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今年の四月、三年生が始まったその頃。
仁美が声優としてプロデビューしたことは、学校でちょっとしたニュースになった。
学校中の話題になり、仁美はちょっとした人気者になっていたのだ。
「でも昨日仁美が学校にいた間、友達の京子も含めて誰も仁美の声優デビューの件について話す人はいませんでした」
「ええ、昨日の朝頃を境に、ニュースとかも含め、すべての情報がこの世から消えてたわ。だからこそ私は異変に気付いたんだけどね。それで嫌な予感がして学校を監視したら、死んだはずの仁美が普通に学校生活送ってて、そしてあなたと仲良くお家で遊んでたってワケ。ただ妖魔になったというだけでならこんなこと起きないわよ。おそらく仁美にはもともと非常に高い魔の力が備わってて、妖魔になったことで解放されたのでしょうね。ここまでくると、妖魔というよりはある種の魔女に近いかも」
「は、はあ……」
仁美の死はともかくとして、正直、話がオカルトなうえに壮大過ぎて良く分からない。
「でも、この均衡も長くはもたないと思うわ。今話した通り、妖魔は強烈な負の想念の塊。そう遠くないうちに妖魔になった仁美は暴走を始めるわ。遠くないうちに、周囲に災厄を振りまき、多くの人たちの命を奪う怪物になる。仁美がもともと持っている魔の力の強さを考えると――。最悪、この町に住む人間たち全員を祟り殺してもおかしくないわね」
「そっ、それってつまり、私のクラスメイトとか、お父さんやお母さんも!? だ、だめ、そんなのイヤ――!」
「落ち着いて、今すぐどうこうって話じゃないだろうから。仁美を観察する限り、理由はよく分からないけど、一花といることで安定しているように見えるしね。生前の仁美は、ずっと不幸のどん底にいた。お父さんもお母さんも失って、唯一の希望だった将来の夢も断たれてしまったし……」
「……………………」
罪悪感を刺激されて胸が痛んだ。
彼女が目指していた将来の夢。
それを断ったのは、まちがいなく私のせいだ。
「私は仁美のことを助けたいの。だから一花、あなたも協力して」
「きょ、協力って……、いったいなにをどうすれば?」
「別に難しい事は頼まないわ、お願いは2つ。1つは、仁美とこのまま一緒にいて、可能な限りあの子の精神を人間らしい状態に保っていてほしいの。理由はよく分からないけど、仁美は一花と一緒にいることで、心の均衡を保っているように見えるから」
「は、はい。それはもちろん構いませんけど……」
そんなことで仁美の助けになるなら大歓迎だった。
「ありがと。もう1つが”情報”よ」
「情報、ですか?」
「そう。妖魔になる以上、強烈な恨みを持つに至った出来事があるのよ。仁美の場合は、どうして首吊り自殺なんかしちゃったのか、そこに原因がある。彼女が自殺をした本当の理由を探り当てて、魂を救済し永眠させる。それを知るために必要なのは、彼女の無念がどこにあるのかってこと。仁美の負の想念の出どころがどこなのかそれを正確に理解できないと、彼女を助けることはできないわ。だからこそ、仁美に関する情報がもっと欲しいの。今は情報が全然不足してるから、疑問のピースがバラバラの状態なのよねぇ」
「……………………」
みくりは、それらの疑問を「ピースがバラバラ」と言っているが、
私の中では、もうほとんどすべてが繋がっていた。
「私もツテを使って調べるけど、もしそっちで分かったことがあれば、はい、ここにお願い」
そう言うと、みくりはカバンから名刺を取り出し、こちらに手渡してきた。
その名刺にはプロダクションの名前と連絡先が記載されている。
「劇団マーガレット 代表取締役社長 枢木みくり?」
「そうよ。私が運営してる舞台演劇がメインのプロダクション。そもそも、半年そこそこしかレッスンしてないあの子がいきなり新人デビューできたのも、私の魔法で叶えて上げたようなものだもんね」
「そ、そうだったんですか!?」
私は目を見開いた。魔法はさすがに冗談だろうが、そんな話は初耳だった。
仁美が突如として声優としてプロデビューしたという話が衝撃的過ぎて、それ以外の話なんか頭に入っていなかったのだ。
「もう半年くらい前にね、仁美がいきなり”声優になりたい”とか言い出して驚いたわ。未熟だったけど彼女はすごく熱心でね、とても真剣だった。彼女はずっと不幸のどん底。お父さんもお母さんも失って、なに一つ良い事なんかなかった。”みくねぇ”としては、夢を叶えて幸せになってほしいと思うのは当然でしょ? だからこそ、どうしてその夢まで消し去っているのか、それがとにかく気になるのよね。ま、ともかくあの子は私のプロダクションに入ったことも含めて抹消している。だからむしろこのプロダクションが、仁美にとっては死角になってるはずよ。これ以上アンタと直接接触して仁美を刺激したりしたら不味いから、もしなにか分かったことがあれば、ここに書類なり手紙なりを郵送するかたちで情報を送ってくれると助かるわ。もしほかに用があったら、プロダクションに電話して伝言を伝えてね」
情報が不足しているとか言いながら、即席でこんな結界を用意するなど、この枢木みくりがこの手の問題に手慣れているように感じる。
「あの、私からも質問していいですか?」
「なに?」
「どうして私とあなただけは、仁美が死んだことを覚えてるんでしょうか? 他のクラスメイトも全然覚えてないし、ていうか仁美が死んだ事実そのものが無かったことになってるんですよね? なのになんで、私とあなただけは覚えているんですか?」
「あくまで憶測だけど、理由は二つね。一つは、私とアンタが仁美とかかわりが深かったから、記憶の改竄が進んでない。もう一つは、私とあなたがそこそこの抵抗力を持っているということ。ここまで私の話を聞いたら分かると思うけど、私は妖魔の問題に立ち会う仕事……あー……退魔師? みたいなこともしてるのよ。あなたも、仁美の侵食に抵抗する程度には、魔の力を持ってるんじゃないかしら?」
「は、はあ……」
魔の力なんて言われてもまったくピンとこない。
「でも、多分そう遠くないうちに私たちの記憶からも、仁美が死んだ事実は消え去ると思う。一花も、怪奇現象とかに見舞われなかったら、あの子の死の方が間違いだったってそう思い込んだでしょ?」
「え、えぇ……」
実際、仁美が姿を現したその日から、私はもう仁美の死は何かの間違いだと思った。
仁美の死は、私が何かタチの悪い病気にでもかかって見た悪夢だったのだと。
だが、やはり仁美は死んでいるのだ。