テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「次の方どうぞ」
目の前の扉が開き患者が入ってくる。
「失礼します。」
患者が座ったところでセレスが問いかける。
「今日はどうなさいましたか?」
リヒトは今日一日セレスが仕事しているところを見学することになった。セレスの後ろに座って患者とのやり取りを見ている。
「ココ、怪我してしまって痛いんです。」
そう言って患者が指差した傷は膿が出ておりジュクジュクしている。
「わかりました。では処置していきますね。」
セレスは傷を見るなり薬をすぐに用意した。惜しみなくたっぷりとつけていく。すると膿が出てジュクジュクしていた傷がゆっくりと乾き瘡蓋に変わっていく。
「えっ…」
後ろで見ていたリヒトは思わず声が漏れた。それは明らかにそこら辺の薬やポーションよりも傷を癒すのが異常に早かったからだ。
「これで今日中には完治すると思います。」
「先生、ありがとうございます!」
「また何かありましたらお越しください。では、お大事に。」
患者は会釈をして扉の外へ出て行った。リヒトはすぐにセレスに問いかけた。
「セレス、さっきの薬って?」
「先ほどの薬ですか?あれは私が調合したもので、傷を治すためのものです。」
「あんなに早く治るなんて……あれって、天使の血か?」
リヒトは不安そうな顔をしている。
天使の血は傷を癒す能力が高い。そのため、かつては医療の場では薬と調合し、使っていた。だが、その血を求めるあまり天使の虐殺が増え、一時は絶滅寸前まで減ったことがあるのだ。今は医療で天使の血を使うことは緊急時を除き法の下、禁止されている。
だがセレスが使っている薬は歴史として残っているあの薬とすごく似ている。
「確かにあの薬は血が入っています。ですが、天使の血は使用していません。」
天使の血を使ってないと言う言葉に安堵の表情を浮かべるリヒト。だが、薬には血は入っていると言ったセレス。じゃあ誰の血なんだ?と言う疑問をぶつけようとリヒトが口を開いた時、扉が勢いよく開いた。2人は思わず扉の方に視線を向ける。
入ってきたのは慌てた様子の男性。腕の中には血で真っ赤になった少女がいる。
リヒトは少し顔が強張った。
「どうされたんですか。」
落ち着いた声色でセレスは男性に問いかける。
「た、助けてください!娘が!目を離した隙に、ナイフを触って、腕から血が!止血しても止まらないんです!」
男性は少女の父親のようで取り乱していて言葉を発するのもままならないようだ。
「落ち着いてください。とりあえずこのベットに寝かせてください。」
セレスは冷静に指示を飛ばす。
ふとリヒトを見ると顔面蒼白で立ち尽くしている。
「リヒトさん、気分が悪くなったのなら部屋に戻っていてください。」
処置の準備を進めながらリヒトに視線を向けずに言い放つ。その声はいつもの温かく柔らかい声とは違う冷たい声色。気を使う余裕がない。
「だ、大丈夫…!」
「大丈夫ではないでしょう。顔色が真っ白ですよ。無理せず休んでください。」
まだ何か言おうとしたが、大丈夫ではないのは図星。リヒトは「……わかった」と言って部屋に戻ることにした。診察室を出る直前に視界の端に見えた、セレスが持っていたのはメス。それを違和感と思えないほどリヒトは追い詰められていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
コンコンというノックの音がが響いた。
「失礼します。リヒトさん、入ってもよろしいですか?」
部屋から返事はない。一瞬のためらったが セレスはそっとドアノブに手をかけ、そのまま部屋へ入った。
そこにはベットでぐっすり眠っているリヒト。
「リヒトさん、血が苦手だったんですね。知りませんでした。」
眠るリヒトの疲れ切った顔を優しく撫でる。
「怖い思いをさせてしまいました。すいません。今はゆっくり眠ってください。」
セレスはそう呟くとリヒトに布団を掛け直し静かに部屋を出て行った。