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10 - 第10話 「過去と狼・弐」

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2023年02月08日

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1.敬愛・崇拝

リヅは絶句したまま動けなかった。

今目の前にいるのは、敵となって襲いかかってくる”狼”なのだ。

「院瀬見先輩!!」

リヅはどうしていいか分からなくて、咄嗟に契約者である院瀬見を呼んだ。

だが、肝心の院瀬見は仰向けで鼻血を流したまま気絶していた。

「クソッ…!こんな時に!!」

襲いかかる狼を避ける。近づこうと思っているのにどんどん離れていってしまう。

(体の色が違う。目も違う。オオカミ様じゃない)

リヅは攻撃を交わしながら思った。いくら実力のあるリヅでも、敬愛する狼のことなんて殺せるはずがなかった。

(クソッ…クソッ…クソ…ッ!!どうしたらええねん…!!)

リヅは刀で攻撃を防ぐ一方で、全く間合いに入れない。リヅの刀は接近しなければ意味がないというのに。

リヅがふと前を見る。

いつの間にか、目の前に狼がいた。

「ッ!!」

ガガガ!!と轟音が鳴り響く。リヅは間一髪で狼の攻撃を避けた。

「危ねぇ…」

立て直そうとして刀に目を向けたリヅは背筋が凍った。

刀が、折れていた。

「嘘やろ…!?」

狼は続けざまに攻撃を仕掛けた。

2.過去への恐怖

物凄い音とともに、リヅと狼が外へと吹っ飛んだ。リヅは素早く受け身を取ったため無傷だ。だが、ショックでそのまま動けなくなっていた。

(刀が折れた…!!代わりになるようなもんは…!?)

リヅが向かい来る攻撃を必死に避ける。

すると、どこからか声がした。

「可哀想にねェ〜…。君はただ僕の手のひらで踊らされているだけに過ぎないのに…」

「…!?」

その時、見たこともない悪魔が姿を現した。

「見た目に囚われちゃダメだよォ〜?」

なんとも直視し難い見た目をした悪魔だった。

「こんにちはァ〜♪僕、過去の悪魔ァ」

3.過去の悪魔

「過去の悪魔だァ?」

リヅは折れた刀を向けて聞き返した。

「そうだよォ?未来の悪魔なら知ってるよねェ?」

リヅは黙ったままだ。過去の悪魔─と名乗るそれはグニグニと動いて気持ち悪い。

「お前と狼の関係はなんや」

「関係ィ?そんなものないよォ。僕はただコイツの命が欲しくて操ってるだけだからさァ」

悪魔は狼を指さして言う。よく見れば木の根のようなもので繋がっている。

「悪魔の命なんて何に使うねん。契約か?」

「な〜んにも使わないよォ?僕はこの狼に一度殺された身だからねェ〜♪一度忘れられたにも関わらず、また最近強くなってる狼なんて癪に障るからさァ?」

はぁー、とリヅがこれみよがしにため息を吐く。

「お前ふざけんなよ。どんだけ僕の癇に障ることやったと思ってんねん。覚悟しとけよぶっ殺したるわ」

「さァ、できるかなァ?できるかなァ?」

悪魔はワクワクしたような口調で言う。

リヅは折れた刀を構え直して悪魔に飛びかかった。

悪魔が再び狼を操って技を交わす。

(全部コイツのせいやったんや。僕が攻撃できひんかったんはオオカミ様やと思っとったから。操られてんのやったら本体を狙えば勝機はある…)

そんな簡単なことに惑わされていた自分と、惑わせていた悪魔に腹が立った。

「テんメェ…考えれば考えるほど腹立つわ。よくもこの僕を弄びやがったなァ…」

リヅが力を込めて刀を振る。だが当然ながら先がない刀を振っても効果はない。

「ねぇねぇ知ってるゥ?」

気がつくと、悪魔がリヅのすぐ横に立っていた。

「未来も怖いけどねェ?実は過去も怖いんだよォ?」

ドガガガガ!!と音を立ててリヅが吹き飛ばされる。背中を強打し上手く動けない。悪魔がそのあとを着いてきた。

「君も悪魔だって聞いたからちょっとは強いのかなァ〜って思ってたけどォ〜…全然そんなことなかったねェ〜…」

悪魔が一度口を閉じ、もう一度開いた。

所詮はこんなもんかァ〜

その言葉を聞いた途端、リヅの中の何かがブチッと切れた音がした。

4.地雷

「…」

「?どうしたのォ?もうおしまいィ?」

リヅは黙り続けたままだ。

「こーんなに弱いとは思ってなかったよォ〜もっと戦いたかっ…た…な…」

悪魔は言葉を失った。

「なにィィ!?」

なんと、リヅが持っていた折れた刀がみるみるうちに伸びて元通りになっていくではないか。

「なぁテメェ、知ってるか?」

いつの間にか、目の前にいたはずのリヅが悪魔の背後に移動していた。

悪魔に初めて焦りの色が見え始めた。

そして、その気持ち悪い悪魔の耳元で呟く。

「僕は”こんなもんか”っちゅう言葉が嫌いやねん。最期の言葉が僕の地雷で残念やったな。地獄で後悔しろクズ悪魔」

悪魔はドス黒い恨みと復讐を込めたリヅの声を聞いた。

悪魔に、そこから先の記憶はなかった。

5.おかえりなさい

悪魔と狼が繋がっていた木の根が塵となって消えた。支えがなくなった狼がそのまま垂直落下してくる。

「オオカミ様!!」

間一髪で狼の大きな体をキャッチした。そして地面にゆっくり下ろす。

「オオカミ様!!大丈夫ですか!?しっかり…!」

返事はない。だが、黒く染まったその体が綺麗な灰色に戻り、リヅはやっと安心した。

「良かった…」

本部へと戻った。院瀬見は両鼻にティッシュを詰められ、頭には包帯がぐるぐる巻きになっていた。どうやら先刻気絶していたのは頭を強く打ったかららしい。

「院瀬見先輩…寝てた方がええですよ」

「心配…すん…な…ちょっと…目が…回る…だけだから…」

そう言うと、院瀬見はまた受け身も取らずに顔面からぶっ倒れた。

「いや、そんな漫画みたいなことあります!?」

狼も意識が戻ったようだが、過去の悪魔に乗っ取られていた時の意識はなく、自分のせいでとリヅに何度も謝っていた。

話によると、過去の悪魔が今や伝説の悪魔といわれている狼を操れたのは、院瀬見が自分の暗い過去を思い出し恐怖したことで、過去の悪魔が勢力を強めたからなんだそう。

吹き飛んだ壁に関しては、今回は防ぎようのないことだったため不問とされた。だが修理費の三分の一を院瀬見、リヅが出すハメになり、リヅは不満そうだった。

「僕関係ないやん…助けなんだら良かったわ」

「あ゙ぁん!?テメェ最低だな!!」

再び意識が戻り仰向けで担架に揺られる院瀬見が食ってかかる。

「嘘に決まってんやん」

リヅの笑い声が小さく響いた。

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