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1.深海お嬢はまだ地獄
リヅが窓辺で曇った空を眺めている。海が死んで数日が経った。当たり前だが、海はまだ転生してこない。
「リヅ、お前仕事は?」
院瀬見が廊下から顔を出した。今日は院瀬見が外せない用事があって、やむなくリヅと別の隊員とで任務に向かうことになっていた。
「あ、もう行かんとか…」
リヅは時計を見てそう言うと、椅子から立ち上がり、ぱたぱたと走っていった。
「深海お嬢はまだ地獄か…」
2.幼き日
『姉ちゃん!鬼ごっこしようよ!』
『姉ちゃんどこ行くの?俺も行く!』
姉ちゃん!
姉ちゃん…
姉ちゃん─
『姉ちゃん…どうして俺を助けてくれなかったの…?』
「ッ!!」
その日、院瀬見は布団の中で勢いよく目を覚ました。
気づけば空は明るくなっている。いつの間に帰ってきて、いつの間に寝たのだろう。記憶がない。
「なんで…って…」
院瀬見は頬に流れ落ちる汗を袖で拭いた。
最近、夢に家族が出てくる。
父や母、弟と遊びに行った記憶。弟と公園で鬼ごっこをした記憶。弟が紅く染まる夕陽の中、外へ出ていった記憶。父と母が血相を変えて家を飛び出す記憶。
そして、森の中から発見された家族の死に顔。
「クソったれ…」
院瀬見はその苦い記憶を打ち消すように唇を噛んだ。
本当はあの深海の悪魔も殺すつもりだった。だが殺せなかった。 狼の治療をしていたからよく見ていなかったものの、リヅがその深海の悪魔─海となにか話し込んでいるのがわかった。
リヅと海を見ていると何故か、まるで自分とカザメを見ている感覚に陥った。だから殺すに殺せなかった。
「…銃の悪魔をぶっ殺すまで、私に安眠の日は来ねぇのかもしんねぇな…」
院瀬見は嫌な思い出を無理やり振り払うように頭を振ると、スーツ姿に着替えたのち、家を出ていった。
3.天敵
「おはよう狼さん」
「よ─いや私じゃねぇのかよ」
天使の悪魔が院瀬見を手を振った。だが天使からすると、手を振ったのは狼に対してらしい。
「病の悪魔。どうだった?」
「前にも同じこと聞かれた気ィすんな。まぁ使いやすかったよ」
「そっか。君は代償として君の友人の命を捧げているんだから、無駄に使うなよ」
「…」
そう、院瀬見の親友・チヅルもまた、自分が巻き込んだせいで死んだのだ。無理やりにでも近づかないでいれば死なせることはなかったのに。
「…私の過去、クソみてぇなことしかねぇな」
院瀬見はぼそりと呟いた。
過去が怖い。辛い。思い出したくない。
「…!」
ふと、視界に入ったものを見る。
「なんだこれ…」
黒い毛が生えた物体だった。かなり大きい。
「こんなとこに野良犬か…?いや室内だぞ?」
院瀬見が抱きあげようとした、その時。
ドッ!!
「グハァ!!!」
塊が院瀬見の胸部に直撃した。そのまま後ろ向きに倒れ込む。
「…院瀬見先輩?何してはるんです?」
「ッ…」
たまたま近くにいたリヅが音に気づき院瀬見の元に駆け寄る。院瀬見は仰向けで鼻血を出しながら叫んだ。
「リヅ逃げろ!!」
「は!?」
リヅが聞き返す。突然にそんなこと言われても意味が分からない。
「…コイツを殺せ!!」
「はぁ!?」
「逃げろ」と言われたのに「殺せ」と言われる。どっちを聞けば良いのだろう。
「どっ…倒したらええんやね!?」
問いかけながら抜刀するリヅに襲いかかる悪魔。
その顔を見て、リヅは絶句した。
「…狼さん…!?」
悪魔は、見る影もなくなった狼であった。
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