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翌日。ネストの屋敷へ戻ると、俺たちが村へと帰るための準備が進められていた。
大型の幌付き馬車が六台。八十六匹の従魔たちも一緒に乗るのだが、来た時とは違い二台増えていた。
その二台には金貨八千枚と従魔たちの飼料三十袋が積んである。
|金の鬣《きんのたてがみ》の取り分だ。ミアと合わせて金貨一万枚の内、俺の分の二千枚をスタッグのギルドに預け、残り八千枚を持って帰ることにした。
ギルドにそのことを伝えに行くと、迷惑を掛けた詫びだと従魔用の飼料を押し付けられたのだ。
恐らく一袋十キロ入り。それが三十袋だ。重すぎる。
「これには毒は入ってませんから! 大丈夫ですから!」
「いや、そういうことじゃない! 荷物になるからいいっつってんだよ!」
ロバートに半ば強制的に持たされたそれが、場所を圧迫していたのだ。
「じゃぁ気を付けて帰ってね。また何かあれば呼ぶわ」
「いや、呼ばないでください」
「またまたぁ、九条ったらぁ」
「結構マジで言ってるんですけど……」
ネストとバイス、それと使用人たちに礼を言って別れの挨拶をすると、馬車は一路コット村へと走り出す。
空は快晴。ガラガラと音を立てて進む馬車は、やはり貴族たちの物と違って乗り心地はあまり良くない。しかし、それを補って余りあるほどのモフモフのクッションたちが俺には付いているのだ。
これは最早、動くベッドといっても過言ではあるまい。
さすがに金貨八千枚を運んでいると思うと気も引き締まるものだが、何かあっても俺より従魔たちの方が先に気付くだろうし、馬車の幌にかけてあるのはプラチナプレート。滅多なことでは襲われまい。
――――――――――
気分転換にと御者台へと移動し、御者との雑談に花を咲かせながらも周囲の様子を窺うこと数回。スタッグとベルモントの中間辺りを走っていたところ、ミアが荷台から顔を出す。
「あっ! お兄ちゃん。お酒買った?」
「いや、買ってないが? それがどうした?」
「カイルさんのお土産……」
「あっ!!」
言われて思い出した。カイルにお土産を買ってくるようにと頼まれていたことを……。
「どうするの? お兄ちゃん」
「しょうがない。ベルモントに寄って適当に何か買おう。王都で買ったってことにして……どうせ味なんかわからんだろ……」
「カイルさん可哀想……」
最早、引き返せる距離ではない。馬車のレンタル期間も限られているのだ。
「まあ、何も買わないよりはマシだ」
「……じゃぁ、そこでコクセイともお別れだね……」
「……ああ、そうだな。ありがとうなコクセイ」
その名を聞き、荷台からひょっこり出てきたコクセイ。その首筋に手を伸ばし、ゆっくりと撫でる。
進化したコクセイの首回りはライオンの鬣のように毛が長く、手のひらがすっぽりと埋まってしまうほどだ。
「何を言う九条殿。礼を言うのはこちらの方だ。人間共に追われることもなくなり、|金の鬣《きんのたてがみ》まで討伐したのだ。これ以上ない結果だ」
名残惜しいが、別れの時は刻一刻と迫っていた。もう会えない――ということはないだろうが、やはり別れは淋しいもの。
元々、問題が解決すれば故郷の森に帰るという条件だった。獣たちには縄張りもある。人とは住む世界が違うのだ。
ベルモントの街が近づくにつれ、その思いも強くなる。
「本当にこんなところで休憩するんですかい? もう少しでベルモントの街までいけると思いますが……」
「ああ、少し思うところがあってな。今日はここに泊ろう。野営の準備をしてくれ」
まだ夕陽は落ちていなかったが、その日は早めに足を止めた。急げばベルモントの街に辿り着けたにもかかわらずだ。
御者たちは宿屋に泊りたかっただろう。申し訳ないことをしたと思ってはいるが、今日だけは俺の我が儘に付き合ってもらった。
少しでも長くコクセイと過ごしたかったのだ。
その日、俺とミアは馬車の中でコクセイを抱きながら眠りについた。
――――――――――
ベルモントから少し離れた森の中、俺とミアは寄って来るウルフたちを一匹ずつ順番に撫でていた。握手の代わりである。
笑顔を浮かべるミア。しかし、それは口元だけ。目には涙を溜め、それを流すまいと眉間にシワを寄せ必死に耐えていたのだ。
「九条殿には色々と世話になった、この恩は必ずどこかで返す」
「気にするな。元気でな」
「バイバイ、コクセイ」
そして訪れる別れの時。嬉しそうに森を駆けて行くのかと思いきや、コクセイたちの背中はどこか淋しそうでもあり、足取りも重そうに見えた。
「よし、俺たちも行こう」
「……うん……」
歯切れの悪いミアの返事。森を後にし、馬車に乗り込もうとした刹那。遠くからウルフたちの遠吠えが聞こえ、振り向いた。
それが彼等なりの別れの挨拶なのだろう。
――さらばだ、友よ。これは今生の別れではない。この別れがいつかの再会に繋がることを夢見て、今は前へと進むのだ……。