テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
肌を刺すような秋の風が吹き抜ける夕暮れ時、美咲は駅前の小さなカフェの隅の席に座っていた。
窓ガラスには、せわしなく行き交う人々の影と、それとは対照的にぽつんと佇む自分の姿が映り込んでいる。テーブルの上で少しずつ冷めていくカプチーノを見つめながら、彼女は一週間前のあの夜のことを思い出していた。
「ごめん、もう美咲の期待に応えられない」
拓也の口から出たその言葉は、静かだったけれど、二人の3年間をきれいに終わらせるには十分すぎるほどの重さを持っていた。激しい喧嘩をしたわけでも、誰かを嫌いになったわけでもない。ただ、少しずつずれていってしまったお互いの歩幅が、もう元に戻らないところまで開いてしまっただけだった。
拓也はいつも、美咲が落ち込んでいるときに何も言わず温かいコーヒーを淹れてくれる人だった。彼の淹れるコーヒーは少し苦味が強くて、でも不思議と心が落ち着く味がした。
「もうあの味を飲むことはないんだな」
そう思うと、胸の奥がキュッと締め付けられ、視界がじんわりと滲む。カプチーノの上に描かれた綺麗なハートのラテアートが、スプーンで混ぜるまでもなく、時間の経過とともにゆっくりと形を崩していく。それがまるで、自分たちの関係の終わりのようで見つめていられなかった。
美咲は小さく息を吐き、冷めかけたカップを手に取って一口すすった。
甘くて、どこか物足りない。拓也の淹れてくれたあの苦いコーヒーとは、まるで違う味がした。
その時、店内のスピーカーから、かつて二人でよく聴いた古い洋楽のメロディが流れ始めた。イントロが流れた瞬間、心臓が跳ね、急にその場にいられなくなるような衝動に駆られる。しかし、美咲は逃げ出さずに、ただじっとその曲を聴いた。
悲しい。悔しい。どうして上手くいかなかったのだろう。
たくさんの感情が押し寄せては消えていく中で、美咲はふと気がついた。拓也と過ごした時間は、確かに終わってしまったけれど、彼からもらった優しさや、一緒に笑い合った記憶まで消えてしまうわけではないのだと。
曲が終わり、静寂が戻る。美咲は残りのカプチーノを一気に飲み干した。バッグからハンカチを取り出して軽く目元を拭い、立ち上がる。
外に出ると、すっかり夜の帳が下りていた。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、不思議と頭がすっきりしていくのを感じる。
美咲はマフラーをきゅっと巻き直し、駅の改札へと歩き出した。まだ胸の痛みは完全に消えていない。それでも、明日からは少しだけ、前を向いて歩けるような気がしていた。
END
42
44
73
コメント
10件
見るの遅くなっちゃってごめんね✋️ 表現の仕方とか 雰囲気とかすごくエモくて 見てて、実際に想像できるような そんな素晴らしい作品でした😖
書く のが 恋 の 始まり じゃ 無くて 終わり なの 新鮮 で めっちゃ 良かった 🥲💖 表現 の 仕方 とか 上手 すぎる 👏🏻✨️
え……雰囲気すごい…………😇