2025.3.10
青目線
「実は……好き…なんだよねw」
「え!?まじで!?!!」
いつもの撮影とは違い、アナログゲームをするからとワイテハウスに集合だった。
軽やかに玄関の扉を開くと彼の靴があった。
リビングへ繋がるこの扉を開けば柔らかい笑顔で出迎えてくれるんだ。
手をかける。
聞こえてきた大好きな人の声。
ずっとずっと聞きたかった告白の言葉。
でも、俺への言葉じゃない。
ぶるっくと同じ扉の向こう側にいるなかむの驚きと喜びが混じった声。
そうか、両思い…なんだね。
俺もぶるっくのことが好きだった。
いや、今でも好き、大好き。
優しくて暖かくて、ときに子供っぽいけれど、妙に物事を俯瞰してみていたり、俺には理解できないくらい色々なことを考えていたり、そんな彼が大好きだ。
もしかしたら同じ気持ちなのかも知れないと思っていたけど、どうやらただの勘違いだったみたい。
脱いだばかりのスニーカーに再び足を通す。
重たい扉を開くと鼻を掠めるペトリコール。
グループチャットに体調が悪いため、今日の撮影には行けそうにないと嘘混じりの本音を吐く。
「あーあ!失恋、しちゃったなぁ…w」
ペダルを思いっきり踏み込む。
漕ぎ出してすぐに何かが頬を濡らす。
……降ってきた。
急いで帰って風呂に入って寝てしまおう。
そうすれば、そうすればきっと…
どんどん雨は強くなり視界が流れていく。
家に着いたころには身体まで濡れてしまっていた。
紅茶に入れた角砂糖が溶けるように、心が蝕まれてゆく。ぼろぼろと涙が溢れる。
泣き止んでは彼の暖かい手を思い出してまた泣く。年甲斐もなくそんなことを繰り返しているせいで酷く頭が痛む。
初めてじゃないのに初めてだ。
甲高いインターホンが耳を劈く。
ろくに回らない頭で誰が来たかも見ずに鍵を開けにいく。
「……はぃ”」
「あっきんさん、大丈ぶー…って絶対大丈夫じゃないよねぇ!?泣くほどキツかった?ごめんねっ!あれから連絡なかったから心配で……」
「ぶるっ、く……な、んで…」
「ぅわっ!あぶな……とりあえずベッド行こ?……きんさん…?」
姿を見て余計に涙が出てくる。
好きな人なのに会いたくなかった。
俺なんかに優しくしないでくれよ。
なかむのことが好きなくせに、俺に振り向いてくれないのに、これ以上好きにさせないで。
フライパンの上で踊る夢をみた。
口渇感で目を覚ます。
記憶とは違うふかふかな布団の上。
最後にみた光景が玄関で終わっているため、おそらく気絶した俺をここまで運んでくれたのだろう。
ぼーっとしていると突如動いたドアノブ。起き上がっている俺をみてかけよってくる彼と、優しいご飯の匂いが流れ込む。
あぁ、やっぱり好きだなぁ。
じわりと感情が溢れ出てくる。
そんな俺をみて慌てる彼。
ごめんね、ごめんね。迷惑かけてごめんね。
まだ君のこと好きみたい。
「なんでっきたの…?」
「…きんさんのことが好きだからだよ。」
「……は、」
「あのね、僕きんさんのことが好きなの。大好きで心配だったから見にきたの。こんなに泣いちゃうなんて珍しいし、もしなんかあったならお話しして?そんなに僕って頼りない…?」
「っ!!うるさい……うるさいっ!!俺のこと、なんかっ…好きじゃ、ない…くせに……」
「え、なんっ」
「ぶるっくは小柄でっ、可愛らしい子がっ好みでしょ!こんなっ俺なんかよりなかむのほうが好きなんでしょ!?なんでそんな嘘つくのっ!そんなん言われたって…余計にっ、苦しいよ…」
子供みたいにしゃくり上げながら声を荒げる。自分で言っておきながら、その事実に心臓がジクジクと痛む。
嘘つき。なかむと両思いじゃん。
俺のことなんて好きじゃないくせに。
「…なんか勘違いしてるみたいだからもう一回いうね?僕の言葉と気持ち、ちゃんと受け取ってよ。」
「っ…」
「きんときのことが好き。きんときは…僕のこと嫌い?」
「…本当に、信じて…いいの……?」
「きんさんに嘘ついたこと…はある、けど悲しむような嘘はつかないよ。」
「ほら、おいで?きんさん。」
彼の匂いに包まれたとき、全ての痛みが消えた気がした。
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