星をじっくり見るのなんていつぶりだろうか。
最後にこの丘に来たのはもう20年は前の話だろう。両親が揃っていた最後の誕生日にもらった分厚い星座の図鑑と倉庫に眠っていた望遠鏡、それにボシマールに借りたカメラを手に持って、6歳になったばかりのギラを連れてこっそり城を抜け出したあの時が、たった一度の星空観察だった。
2人で、図鑑の中の見つけた星座に印をつけて。帰りたくないとごねたギラに、また来ようと、いつかこの図鑑の星座を全部見ようと約束をした。こっそり来ていたはずなのに丘のふもとにドゥーガがいて、怒られてしまったのまでよく覚えている。
ギラをこの城から逃がした後、ギラがいた記録は人目に触れないよう全て地下の禁書庫に仕舞い込んでしまった。けれどあの本といくつかの絵だけは手元に残してお守りのように持っていた。何回も読み返すから図鑑に載っている星座は全て覚えてしまった。私の手元にある中で、母上が、父上が、ギラが、この城で生きていた唯一の証だった。
「明日ね、流星群が来るらしいんだ。ドゥーガさんに空がよく見える場所教えてもらったし、リタには許可を取ったし………、ねぇ、お兄ちゃんも一緒に見ない?」
あの日の約束を覚えている者は、もう私以外にだれもいないけれど。
装丁がすこし色褪せた図鑑と、もう20年使っていないのに綺麗に手入れされた望遠鏡と、ボシマールから私へ形見として譲られたカメラを持って、ドゥーガとギラとあの日の丘で星を見る。流星群の合間に、ギラに星座について教えて、図鑑の見た星座に印をつける。
あの日撮った写真によく似た弟の笑顔を切り取って、少しだけ昔の自分が救われたような気がした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!