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3章 魔法世界の非魔法少女達


「い…いやだ……それだけは……やめてくれ……」


閉ざされた部屋の中、大人達に囲まれたピアーニャは、涙目で懇願している。

恐怖、絶望、無力感……その全てを顔に表し、迫る大人達の手を怯える目で見つめて……。


「ひっ……」


大人達の好奇の視線と笑い声が部屋の中に響き渡る。

1人の男がピアーニャの耳元で囁くと、強張った体から力が抜けていった。安心…ではなく、諦めによって。

悲痛な叫びが、朝のエインデルブルグに響き渡った。




魔法のリージョン『ファナリア』にあるニーニルの町。

手を繋いで歩く姉妹のような2人の姿が、人目を集めながら商店街を歩いている。


「ねぇねぇ、あの2人姉妹かな? あんまり似てないけど」

「お前どっちの方が好みだ?」

「ハァハァ……もちろん幼女に決まってるだろぉ」

「兵士さんこっちでーす」


ヒソヒソと語る周囲の視線に気づかないフリをしながら、姉と思われて少し嬉しいミューゼはとある店へとやってきた。


「いらっしゃいませー……あっ、アリエッタちゃん!」

「なんですって!?」

「ひうっ!?」


店の奥から猛スピードで出てきた『フラウリージェ』の店長ノエラに驚き、アリエッタはミューゼの後ろに隠れてしまった。


「おっとっと……大丈夫よアリエッタ。1回だけだからね~」

「だ、だいじょうぶ?」(また着せ替えおかいものなのか? 大丈夫ってどういう事? 本当に大丈夫?)

「あらら、前もって聞いていた通り、怖がっていますのね。今日はもみくちゃにしませんから安心してね。おめかしするだけですからね~♪」


アリエッタに微笑みながら、店の奥へと案内する店長。その大人の雰囲気を目の当たりにし、アリエッタは頬を紅く染めていた。


(凄い大人の魅力だ……何言ってるのか分からないけど、ドキドキする……)

(おやおや、ノエラさんに見とれちゃって。ちょっと嫉妬しちゃうなー)


名残惜しそうな店員達に見送られ、アリエッタとミューゼは奥の部屋へとやってきた。その部屋には沢山の布と裁縫道具、そして大きな姿見と可愛らしい服が飾ってある。


(えーっと……もしかしてこれ? さすがに違うよね? 可愛すぎて僕にはちょっと……)


アリエッタは、どう見ても自分のサイズにピッタリな服を呆然と見つめている。その服は青い布をベースとし、フリルたっぷり、パニエで広がるミニスカート、大きなリボン……初めて店に来た時に着せられていたものに比べ、完璧なまでにアリエッタの記憶にある魔法少女風の衣装になっていた。


(いやたしかにみゅーぜとか魔法っぽいの使ってるけど、僕は違うし。そもそもこれ着て何するんだ? まさか普段着じゃないよね?)

「あら、気に入ってもらえたのかしら?」

「どうでしょう。でもビックリしてますね。もしかしたら着てる自分を想像してドキドキしているのかも?」


都合のいいように解釈すると、アリエッタを怖がらせないようにと、撫でながらゆっくりと服を脱がせ始める。以前のように強引ではない為、アリエッタも恥ずかしそうにしながら大人しく従っている。


(うぅ……僕はもう女の子……僕…私は女の子……子供……これ着たらみゅーぜが喜ぶから……大丈夫大丈夫)


心の中で、自分に一生懸命言い聞かせながら、身を任せていった。そして……


『キャー!!』

「かわいい!」

「ほしい!」

「味見したい!」


顔を真っ赤にしながら店の方に戻ると、一気に騒がしくなった。

銀色のサイドテールの根本には葉っぱのような大きな飾りがつけられ、服のフリルやリボンで可愛らしさが際立っている。それはまさに、アリエッタのよく知る魔法少女といった格好だった。

アリエッタが褒められる程にミューゼも嬉しくなり、なぜかドヤ顔になっている。

この後は着せ替えられる事は無かったものの、しばらくの間店員達に囲まれて、ひたすら可愛がられる事になったのだった。

そしてミューゼはノエラに礼を言い、アリエッタの手を引いて店を出た。


「ふぇ!?」(えっ、このまま!?)


アリエッタにとって、完璧な魔法少女の格好はコスプレである。それを当たり前の様に着て、外を出歩く勇気はもちろん無い。


「みゅーぜ? みゅーぜ!?」(恥ずかしいよ!?)

「ん? 大丈夫よ、アリエッタの為の補助金おかねだから、こうやって服を買い与える事も必要経費になるの。って言っても分かんないだろうけど」

「だ、だいじょーぶ?」(って事は、こーゆーのが普通の子供服って事? なら我慢するけど……いたかなぁ、こんな服着てる子)


意思疎通は完全に失敗しているが、保護者ミューゼに『大丈夫』と言われてしまっては、従うしかない。羞恥と緊張で身を固くしながら、アリエッタは店を出た。


「!?」

「んふふ~」


早速沢山の視線を集めるアリエッタ。恥ずかしそうにミューゼにくっついて歩く。それが原因で、さらに視線が生暖かくなる。

対してミューゼは顔だけで『どう? 私のアリエッタは可愛いでしょ』と表現しながら、堂々と歩いている。

そしてそのまま他に何かをするでもなく、すぐに帰路についたのだった。


「わーお♡ アリエッタ可愛くなったのよ~」


家では出かける準備を済ませたパフィが待っていた。それを見てアリエッタは、これからどこかに出かけると理解する。


(もしかして、僕の能力が魔法だと思われてるのかな? だからこんな魔法を使いそうな女の子の恰好を? これは…役に立つチャンスでは!? よーし、今までの成果を見せる時だ!)


また知らない所に冒険に行くのかと思い、早速持ち物チェックをして、お出かけ用のポーチに詰め込んでいく。出かけると大きな事に巻き込まれているせいで、パフィが武器を持っている姿を見て、気を引き締めたのだ。


(ん~、筆はここでいいかな。お菓子も少し入れて……余裕で全部入った。今回はお試しだな。2人の事は絶対に守らないと)

「出かけるって分かってるのよ? 何言ってるか分からないハズなのに、相変わらず賢いのよ」

「でもいいの? 別に危ない所にいくわけじゃないんだけど」

「身を守れる手段は無駄じゃないのよ。アリエッタは可愛いから十分危ないのよ」


実はガッチリと武器カトラリーまで準備しているのは、単純にアリエッタが心配だからである。着せ替えの事件があってからというもの、パフィは少しずつ過保護になり始めていた。

原因が原因なだけに、過剰に見えてもミューゼは強く言う事が出来ないでいる。


(これでよしっと、あとは待てばいいのかな?)


準備が出来たアリエッタは、ポーチを身に着けてパフィの近くへと移動した。

それを見てちょっと困った顔になりながらも、ミューゼは杖を手に取って、アリエッタとパフィは手を繋いで外へと出た。




「着いたー。アリエッタは大丈夫?」

「ちゃんと目隠ししたのよ」

(? えーっと、もしかしてまた森?)


転移する為に塔へやってきた3人。アリエッタが驚かないように目を隠し、何事も無く外へと出る。

そこはアリエッタが見た事無い程の、大きな街だった。建物が浮き、建物同士が光の線で繋がり、大きな道を浮かんで行き来する車輪のない箱のような乗り物。そしてニーニルでは見る事が無かった人間以外の生き物達が沢山暮らしている。

その光景を見たアリエッタは、大きく口を開けて驚いていた。


(なにこれ、ファンタジー世界ってやつ? ゲームとかアニメでも見た事ないのばかりだし、あれって異種族? 普通は耳が尖ってたり、獣耳ついてたりとかじゃないの? 現実ってやっぱり想像してたのと違うのか)


少し見渡しただけで、毛の代わりに葉が生えている緑色の肌の人、下半身が無く浮いている無機物のような人、比喩ではなく全身が黒い生き物、鱗を持つ様々な色の人、なんだか丸っこいフサフサの生き物など、アリエッタの知っている『人間』とは違う人種が行き交っている。

ここは王都エインデルブルグ。ファナリアの中心とも言える場所である。


「やっぱ驚いてるねー。ニーニルにはあんまり他のリージョンの人って来ないから」

「人の生態が似てるって事で、ラスィーテとかはニーニルの管轄になってるのよね。グラウレスタに行った時は、偶然他の種族いなかったから、アリエッタが見るのは初めてなのよ」

「シーカーはほとんどがファナリアの人だからね。ここにいてもアリエッタが動かないだろうし、本部に行こっか」


呆然とするアリエッタの手を引いて、リージョンシーカー本部へとやってきた3人。今回やってきたのはアリエッタの為に色々見せたり、反応を見て何か分かる事が無いか調査する為である。

パフィが受付で話をすると、ホールで待つように言われ、指定された位置でこの後の事を話し始める。少し話していると、すぐに待ち人はやってきた。


「よ…よくきたなおまえたち。アリエッタ、げんきだったか? ハハハ」


姿を現したのは、必死に作り笑いをするピアーニャだった。

からふるシーカーズ

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