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「姐さん!やっぱり医務室に行くのやめましょうよ!」
茉莉花が舌打ちをした直後、苛立ったように声をあげた。
「治療薬なら私が貰ってきます!夏蝶を医務室に連れて行ってもあの医者は手当なんてしてくれません!それに、治療薬だって使わせてくれるかどうかも分からないんですよ!?」
「そうね」
茉莉花の感情的な声とは対照的に、金襴は冷静な声で言うと、それ以上口を開くことはせず、こちらを見ることもなくただ前だけを向いて医務室へと歩く。
そんな無情とも思える金襴の振る舞いに、茉莉花はギリッと奥歯を噛み締めた。
「悔しくないんですかッ!?」
茉莉花が吼えるように叫んだ。鼓膜を揺らすほどの声量に、金襴の腕に抱かれている夏蝶が肩がビクリと跳ね上がった。
この叫びには流石の金襴も歩みを止め、後ろを振り返る。
怒りから来る身の震えを隠すこともせず、茉莉花は全身で怒りの感情を表していた。小町と呼ばれるその顔と、細い首筋には青筋が浮き立ち、愛らしかった目は恐ろしいほど釣り上がり、金襴を睨んでいた。口元も犬が威嚇するように歯が剥きだされていた。まるで般若のように変貌している。
しかし、金襴もそれだけで怯えるような弱い女ではなかった。
金襴はすぐに前を向き、また歩き出す。
「姐さん!」
またしても吼える茉莉花の声に被せるように、金襴が口を開いた。
「あなた、さっき治療薬は自分が貰ってくると言ったわね。どう言って貰ってくるつもりなの?」
「…っ、そ…それは…」
口ごもる茉莉花。釣り上げられていた目はバツが悪そうに金襴から背けられ、目線が宙をさ迷っている。
「薬の無断使用、不正使用は禁じられてる。特に、夏蝶に使った場合は夏蝶も罰を受けるのは知っているでしょう?
たしかに、真正面から治療してくれなんて策は愚策よ。でもこの策じゃないと、夏蝶とあなたを守れないの」
その発言に、茉莉花は弾かれたように顔をあげた。
「でも、私より夏蝶の方が……!!」
「それは言わない約束でしょう」
茉莉花の唇に細い人差し指が添えられた。先程まで前を向いていた金襴が、一瞬の瞬きのうちにこちらに振り向き茉莉花を黙らせたのだ。
渋々と口を閉じた茉莉花を見て金襴はようやく唇から指を離すと、喋っている間に着いてしまった医務室の襖に声を掛けた。
「永武先生、いらっしゃる?」
「あぁ、いるよ」
襖の向こう側から聞こえた男の声に、金襴は襖を開けた。