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土銀です。
流血の表現がすこーしありますがそこまでグロくありませんのでご安心を。
銀さんがなんかメンヘラチックな感じになってます。
万事屋では灯りもつけずに座り込む男がいた。 甘ったるいパフェも、ジャンプも、今日は手につかない。
坂田銀時は、何も考えていないような顔で、何もかもを考えすぎていた。
昼間、ほんの些細なことだ。 土方と口喧嘩をした。いつも通り、軽口を叩き合って、いつも通り別れたはずだった。
なのに。
(……なんであんな言い方したんだ、俺)
腹が立った。 自分に。土方に。どうしようもなく。
うまく言えない感情が胸の奥でぐちゃぐちゃに絡まる。 声に出すほど素直でもない。誰かに当たり散らすほど子供でもない。
ただ、やけに息が苦しい。
銀時はゆっくりと自分の手首に視線を落とす。
白い肌に、増えていく細い線。
別に死にたいわけじゃない。 ただ、少しだけ、このどうしようもない感情を外に出したかっただけだ。
痛みは一瞬で、すぐに鈍くなる。 それが逆に、落ち着く。
「……バカじゃねぇの、俺」
誰もいない部屋で、かすれた声が落ちた。
数日後。
屯所帰りにふらりと万事屋へ寄った 土方十四郎は、いつものようにソファに寝転がる銀時に違和感を覚えた。
袖が、妙に長い。
まるで、何かを隠すかのように。
「おい」
返事はない。漫画で顔を隠したまま。
土方は無言でその手首を掴んだ。
ぴくり、と銀時の身体が揺れる。
袖を引く。
白い肌に、いくつも重なった赤い跡。
時間差で理解が追いつく。
「……これ、どうした」
怒鳴るでもなく、静かな声だった。
銀時は一瞬だけ目を逸らして、 それから諦めたように土方を見る。
「別に。転んだだけだ。」
嘘だとわかるくらい、弱い声。
沈黙が落ちる。
土方はもう一度だけ聞く。
「……本当か?」
責める声ではなかった。
その瞬間。
銀時の喉がひくりと震えた。
泣くつもりなんて、なかった。
強がるつもりだった。 笑って誤魔化すつもりだった。
なのに。
ぽたり、と頬を伝う。
自分でも理解が追いつかないまま、涙が落ちていた。
「……あ」
間抜けな声が漏れる。
銀時はただ、呆然とした顔で涙をこぼしている。
悲しいとか、辛いとか、そんな言葉は出ない。 ただ、それらを伝えるには十分なものが溢れ出す。
土方はそれを見て、全てを察した。
何かあったんだろう。 自分との喧嘩かもしれない。 昔のことかもしれない。 理由なんて、どうでもいい。
銀時が、こんな顔をするほど、追い詰められていたという事実だけで十分だった。
「……バカ」
吐き捨てるように言って、 そのまま強く抱き寄せる。
煙草の匂いと、制服の硬い感触。
銀時の身体が、一瞬だけ固まる。
「一人で勝手に抱え込むな」
低い声が、耳元に落ちる。
銀時は抵抗しなかった。
代わりに、そっと土方の背中を掴む。
「……別に、死ぬ気とかじゃ無かったんだ…」
「分かってる」
「……ちょっとムカついたんだ」
「俺にか」
小さく頷く。
土方はため息をつく。
「なら殴れ。俺を」
「バカ言え」
かすれた笑い声が、ようやく戻る。
けれど、涙は止まらない。
土方は何も言わず、ただ抱きしめる腕の力を少しだけ強めた。
銀時の震えが、ゆっくりと収まっていく。
抱きしめられたまま、しばらく動けなかった
銀時は、やっとのことで鼻をすすった。
涙は止まらないくせに、頭は妙に冷えている。
(……最悪だ。こんな顔、こいつに見られるとか)
「ちょっと離せ」
掠れた声で言うと、すぐに腕は緩んだ。 だが今度は手首を取られる。
「薬箱どこだ」
有無を言わせない声音。
「別にいらねぇって──」
「うるせぇ」
ぴしゃりと遮られる。
銀時は観念して、棚を顎で指した。
畳の上に胡座をかいた
土方は、無言で包帯を広げる。
さっきまで抱きしめていたくせに、今はやけに冷静な顔をしている。
けれど、消毒液を含ませた布が手首に触れた瞬間、わずかに眉が寄った。
「……っ」
銀時の肩が揺れる。
「しみるか」
「別に」
強がりが震える。
土方は何も言わず、傷の一つ一つを確かめる。 浅いものばかりだが、数が多い。
その事実に、喉の奥が重くなる。
「……もうこんな事すんなよ」
低い声。
銀時は目を逸らしたまま、また涙をこぼす。
「今度からムカついたら俺にちゃんと言え」
躊躇はなかった。 優しいくせに、真っ直ぐで、逃げ道をくれない言い方。
「……言えるかよ」
「言え」
即答。
包帯を巻く手は丁寧なのに、言葉は容赦がない。
「俺にムカついたなら俺にぶつけろ。勝手に自分削って帳尻合わせんな」
銀時の呼吸が乱れる。
図星だった。
土方にぶつければ、また喧嘩になる。 嫌われるかもしれない。 面倒くさいと思われるかもしれない。
だから飲み込んだ。
その結果がこれだ。
「……お前に嫌われんの、やなんだよ」
ぽつりと落ちる本音。
自分で言って、自分で固まる。
土方の手が止まった。
一瞬の沈黙。
それから、包帯を結び終えて、銀時の手首を両手で包む。
「嫌うかよ」
呆れたように、けれど優しく。
「そんなことで離れるなら、とっくに離れてる」
銀時の視界がまた滲む。
「……泣くな」
「泣いてねぇ」
即答するが、涙は止まらない。
土方はため息をつき、親指で乱暴に頬の涙を拭う。
「強がるのもほどほどにしろ。俺の前くらい」
そのまま額を軽くぶつける。
「次やったらマジで怒るからな」
「もう怒ってんだろ」
「当たり前だ」
でも腕は優しく、再び銀時を引き寄せる。
今度は壊れ物みたいに。
銀時は包帯の巻かれた手で、そっと土方の背を掴む。
「……言えば、聞くか?」
「ああ」
「ちゃんと?」
「ちゃんとだ」
間髪入れない返事。
それが、何より効いた。
銀時は小さく息を吐く。
「じゃあ今度ムカついたら、まず殴る」
「やめろ。まず言え」
かすかに笑いが混じる。
涙はまだ止まらないけれど、 さっきまでの孤独な痛みとは違う。
包帯越しに伝わる体温が、じんわりと胸に広がっていた。