぅ、りょ、ちゃんの、ばかぁ、、泣」
ええ、泣いちゃった。
何か対応を間違えてしまったかもと、内心少し焦る。
r「えっと、きょう、たくさんがんばったんだね?もときは頑張り屋さんだね」
よしよしと頭を撫でる。
m「ぅ”ぁぁ、う”ぅ、ひッ、もぉ、やら”ぁ」
r「うん、がんばったがんばった、もときはすごいね。」
そうしてしばらくあやしていると、徐々に泣き止んでいった。
そして小さく呟く。
m「もっと、、」
r「ん、?」
m「…もっと、ぼくのこと甘やかして」
じわっと心が熱くなるのを感じた。
どこまで、踏み込んでもいいんだろうか。
ちらりともときの方を見ると、目の端を潤ませながら、耳の縁まで真っ赤にしてもじもじとしていた。
その姿に、ぎりぎりのところで保っている理性が崩れそうになる。
もういやってぐらいでろでろに甘やかして、全部を溶かしてあげたい欲求に駆られる。
できるだけ平静を装い、やさしく問いかけた。
r「もちろん。なにか、してほしいことある?」
きっとあまり、勝手にされるのはもときは望まない。
あくまで下手に出るように、びっくりさせないように距離を慎重に図る。
すると、静かに口を開く。
m「…じゃぁ、あたま、撫でて、いっぱい。」
r「うん、ちゃんと言えてえらいね。」
できるだけ一つ一つの動作を褒める。
そうして手のひらで包むように、優しく撫でた。
すると、褒められたのが嬉しかったのか少し蕩けた表情になる。
それが妙に扇状的で、思わずどきりとする。
あぁ、だめだ。愛おしい気持ちが、溢れて止まらなくなる。
r「もときは、ほんとにかわいいねぇ」
m「ッ、なにいって、、//」
m「もぉ、いいから、。」
もときが僕の手を退けようとする。
r「えー、もういいのぉ?さみしいなぁ。」
m「……、りょーちゃん、さみしいの?」
なんでそっちが?という顔で見つめてくる。
なんだか、もときと僕でこういうことをすることに対して根本的なずれがあるように感じた。
r「だって、もときが甘えてくれたら嬉しいに決まってるじゃん。もときが僕で満たされてくれるように、僕だってもときに満たされてるの」
m「…りょうちゃんも、なの?」
r「うん。だって、僕だって甘やかさなきゃ死んじゃう性なんだもの。笑」
m「ふふ、りょうちゃん、僕甘やかさないと死んじゃうの?笑」
r「そーだよ!笑だから、ね?」
r「もときのこと、いーっぱい甘やかさせてよ」
もときは少し考える素振りをすると、つぶらな瞳がこちらを真っ直ぐに捉える。
m「ねぇ、りょうちゃんの甘々ってどんなの?」
もときが、少しの興味を滲ませながらこちらに問う。
これは、チャンスかもしれない。
r「ぼくはねー、もうぜんぶあげたいの。たっくさん尽くして、でろでろに甘やかしたい。」
m「なにそれ、笑尽くすのってsubなんじゃないの?」
r「んー、、でも根本的には同じなんじゃない?お互いに満たされたいし、満たしたいの。」
r「僕がいっぱい尽くしたら、きっと向こうも尽くしてくれるはずでしょ?」
m「なんか、ちょっと打算的でやだ。笑」
r「ふふ、そうかも。でもね、僕は全部あげたいし、相手の全部がほしいの。」
m「なんか、思ったより重めでびっくり、」
r「えー笑若井もたぶんそんなんだよ?笑」
m「やめて、若井巻き込まないで笑」
r「ふふ、まぁそんなんだって。…もときはさ、そういうのはいや?」
m「いや、じゃないけど。」
なんとなく、もときの底に隠しているものが少しわかった気がした。
誰にでもある、案外単純な理由。
r「もときの思ってること、当ててあげる。」
え、?と怪訝そうな表情を浮かべる。
しかし、構わず僕は続ける。
r「こわい、んだよね?いつか、いなくなっちゃうんじゃないかって。…この幸せはいつまで続くのって思うと、」
あえて、少しもときが傷つくであろう言葉を発する。
r「卑屈にならなきゃ、そうやって欲望を抑えてなきゃ、…やってられないんでしょ?」
はっと、もときの目が大きく開かれる。
なんでそんなことが分かるのかと言いたげな顔だった。
m「ぇ、いや、…なん、で」
r「みんな、きっと案外そんなもんだよ。」
僕はできるだけ、もときの瞳をしっかりと捉えて告げる。
r「大丈夫、離れてかないよ?僕も若井も、絶対に。」
m「そんなのッ、わかんないじゃん。」
r「まぁ、信じれないなら今はそれでもいいよ。疑えなくなるぐらい、ずっといるから。」
r「ね、?笑」
もときの目はまた、涙で滲んでいた。
m「ぼくッ、もぅ、やめたい泣」
m「こんな、ずっと、お薬ばっかの生活、やめたい、泣」
ようやく、少し線の向こう側に触れられた気がした。
r「ねぇ、もときが嫌じゃなかったらさ、」
r「いっかい、僕に甘やかされてみてもいいんじゃない?」
m「りょう、ちゃんに…?」
r「うん、まぁ担保って言っちゃなんだけだど、人生それなりに賭けて、もときといること選んだはずだよ?」
m「まぁ、…それは、たしかに。」
m「でも、それとこれとは話がッ」
r「ちがうかもしれないけどさ?でも、もうやめたいんでしょ?お薬の生活。」
こくっと頷き、静かに同意する。
r「…じゃあ、今よりもうちょっと幸せな生活に賭けてみてもいいんじゃない?」
m「ん、」
そうして頷くと、僕の首に腕を回して、遠慮がちに頬擦りをしてきた。
あ、初めて説得できた気がする。
僕は、静かに喜びを噛み締めた。